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LNJ Logo 木下昌明の映画批評「武士の家計簿」
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●映画「武士の家計簿」
剣術から算術の時代に入っていく幕末維新のドラマ

 このところ幕末維新ものが目につく。筆頭はNHKの「龍馬伝」。福山雅治の龍馬が「日本のしくみを変えるぜよー」と叫ぶと、閉塞した今の時代にも一陣の風が吹いたかのような気分に浸れる。また脱藩した龍馬が、幕府に対抗する薩長同盟を実現させるその大胆な発想と行動力にだれしもが共感するだろう。

 かつて藤田省三が、「維新の精神」とは、藩と藩の境界を超えて「百論沸騰」し、処士が「横議・横行・横結」したところにあると語っていた。横の連帯が曲がりなりにも一つの日本にしたのだ。

 いま上映中の佐藤純彌監督の「桜田門外ノ変」。この事件が維新の口火を切ったといえる。黒船の来航以来、日本は開国か攘夷かで対立し、ついに水戸の脱藩者18人の実行部隊が開国派の大老を暗殺するに至る。圧巻は巨大オープンセットの襲撃シーン。総勢60人もいた行列がなぜ敗れたか実証的に描かれている。「龍馬伝」をみると、この事件の影響をうけて土佐勤王党が結成されたこともわかった。

 五十嵐匠監督の「半次郎」も上映中で、西郷隆盛の右腕として活躍した中村半次郎(桐野利秋)の生涯を描く。維新後になぜ西南戦争が起きたか、その理由の一端を垣間みることができる。が、それよりも独特な剣術が目についた。企画兼主役の榎木孝明のナルシシスト臭もするが。

 時代劇といえばチャンバラが相場だが、刀を抜かないでソロバンをはじく世界を描いた森田芳光監督の「武士の家計簿」は絶品だ。加賀藩に3代にわたって仕えた下級武士らの、道場ならぬ「御算用場」が舞台。興味深いのは、維新側ではなかったのにソロバンの腕を見込んだ新政府が主人公の息子を取り立てるところ。世は剣術ではなく算術の時代に入ったのだ。その伝で言えば、維新は藩と藩を超えたように、いまや世界は国と国を超えなければならない時代にきている。(木下昌明/「サンデー毎日」2010年11月7日号)

*映画「武士の家計簿」は12月4日から全国ロードショー (c)2010「武士の家計簿」製作委員会


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