第四回 2013/7/1(毎月1日発行)
「意見広告」異論 松本昌次(編集者・影書房)
去る5月3日の66回目の憲法記念日当日、朝日新聞紙上に日本国憲法、特に9条を守る意見広告が、見開き2ページ(写真下)と、1ページ全面広告で掲載されていたのを記憶している方がどれだけいるだろうか。わたしは経済的余裕に乏しく朝日1紙しか見ていないので他紙は知らないが、これらの意見広告に対し、いささかの疑義をさしはさみたい。わたしもかかわったことのある運動に対し異論を書くことにはためらいを覚えないわけではないが、致し方ない。
まず、これらは「意見広告」というが、むしろ「名前広告」というにふさわしいではないか。特に「市民意見広告運動/市民の意見30の会・東京」(共同代表 : 高橋武智 本野義雄 吉川勇一)の見開き2ページ広告(いったい、広告料はいくらだろうか)は、紙面の80パーセントほどが、出資した8150人の細かな名前でベタに埋めつくされ、「若者が、子どもたちが、あぶない/武力より平和力、9条の力」の大見出しのほか、憲法擁護・改憲反対の「意見」は、紙面の右はじに、せいぜい1500字ほどあるだけである。果たして読者は、これを読んで心動かされるだろうか。また賛同者は、名前を掲載しないとお金を出さない人たちなのだろうか。
意見広告という以上、「意見」を重視しなければならないし、「広告」の効果を第一に考えて紙面を構成するべきではないか。この間、会う人ごとにこれらの意見広告について“意見”を聞いたが、朝日を読んでいる人ですらほとんど印象にも残っていない有様であった。このことがわたしだけの事態ならば幸いだが、多額の募金を投じた2ページにわたる広い紙面を、なぜもっと有効に利用しないのだろうか。これでは失礼だが、関係者の“自己満足”でしかない。写真やイラストを利用しつつ、かつての日本の侵略戦争がどんなに悲惨な敗戦を迎えたか、戦後の民主主義国家がどのように建設されたか、世界に誇る先駆的な日本国憲法がどんなに平和に寄与してきたか、それらについてはどんな資料・本・映画などがあるか、等々について、率直に「意見」をのべるのに十分可能なスペースがあるではないか。広告料は8150人の有志によると記せば足りる。
もう一つの1ページ全面広告(写真上)は、いわさきちひろの絵を配し、「女性は戦争への道を許さず、憲法9条を守ります」と、女性にだけ向けた大見出しでアピールしつつ、顔写真とともに雨宮処凛・澤地久枝・UA・湯川れい子・竹信三恵子・田中優子の皆さんが、ひとことずつ護憲・戦争反対の「意見」を表明している。日本婦人団体連合会をはじめとするさまざまな女性団体の協賛によるもので、102人の賛同人の名前もある。しかしそれらは、大学教授・団体役員・作家・弁護士・映画監督など、いわゆる有名知識人の肩書きを添えた女性たちが名を連ね、一般の肩書きなき女性たちの名前はない。従ってこれは、どうしても名前を出したい人たちの「意見広告」といえるだろう。見開き2ページ広告に比較すれば、広告効果はあるにしても、一部、選ばれた人たちにのみ通じるもので、その意味では、同じく“自己満足”のきらいをまぬがれない。
もはや、こんな“名前”や“肩書き”にこだわっている時代ではないのではないか。かつての安保闘争の折、竹内好さんは、当時の政府に抗議して都立大学を辞職した。それに同調して鶴見俊輔さんも東京工大を辞職した。それでも反安保の運動は敗北した。その結果が今日の事態を招いているといっても過言ではない。だからといって、現在の知識人といわれる人たちに、豊かな(?)地位を投げ捨てろといっているのではない。しかし、そのくらいの覚悟がない限り、そのくらいの覚悟でものを書かない限り、そのくらいの覚悟で憲法を守る他の運動と連帯しない限り、絶望の外はない。「意見広告」の在り方を問い直さねばならない時である。反論を期待します。(2013年6月28日)
〔付記〕
この原稿をFAXで送信した翌日の6月29日、「戦争を知る世代からの改憲反対意見広告の会」による1ページ広告が朝日に出た(写真上)。「日本国憲法を改悪する人に、私の一票は預けません」という大見出しとともに、「戦争を知る世代からの意思表明」(説得力のあるすぐれた文章)があり、三人の無名の人のメッセージ(これもいい)もある。3472人の賛同者の名前はルビほどに小さく、そこに丸木俊さんの「平和の鳩」の絵がかぶせてある。「意見広告」として感銘を受けたので、急いで付記する。(6月29日)
〔編集部注〕反論・感想などはFAX03-3530-8578、またはlabor-staff@labornetjp.orgにお寄せください。
Created by
staff01.
Last modified on 2013-06-30 11:32:35
Copyright:
Default