書評 : 『被ばく者差別をこえて生きる−韓国原爆被害者2世 金亨律とともに』 | |||||||
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原爆被ばくに苦しむ韓国の人々〜書評『被ばく者差別をこえて生きる−韓国原爆被害者2世 金亨律とともに』本書は原爆被害者2世であり、「韓国原爆2世患友会を創設した、今は亡き金亨律(キム・ヒョンニュル)の遺稿を中心にまとめた追悼集である。編訳著者は、生前の彼と交流があり、現在「原発メーカー訴訟」原告の一人でもある青柳純一。さらに本書には、壮絶な闘いを支え続けた父親の金鳳大(キム・ボンデ)、「韓国原爆2世患友会」現会長として彼の遺志を受け継ぐ韓正淳(ハン・ジョンスン)、釜山教育大教授で金亨律の評伝を著した全鎮成(チョン・ジンソン)らが寄稿している。 1945年8月、広島・長崎で被ばくした原爆被害者約70万人(爆死24万人)のうち、韓国人は約7万人(爆死4万人)に達し、さらに、原爆後遺症に苦しむ2世は、韓国国内だけで約2300人と言われている(健康な2世も存在する)。被ばく者は様々な差別を受けているが、特に韓国では日本へ渡った者に対する偏見、米国による原爆投下で日帝支配から解放されたという歴史教育、朝鮮半島における南北対立を背景とした軍事中心の考え方が、差別を助長するという。だが、福島原発事故で再び被ばくし、安倍政権下で軍事大国化する日本に生きる私たちにとっても、これらは他人事でない筈だ。 1970年、金亨律(写真)は韓国の釜山で生まれた(双子の弟は1歳半で死亡)。彼は生まれつき病弱で入退院を繰り返していたが、やがて検査の結果、「先天性免疫グロブリン欠乏症」であることが判明。この病気は原爆後遺症として知られており、1945年に母親の李曲之(イ・ゴクチ)が広島で被ばくしたことに由来すると結論づけられた。李曲之自身は広島生まれだが、彼女の母親の実家は朝鮮半島南部の陜川(ハプチョン)にある。遡れば日帝統治時代、植民地収奪型の農業政策により生活基盤を奪われた陜川農民は、その多くが生存のため広島へ移住した歴史をもつ。 2002年、金亨律は自らが「原爆2世患友」であることを、記者会見でカミングアウトするが、これは世界的にも珍しい「原爆2世の人権宣言」であり、本格的な闘争開始宣言であった。その後、彼は「韓国原爆2世患友会を組織し、支援者とともに国家人権委員会に陳情して、2004年に「韓国原爆2世の健康実態調査」を実現。さらに2005年、増大した支援者・議員有志とともに「原爆被害者特別法」の国会請願を決行し、同法制定のための公聴会では「原爆による遺伝」問題の本質と解決策を提起した。だが同年5月29日、「今はまだ死ねない」と言い残して、金亨律は他界。享年34歳だった。 闘いの一つの到達点である「原爆被害者特別法案は、2世を含む原爆被害者に対する健康権・生存権の保障、政府レベルの実態調査、定期健診と医療援護・生計支援、「国立原爆専門病院」と「韓国原爆被害者の人権と平和のための博物館」の設立を骨子とするが、金亨律は公聴会で次のように述べている。「特別法の制定を通じ、最近公開された政府文書『韓国人原爆被害者救護1974』で明らかになった事実、韓国政府が原爆被害者問題を放置・隠蔽した事実を真相究明すべきです」、「<先支援・後究明>を通じた様々な疾病と障害をもつ原爆2世患友に対する生存権を法的に保護すべきです」、「<原爆による遺伝>問題の真相究明のためには、合理的な社会的合意システムと真相究明に向けたロードマップが絶対に必要だと思います」、「様々な原爆後遺症に苦しんでいる原爆2世患友など間接原爆被害者のアイデンティティを法的に保護すべきです」(本書148〜150頁)。
上の『韓国人原爆被害者救護1974』で明らかになった事実とは、1974年当時の韓国政府が原爆1世・2世問題への認識と対策を有していたにもかかわらず、その後の政府は不作為的な態度を続けてきた経過を指す。また1965年の日韓条約締結に際し、日本軍「慰安婦」問題、原爆被害者問題、サハリン同胞問題が除外されたことが、公式に確認されている。つまり、日本の侵略戦争と植民地主義に関する戦後補償問題は未解決なのだが、中でも差別的な日本の「被爆者援護法」政策に対し、金亨律は「国家が起こした戦争の結果として生じた被爆者に対して国家補償する」という同法の精神から、原爆2世や在外被爆者にも適用すべきと訴えた。そしてソ連と対抗していた米国は、戦争の早期終結を主導するために、開発したばかりの原爆を日本へ投下したが、金亨律はこの民間人の集団虐殺を国際法違反として糾弾する。さらに、戦後世界における米国の核ヘゲモニーや劣化ウラン弾使用を問題にしている。 「人権の死角地帯」で「死よりも苦しい生」を強いられてきた金亨律は、アイデンティティを自ら問うことで、その苦悩の根源をつかみとった。そして、周囲の原爆1世・2世からの拒絶・反発をも乗りこえて、「原爆2世」としての権利を行使すべく決起した。彼と出会った青柳純一は「加害者」として葛藤し、やがて福島原発事故をも契機として、本書を上梓することになる。だが当然、問題は個人的なレベルではなく、普遍的に提起されている。放射能汚染時代を生きる私たちが、いかに核の支配に挑むのか。金亨律の遺志は、現代世界に生きる私たちに、広く継承されなければならない。青柳純一が10年の歳月をかけて刊行した本書は、私たちの闘いの中で、主体的に活かされるべきだと思う。 佐藤和之(日韓市民連帯の会) 【ハンギョレ】http://japan.hani.co.kr/arti/international/17271.html 【写 真】http://blogs.yahoo.co.jp/tocka_jikkoi/65220033.html Created by staff01. Last modified on 2014-08-06 14:05:29 Copyright: Default |