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●7月25日「レイバー映画祭2015」で上映される『もうひとつの約束』とはどんな映画なのでしょうか。韓国労働運動に詳しいレイバーネット国際部・安田幸弘さんが解説を寄せました。映画祭詳細

巨大企業サムスンの闇を描く『もうひとつの約束』
サムスンの不都合なインサイド･ストーリー

サムスンという韓国企業がある。日本ではあまり目立たないが、半導体やLED、 スマートフォンなどで有名な世界的企業だ。しかし世界中で愛用されているこれ らサムスンの電気製品に使われている部品は、労働者の命と引き換えに作られて いることをご存知だろうか。 「もうひとつの約束」は韓国の巨大財閥、サムスングループの中核企業であるサ ムスン電子/半導体で実際にあった労災隠しの問題を扱った映画である。

映画のストーリーは簡単だ。若い女子工員が入社してまもなく白血病で命を落と す。発がん性の高い危険な薬品に対し、会社側が十分な防護対策を取らなかった ことによる労災であると主張し、補償を求める遺族。それに対して個人的な疾病 と言い張り、さまざまな妨害工作を続けて労災を隠そうとする会社側。韓国の GDPの2割を稼ぐ「韓国最高の優良企業」による不正に、愛娘を失った父親と労務 士が徒手空拳で立ち向かう。

さて、サムスンのウェブサイトには「サムスンの5つの約束」というページがあ る(この映画のタイトル「もうひとつの約束」は、以前サムスンの広告コピーで 使われていた「もうひとつの家族」と、この「5つの約束」からつけられた)。 このページを見ると、サムスンが守るべき「グローバルリーディングカンパニー としての社会的責任」として、次のような美しい文句が並んでいる。1.法や倫理 を遵守する、2.清潔な組織文化を維持する、3.顧客·株主·従業員を尊重する、4. 環境·安全·健康を重視する、5.グローバル企業市民として社会的責任を果たす、 という「5つの約束」が並んでいる。だが、この映画で描かれる会社の真の姿は どうだろうか。法を無視し、金の力で不祥事をもみ消し、有害な環境で働き健康 を害した従業員を使い捨てる。「約束」はどこにいったのだろう?

実は韓国では、サムスンの問題は公然の秘密である。韓国経済を支配するばかり か、政治や司法の世界にも隠然たる影響力を行使し、事実上、どのような不正も 免罪される。巨額の脱税、政界・司法への工作、甚大な環境汚染、労組弾圧、そ して続出する労災死。しかし、サムスンへの批判はありとあらゆる手段で押さえ つけられる。サムスンを攻撃すれば、有形無形の報復が加えられる。そのことを 誰もが知っているから、無力な労働者がサムスンに楯突くことなど、およそ想像 もできない。

だからこの映画が制作され、公開にこぎつけたことは一種の「奇跡」だったと言 える。この映画を監督したキム・テユン監督は、最初、周囲から「正気か」と言 われたという。実際に、制作資金を出すという企業はなく、出演するという俳優 を見つけるのも難かしかったという。それでも、インターネットでのクラウド ファンディングで資金を集め、主役の父親役にパク・チョルミン、白血病にか かった娘役にパク・ヒジョン、そして労務士役にキム・ギュリという演技派の俳 優陣が出演を承諾してくれたという。 しかし映画が完成した後も、困難は続いた。前売りが好調だったにもかかわら ず、どの劇場もサムスンを恐れて上映を事実上拒否したため、ほとんど上映の機 会を得ることができなかったのだ。現在も労組や有志による自主上映、DVD、イ ンターネット配信などで上映は続けられているとはいえ、韓国でもなかなか上映 される機会はない。今回のレイバー映画祭での上映は、日本でこの映画を見るき わめて貴重な機会だといえよう。

最後に、現時点でのサムスンと遺族・支援者たちの闘いを簡単に紹介しておこう。 これまで対話さえ拒否してきたサムスンは、昨年、被害者との交渉に応じること になった。このサムスンの態度の軟化には、被害者側の粘り強い活動、そして本 作品や昨年のレイバー映画祭で上映された「貪欲の帝国」などにより、サムスン に対する世間の批判が高まったことがある。しかし、それでもサムスンは被害者 グループの分断を図り、発病との因果関係を調べる疫学調査への妨害を続け、被 害者代理人の労務士を話し合い当事者として認めないなど、およそ「グローバル リーディングカンパニー」とは思えないような態度を取り続けている。 本作品の上映などを通じ、こうしたサムスンの反労働者的な態度を広く伝えてい くことはサムスンに対する無言の圧力として作用する。ぜひこの機会にサムスン の暗い一面を知ってほしい。

＊『もうひとつの約束』は7月25日（土）午前10時15分から上映します。詳細はこちら。お得なメール予約受付中。