木下昌明の映画批評『赤浜ロックンロール』 | |||||||
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●小西晴子監督『赤浜ロックンロール』 「自然には勝てない」と悟った〜震災後の岩手県大槌町の暮らし東北地方で漁業を営む人々は今、どんな暮らしをしているのか――その一例を小西晴子監督のドキュメンタリー『赤浜ロックンロール』にみることができる。 赤浜は岩手県大槌町の大槌湾にあり、湾内には「ひょっこりひょうたん島」のモデルになった小島もある。大地震では6.4メートルの堤防を乗り越えて最大22メートルの津波が襲来し、1280人余りの死者・行方不明者を出した。堤防の破壊された跡が無残。 映画は、海で働く漁師の兄弟のシーンから始まる。40歳の兄は独身で漁協組合長。妻子持ちの弟と2人、朝まだき海で鈴なりのカキを引き上げている。大震災の日、弟は沖合に出ていて難を逃れたが、遠くから白くなって襲ってくる津波に遭遇した時の恐怖を話す。 兄弟は海底の豊富な湧水を利用して、ワカメやホヤ、昆布類の養殖に励んでいる。こんなふうに育てるのか、と一つ一つの作業が興味深い。海は広大な農園なのだ。「自然からとれる恵み、それで生きていくしかない」と兄は言う。 一方、復興を巡る住民と国の対立にも光をあてている。住民の自治組織「赤浜の復興を考える会」の66歳になる会長は、「日本の縦割り行政のまずさ」を痛烈に批判する。国は高台に住むよう住民に勧める一方で、高さ14.5メートルの巨大防潮堤を築こうと企てる。 「これでは海が見えない」と拒むと、次に高さ11メートルの道路を防潮堤がわりに造ろうとする。 なぜ会長は反対するのかを問われると、孫をはじめ母や妻まで津波に流され、「自然には勝てない」と悟ったからだ、と。また「孫をこの海で泳がせて『じじぃ、赤浜は最高だ』って言わせたかった」とも。 ラスト近く、ロック好きの組合長の音頭で始めたというロックフェスティバルが開かれる。組合長は「支援していただいたお礼に対する発信なんだ」と。音楽に合わせて老若男女(彼の母まで!)が拳をふりあげて踊る。その前向きな姿がさわやかだ。(木下昌明・『サンデー毎日』2015年5月3日号) *5月2日より東京・新宿K’s cinema。全国順次公開。 Created by staff01. Last modified on 2015-04-28 11:52:13 Copyright: Default |