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4回目の3.11がやってくる〜福島第一原発事故からの問題提起

        橋爪亮子(モントリオール「絆Japon」代表・在ベルギー)

 また3月11日がやってくる。4年が経つ。多くの被災地以外に住む人にとっては数ヶ月で一度も東北被災3県のニュースをきかない人もいるだろう。国外にいたらなおさらだ。恐ろしい方向へ進んでいる世界情勢もある。普通の人がいろいろなことに関心を持ち続けるのは難しい。しかし、私はやはり原発事故によって人生を破壊された人がいることを忘れることはできないし、本当にこんなことがあっていいのかと思うぐらいの、二次的な、人と環境への破壊、打撃が続いていることは、それは私を含めた一人一人のこれまでの生き方のせいであり、つまり私自身が加害者でもあるという意識から、この問題から離れることは出来そうにないと感じている。

 私は震災後一度も帰省していない。 知れば知る程子どもを連れては行かれないと思う。それでも日本や福島が好きな子どもたちを連れて行きたいし、私にも行きたい気持がある。しかし行かない。子どもたちはいつ日本に行けるの? と私に聞く。また、ここベルギーで出会う人に、 原発は収束はしておらず、東京にもホットスポットはあり、東京オリンピックなど気違い沙汰で、 特に子ども連れで観光へ行くことはやめた方がよいと言っている。私は日本に行っていないのだから、 本当の姿を知らないと言われればそれまでだ。日本に今流れている空気や復興を知っているとはいえない。でも多くの虚偽があると確信している。それと闘っている人たちを知っているからだ。これは家族や友人を含む日本に住む人 、ましてや福島に残ること、戻ること決めざるをえなかった人たちへの批判ではない。決して無い。

 非国民や売国奴という言葉を現代の日本社会で見る時に戦慄を覚える。風評被害を煽る、福島県民ではない、放射能気違いなどといわれながら、 見えない敵放射能(しかし実際は虚構の社会システム)と日々闘っている意志ある人々を尊敬する。沈黙するしかなく、子どもを守ることができているかと自問自答し苦しむ親を思う。体調がよくない、そして甲状腺ガンの手術をした(中にはガンが転移したケースもある)子どもと親、あるいは理由が分からない病気にかかった人、急死をした人の家族の気持を思う。そして経済復興, 雇用再生が重要なんです,国益が、エネルギーが必要なんです等々、都合のよい、表向きはなんとなく理屈が通っている情報だけをまことしやかに流し、国内外からの放射能の健康被害についての勧告、警告は無視し、それを案じる人たちへの圧力や差別をのさばらせることを助長するシステムとそれに同調してしまうように教育された自分たちを省みる。しかし同時に、母子避難を経験し、家族が離れ離れになる恐怖を知り、無知で残っている訳じゃないと、 福島に住んでいる目の前の子どもの生活のために減ってしまった小児科医院など建てることをこそしてほしいという福島在住の友人のことばに何も言えない自分がいる。 

 私は大学へ行っていない。読書は子どもの頃から大好きだったが、知らないことは多く、事故後、勉強の日々で、今もでそうだ。ただ、 多くの種類の仕事の経験と、アラビア語という少し変わった言葉を勉強したおかげで面白い人との出会いがあった。住み込みの仕事も好きで、そこでの出会いも貴重だった。 バックパックを担いでの1年半のさすらい貧乏旅行は財産で、ほとんどをいわゆる第3世界と言われる国で過ごした。カナダへ来て結婚してからも、様々な国の人が自宅に短期、長期滞在した。自分自身が移民として、また移民や難民に関する活動に関わったこともあり、人や他文化との出会いの中で、 いろいろと気がつくことや考えさせられることもあった。そしてここにきて、日本はここまで人権や民主主義がなかったのかと驚かずにいられない。まさに棄民のような状況に置かれている福島原発事故の被災者。賠償金をもらっているのだからとか、働かなくていいから楽だろうとか。そういう声はどうしたらでてくるのか。原発事故に限らず、ある問題の背景を知り始めると日本中でその声を消された多くの人がいたことに気がつく。沖縄しかり、水俣しかり、貧困問題しかり。

 そしてここまでないがしろにされる国民とはなにか、国家とは、個人の尊厳とはと考えざるを得ない。様々なことが繋がっている。絆ジャポンの活動の中で、カナダ人から福島のために具体的に何ができるかなどと聞かれることは少なくない。またはっきりと日本で起きているひどい状況を知ったところで、自分たちの生活もあり、実際にできることは気休め程度のことで、 状況は何も変わらないと思うという言葉を投げかけられたこともある。しかし何もしないことはいつでも、その存在をも抹消されかねない。 そして同時に、何もしないことはそれだけで加害者にもなりうると思う時がある。

