私が入社した1982年頃のイセキ開発工機は、従業員は約100名で「国籍や人種による差別はしない」「社員を大切にする」を社是として活気に満ちていました。社是に共感して就職を決めました。ベンチャー企業として注目を集め、1989年2月には株式を店頭公開するところまで急成長しました。その後、多角経営を目指して垂直型ベルタベーター、汚水処理装置等の開発をすすめ1991年3月には従業員は450名を超えましたが、公共工事の減少や市場の飽和による需要低下と、海外戦略、株投資及び新分野進出の失敗などが重なって業績は悪化。「差別はしない」気風は、経営が傾き、銀行から役員が送りこまれるようになってからは、次第に色あせ差別発言、恣意的な人事が目立ってきました。
●株式会社イセキ開発工機とはこんな会社である。概要と民事再生手続きの進捗状況は以下の通り。 |
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社員を大切にする気風がいつしか…….悪質な退職勧奨の開始から倒産に至るまで第1弾:実態のない部署を作り悪質な退職勧奨を開始 1997年4月から総務部研修室という実体のない部署が新設されました、総務部研修室とは仕事を取り上げ、プライドとキャリアを傷つけて退職に追い込む為の部署でした。1999年4月にも突然8名に対し総務部研修室へ配転し退職勧奨、男性7名はまもなく退職していきました。ただ1人退職勧奨を拒否した勤続12年の女性には、出向先探しを強要しました。更に、組合員となったこの女性を1999年末からは、換気・空調の悪い図面室に押しこめました。彼女は1年近くの退職勧奨によるストレスも重なり、体調を崩して2ヶ月の長期入院を余儀なくされました。内臓を悪くし退院後も通院中でしたが完治しませんでした。イセキ開発工機は女性をこのような状況に追いこみながら平然としていました。 第2弾:大幅賃下げの強行、労働争議の発生、組合結成へ 1999年11月1日、従業員をだまして一方的に給与規程を改悪し、勤続年数の長い人をターゲットに、大幅な賃金カットを強行しました。勤続17年の私は給与を32%、勤続12年の女性は24%と大幅賃下げ、キャリアを無視した女性差別の賃下げでした。私達女性2人は不当な賃下げに泣き寝入りせず立ちあがりました。会社に労働組合がなかったので個人加盟組合に加入し、イセキ開発工機支部を結成しました。しかし、不当な賃下げは団体交渉、労働委員会の斡旋ともに決裂し、私は2000年6月27日に東京地方裁判所に提訴して在職裁判がスタートしました。
(原告:西本敏子、 原告訴訟代理人:宮里邦雄弁護士・中野麻美弁護士) 第3弾:長期勤続の管理職を標的に多数の退職勧奨を実施 2001年3月29日、多数の管理職を一人一人呼びつけ、退職勧奨。早期退職優遇制度なし、再就職支援なし、1週間で返答しろというでたらめなやりかたでした。本人にとっては突然に生活基盤のはしごを外され、寝耳に水のことです。しかも退職勧奨理由もいいかげんなものでした。人選基準も不明で、どうしてあの人が? と社内のみならず社外からも疑問の声が多く出ました。会社の基礎を築いてきた人達、頼りになる先輩、上司として信頼され慕われてきた人達です。従業員に更に不安が広がりました。理不尽な退職勧奨によるベテラン社員の退職者続出は、対外的にも不信感を与えて業績は更に悪化しました。 第4弾:第2次リストラ発表 2001年11月9日またまた人員削減発表。第1次リストラ(1997年10月)で従業員は350名から240名に削減され、今度は100名にまで削減されました。 2002年3月27日 ついに倒産2001年9月中間連結決算時点で11億円の債務超過に陥り、株価も額面50円どころか20円を切っている惨状が続いていましたが、期末直前の2002年3月27日、ついに民事再生手続開始を申請し倒産しました。3月30日の債権者説明会では、資金繰りに走り回っている債権者を前に、「イセキ開発工機は、9月までの資金繰りはついている。その見込みがなければ民事再生手続開始申立はしない」と代表取締役副社長が平然と発言しました。倒産の責任など微塵も感じていない無神経さでした。
民事再生法は誰のための法律? 従業員は民事再生手続き開始申立前も申立後も一切情報を与えられずカヤの外だった。そしてある日突然の営業譲渡と人員削減の発表。退職勧奨を断った組合員は2名とも整理解雇と称して即日解雇され、職場から組合は一掃された。営業譲渡や再生計画案に対する従業員代表の意見聴取も形だけである。決定された後に意見を言っても何の効力も無い。多くの従業員の生活手段を奪った経営者は、放漫経営の責任も取らずに居座り続ける。91.5%の債権放棄を要請した債権者に対しても、法律で認められた再生計画だと平然としている。店頭登録廃止、100%減資、資本金6千万円の個人出資の未公開会社となった今は、従業員には更に情報は入らない。これが民事再生法の実態である。経営者にとっては、こんなに使い勝手のいい法律はないだろう。 民事再生法 再生手続きが開始されても従来の経営者は退陣せず、再生債務者は業務遂行権及び財産の管理・処分権を失わない。従来どおり事業の経営を続けながら再生計画を作成し、債権者の過半数の同意と裁判所の認可により、その再生計画に従って事業を継続し債務を返済することになる。再生債務者とその代理人がほとんどの手続きを主体的に実行し、裁判所の代わりに監督委員が手続きを監督する実務運用がなされている。裁判所が実質的に関与するのは、営業譲渡と再生計画認可くらいである。 東京地裁での民事再生申立状況(2002年10月30日、債権者集会での園尾裁判長の説明) 1ヶ月30件あまりで1年間に400件の申立である。和議法は1年間に40件の申立だったので、その10倍になっている。民事再生申立の95%に開始決定。再生計画案を提出し、債権者集会を開催するまでに資金繰りがつかず10数%が破産になるが、8割程度が債権者集会を開く。東京地裁では、債権者集会を毎週水曜日に開催、1日で8社から10社開催する。情報の開示 労働者・労働組合は利害関係人として、裁判所書記官に対し裁判所に提出された文書や裁判所が作成した文書などの閲覧、謄写を請求することができる(民事再生法17条1項、2項)。情報開示の時期は、開始決定前であっても保全処分などがなされていれば開示請求ができる(民事再生法4項1号)。通常は申立と同時期に保全処分が発令されることになるから、労働者・労働組合は、手続き開始後すぐに裁判所に提出されている申立書やこれに添付されている決算書その他の資料を閲覧、謄写する必要がある。 ・ 私の場合は、3種類の資格で閲覧・謄写した。 1.会社を提訴している原告(訴状のコピー提出) 2.債権者(再生債権届出書のコピー提出) 在職裁判中の32%賃下げ事件について賃金差額の未払賃金と損害賠償金を再生債権として届出。 3. 組合支部長(支部結成通知書のコピー提出) 少数組合であっても閲覧・謄写は出来る。 民事再生手続きスケジュール 平成14年(再)第79号 再生手続開始申立事件 民事再生法は早さが売りの法律である。イセキ開発工機の場合は下記のスケジュールで進んだ。
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