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●映画「冬の小鳥」
「韓流」の底に沈殿する戦後史 捨てられし子どもたちの物語

 韓流ドラマには「出生の秘密」を描いた作品が多い。その背景に、朝鮮戦争に続く南北の分断や民主化運動をへた後の急速な経済発展といった激動の戦後史がある。そこには恩恵に浴した人々とそうでなかった人々がいた。なかでも戦争孤児や、駐留米兵との混血児、貧困家庭の子どもたちは悲惨な境遇におかれた。時の軍事政権は、その解決をはかるために彼らの「海外養子縁組」を奨励した。その数はざっと20万人といわれた。

 例えば「ホテリアー」で、ペ・ヨンジュンの演じた、米国からきた冷徹非情な事業家は父に捨てられ、妹とも別々に海外養子に出された男。豪華なホテルの舞台裏にすら過酷な歴史がひそんでいるのだ。

 今度公開のウニー・ルコント監督の「冬の小鳥」(韓・仏合作)をみられるとよい。

 1975年のソウル近郊にある児童養護施設を舞台に、「子どもの海外輸出」がどのように行われたかが描かれている。9歳の少女ジニは、「一泊旅行」が嘘とは知らず父に連れられてくる。初めは大好きな父に捨てられたことが信じられずに、院長に「孤児ではない」と反発し抵抗するものの、そのかいなくフランスの「年を取りすぎ」の養父母に引きとられることになる。

 実は、監督のウニーも韓国生まれで、幼いときにフランスの養父母に引きとられた女性である。映画は彼女の体験を下敷きにしたフィクションである。けなげにジニを演じるキム・セロンの不安げで頑なな表情やしぐさの一つ一つから痛々しいまでの感情がにじみでていて胸をうつ。

 また、冬枯れの風景のなかで、子どもたちを次々と見送る寮母をはじめ施設の人々も淡彩画のように描かれているが、これも印象に残る。

 なかでも、ジニが穴を掘って〈生きていなくていいんだ〉とばかりに自分を埋葬するシーンからは、彼女の絶望感がひしひしと伝わってくる。捨てられしものの再生がここからはじまる。(木下昌明/「サンデー毎日」2010年10月10日号)

*映画「冬の小鳥」は10月9日から東京・神田神保町の岩波ホールでロードショー、全国順次公開 C2009 Copy right DCG Plus & NOW Films, GLORIA Films. All Rights Reserved.


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