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LNJ Logo 木下昌明の映画批評 : 死者へ寄せる思いが胸を打つ『おみおくりの作法』
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●ウベルト・パゾリーニ監督『おみおくりの作法』

死者へ寄せる思いが胸を打つ“孤独死社会”の「おくりびと」


         *(C)Exponential (Still Life) Limited 2012

 昨秋、NHKスペシャル『老人漂流社会――“老後破産”の現実』を見て、身につまされた。独り暮らしの高齢者が600万人に迫るなか、生活ができなくなっているお年寄りが多く、孤独死も深刻という。83歳の老人に、「所持金はいくら?」と尋ねると、手のひらいっぱいの1円玉――。

 事情はイギリスでも同じらしい。
 ウベルト・パゾリーニ監督『おみおくりの作法』の主人公は、ロンドンのケニントン地区の民生係。孤独死現場のアパートを訪ね、遺品を手がかりに親族を探し、葬儀や埋葬に立ち会ってもらう仕事を淡々とこなしていく映画だ。

 監督は孤独死した人の身寄りを探す民生係の新聞記事を読んで、今日的な問題としてとらえ、各地区の民生係に会って話を聴き、現場に赴いて映画を作ったという。このため、エディ・マーサンが好演する主人公ジョンは、実在する多くの民生係を投影した姿と言える。

 彼は44歳で独身。絵に描いた公務員のように髪は7:3にわけ、紺のスーツにグレーのベスト。鞄に白衣をしのばせ、いつも身ぎれいにしている。

 死者の部屋を訪ねると、本人の写真探しから始める。調査が終わると写真は自宅のアルバムに貼る。会ったこともない他人なのに、家族の写真のように大事に扱う。セピア色の写真には若かった頃の笑顔のものもあり、その人の人生が垣間見える。「私にもこんな時代があった!」と叫ぶ声が聞こえてくるようだ。

 ジョンは死者を思う気持ちを大切にして調査に時間をかけるので、自治体の経費削減のために上司からグビを言い渡される。「死者の思いなど存在しないんだ」と。非情そのものだ。

 彼の最後の仕事は、自分のアパートの真向かいで孤独死した老人の親族を訪ねることだった。そこで若い女性との出会いも生まれてくる……。

 死者への思いが生者の生き方にもつながっていく。しみじみと胸を打つ。(木下昌明・『サンデー毎日』2015年2月8日号)

*東京・銀座シネスイッチほかで公開中。


Created by staff01. Last modified on 2015-01-29 19:59:44 Copyright: Default

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