 先日のニュースでは福島県内だけで自主避難者も含め約12万人が避難中とあった。この春から福島第一原発から20キロのすぐ外、広野町に新規開校する中高一貫校(制服は有名なデザイナーにより、校歌も秋元康氏、海外研修あり)が出来、首都圏からの大学生などを招待し福島の現状を伝えるスタディーツアー、 地産地消、等々、福島県で進む怒濤のような帰還と安全キャンペーンに怒りを覚えずにはいられない。でも怒りだけを伝えても意味がない。自身を省みず本当の将来の安全と健康のために発信、行動している人からの告発と情報を伝えることは大切だ。それをしないと、巨額のお金が投資された福島は安全で、もう大丈夫という国や県側のもくろみ通りになる。しかし個人個人が自分で知り、調べ、考えると自ずとおかしなところが分かってくる。福島県以外から少なくない数の人が自分の意思で、 より遠いところへ自主避難している。福島で起きていることを伝えることは、福島県以外から避難した人たちが向き合っているある意味もっとつらい境遇と社会の無理解への解消へつながると信じたい。 放射線量が高い地域に住む特に子どもにいかに保養が大切か知らせることにつながると信じたい。そして何より個人の命が尊重される社会に向かうと信じたい。

 国際ウラン映画祭の宣伝をしたい。この4月にケベック州北部の先住民クリーの主催により開催予定。クリーの人たちは、自分たちが何代も暮らしてきた土地のウラン開発に反対している。 カナダはカザフスタンに次ぐ、世界第2のウラン産出国(2008年までは第一位)。そのカナダでこの映画祭が開催されることの意味は大きい。
http://standagainsturanium.com/news/film-produced-cree-nation-premieres-international-uranium-film-festival/
http://www.uraniofestival.org/en/(ウラン国際映画祭の公式サイト)

 クリーからの作品“The Wolverine” の他にも、日本でも自主上映が沢山されたインドの“High Power”等もくる。これはインドで最初に建設された原発とその周辺に住む人を追ったもの。 監督は映画祭とは別に、同時期に、自主上映の可能性をも探っている。ちなみに、カナダは去年10月にインドと原子力協定を結んでいる。サスカチュワン州McArthur River ウラン鉱山は世界最大のウラン産出鉱山である。 カナダは原発を推進しており、日本とカナダは原子力協定“日加原子力協定”(1960年)を結んでいる。 日本はオーストラリアとカナダから主にウランを輸入している。昨今はウランブームとも言われ,今年はウランの年、ウラン関連会社へ投資をというニュースも見た。カナダの会社が日本の“海外ウラン資源開発”の子会社として開発に関っていることもある。 

 またCigar Lake 鉱山はカナダのウラン関連の最大会社Cameco 社とフランスAreva 社、そして出光興産と東京電力の共同開発である(2012年報告) 。日本の原発再稼働の政府発表をうけて、喜んだ関係者は日本の原子力村の人たちだけではない。世界のどこかで戦争が起こると喜ぶ人がいるのと同じだと思った。自分の生活の保障があって、自分の住む国が安全なら、どれだけ他人の生に鈍感になれるのか、またこの時勢、自分の国だけ安全とは幻想だと思う。ちなみに、カザフスタンでは、Energy Asia という東京電力、中部電力、東北電力、九州電力、丸紅他2社共同により、2007年からウラン開発生産をしている。これらの国々でのウラン鉱山の労働者のことを考えたことがあるだろうか?原発事故による放射能放出だけが健康被害、環境破壊ではなく、いかに多くの人々が常に被曝し、環境は破壊されているか。使用済み核燃料の問題はもちろんだが。想像してみてください。そのつけを払うのは、私たちではなくて責任のない未来の人たちです。ウランではないが、カナダの鉱山の歴史と現実をとったドキュメンタリー“The Hole Story”(2011) を見てみてください。

 私は福島原発事故が提起する問題を自分の故郷であるという感傷や郷土愛を土台に理解しようとしたり、意識的に人に伝えようと思ったことはありません。それでも時により感情が込み上がってくることはありますし、人によってはそのような話(たとえば感傷的なこと)を聞きたい、あるいはそのような話から物事を理解しようとする人もいて、それは理解もできます。でも感傷的な話はそこで終わりです。私が言いたいのは、これは正に共通の問題で、だれでもが理解できて、起きていることのほとんど全てが、おかしいと言えることです。 なにも難しいことはないのです。 最後に30年以上前に書かれた日高六郎氏の”戦後思想を考える”より引用します。

(中略)経済的に豊かになった日本でおきていることは信じられない。 (中略) “自由主義体制、”生活の向上” ましてや“快適の増大”という概念を慎重に検討しなおすべきときがきている。(中略)1980年代のいわゆるダブル選挙で自民党が圧勝していらい、自民党政権がにわかに軍事づいてきたことは見逃せない。防衛力強化。政治も経済も産業も、教育も、すべてはこの”総合安全保障”を念頭におきながら運営されているかとさえ思われる。

参考資料:
http://www.globalnote.jp/post-1381.html ウラン
http://resource.ashigaru.jp/country_canada_2.html カナダのウラン鉱山

http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat2/sub-cat2-1/20150130_hinansha.pdf 復興庁の避難者数 

http://news.yahoo.co.jp/list?t=foods_harmful_rumors

*この記事は日系コミュニティ新聞「モントリオールブルテン」2月号に掲載されたものです。筆者および同社の許諾を得て紹介します。(レイバーネット編集部)


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