飛幡祐規 パリの窓から(32) : 広島・長崎70周年と核兵器禁止条約 | |||||||
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第32回・2015年8月13日掲載広島・長崎70周年と核兵器禁止条約8月前半のパリはヴァカンスたけなわの時期で、住民の数が最も少なくなる。しかし、広島・長崎への原爆投下日にあたる6日から9日にかけて、今年も市民による追悼行事と核兵器廃絶を求めるアクションが行われた。 フランスはご存知のとおり核保有国であり、現在約16000 あると言われる核兵器のうち300を有する。しかし、8月6日から9日かけて核兵器に反対する「断食」(ハンガーストライキ)とアクションは1982年、生物学者の故テオドール・モノー(1902-2000)、1983年に平和主義者の故ソランジュ・フェルネ(1934-2006)などによって始められた。以後、この非暴力アクションは、フランスの核攻撃司令部が置かれていたパリ近郊のタヴェルニーで30年間近く、「監視の家」や「核兵器ストップ!」、「脱原発全国網」など、複数の反核市民団体によって行われていた。タヴェルニーの司令部が閉鎖されてからはパリに移り、広島・長崎70周年の今年はレピュブリック広場で催された。
この時期は休暇でパリを離れる人が多いうえ、今年は8月1日から10日まで、核廃棄物最終処理場建設予定地のビュールでキャンプ(市民の意見交換合宿)が行われたため、反原発や環境関係の活動家たちは大勢そちらに集まった。したがって、核兵器廃絶を求める断食には老年が多かった。それでも近年はドイツ、イギリス、アメリカ、日本などとの国際連帯が深まっている。パリ在住の日本人も(少数だが)式典の音楽演奏、舞踊、アクションなどに参加し、2度目のハンガーストライキを貫徹した日本人がいる。今年はパリで約80人、世界数カ所で220人がこの国際ハンガーストライキに参加した。少数だが若い参加者もいて、核廃絶を求める運動は引き継がれている。 毎年行われる「ダイ・イン」などの演出では、黒装束と白い仮面をつけた核保有国(9か国にNATOの基地がある国を加えて14か国)を象徴する人物たちが、それぞれの国の旗と核兵器の数を書いた紙をもち、地面に横たわって死を模倣する。若者(子ども)がそこに来て、彼らの紙を取り去る(=核兵器廃棄)と、死人たちは仮面を外して笑顔で立ち上がる。おとなの世界は核を廃絶することができなかったが、それを実現しなければならない、若い世代がそれを実現するのだ、という意志をあらわしたアクションだ。 核保有国のフランスで、複数の反核・反原発、非暴力の市民団体を集めた「核兵器ストップ!」(前身は「核実験ストップ!」)は、仏領ポリネシアでの核実験に反対し、核実験(アルジェリア、ポリネシア)で被曝した軍人とその家族の会AVENの形成にも貢献した。被曝の認定と賠償に関する法律は2010年にようやく制定されたが、911件の賠償申し立てに対して、それが認められた例はまだ16件と非常に少ない。被曝軍人1800人の追跡健康調査の結果によると、平均寿命は60歳(フランス男性の平均は約79歳)、癌疾患が27,5%、その他の疾患(とりわけ心血管系)が65%で、健康な人は7,5%にすぎないという。しかし、国家は99%の疾患について、被曝のせいだと認めないのが現状である。その後、被曝の対象を軍人(とその子孫)に限らず原発労働者、さらに核実験や原子力施設付近の民間人に広げた健康監視と研究を目的として、OBSIVEN というNPOが2011年につくられた。フランスでは被曝について当事者の認識が始まったばかりの状態だ。(http://www.obsiven.org/) フランスでもそうだが今、世界各地の反核市民が力を入れているのが、核兵器禁止条約の締結である。核拡散防止条約(NPT)が核保有国の態度によってほとんど機能しない現実をふまえ、2007年にコスタリカとマレーシア政府が国連に核兵器禁止条約を提出した。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)を通して各地のNGOがこの動きを活性化し、2014年12月に催された核兵器の非人道性に関する第3回国際会議では、議長国のオーストリアが核兵器禁止をよびかける文書「オーストリアの誓約(プレッジ)を発表した。これに基づき、今年5月のNPT再検討会議でも107か国、そして広島と長崎の被爆者も禁止条約制定を訴えたが、最終文書案から「核兵器の非人道性」に関する部分はかなり削られ、USA、イギリス、カナダの反対で文書は採択されなかった。フランス政府はいまだ核抑止論を声高に主張しているが、「唯一の被爆国」(「戦時での」を加えるべき)と言いながら、平和憲法を有する日本政府がこの「オーストリア誓約」に賛同していないことは、日本でももっと認識されるべきだろう(現在113の国・地域が賛同)。昨年末の国連総会、軍縮・国際安全保障問題を扱う第1委員会でも、核兵器使用禁止条約や、国際司法裁判所1996年の「核兵器の威嚇や使用は人道法違反」とする勧告的意見の後追いについて、日本政府は棄権しているのだ。国内では、核兵器のない世界への歩みを国際的に主導していくなどと言いつつ、アメリカに気兼ねして核保有国の後押しをしているのが現実である。 白井聡氏が『永続敗戦論』(2013年、太田出版)で論じた敗戦の否認と対米従属という二重の構造が、ここにも表れている。憲法第9条の解釈を変えた安保法案を強行に通そうとする現在の安倍政権では、「敗戦と過去の罪を認めたくない、海外に派兵したい、謝罪したくない」という本音が抑えきれずに噴出している。侵略戦争と敗戦にいたる歴史と戦争犯罪を直視し、国家としての責任を認めて謝罪や賠償にとりくみ、自国の司法でも戦時中の責任者・犯罪者を裁いたドイツ(フランクフルト・アウシュヴィッツ裁判)とはまったく対照的だ。福島原発事故がいまだ収拾の見込みもなく、誰も責任をとらないまま、川内原発を再稼働させたことも、3.11のあと直ちに脱原発を決めたドイツに照らし合わせると、「否認」の構造が浮かび上がる。70年もつづいた否認のメカニズムを、犠牲者や証人が数少なくなりつつある今、なんとか市民の力で打破しなくてはならないと痛感している。 2015年8月12日 飛幡祐規(たかはたゆうき) ↓「アベ政治を許さない」同時行動も行われた。(パリ・レピュブリック広場) Created by staff01. Last modified on 2015-08-14 16:37:27 Copyright: Default |