レイバーネット日本は1月12日、昨年12月12日に出された賃下げ裁判(伊藤由紀子裁判官)および22日に出された整理解雇裁判(多見谷寿郎裁判官)における原告の勝利を報じた。原告は「当該会社が倒産し、民事再生手続下の解雇事件であったが、裁判所がこうした場合にも整理解雇4要件を厳しく適用した意義は大きい」と語った。
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「月刊労働組合」より寄稿依頼があり、2月号の「発言席」欄に顔写真入りで争議のいきさつを紹介しています。
〜以下全文〜
■民事再生下でも四要件が効力、解雇無効の判決■■■■■■■■■■■■
社員を大切にする気風がいつしか…..
イセキ開発工機は下水道工事用のトンネルを掘る掘進機メーカーである。私が採用された頃の会社は、「国籍や人種による差別はしない」「社員を大切にする」を社是として活気に満ちていた。社是に共感して就職を決めた。ベンチャー企業として注目を集め、株式を店頭公開するところまで急成長した。しかし、それも長くは続かなかった。公共工事の減少や市場の飽和による需要低下と、海外戦略及び株投資の失敗などが重なって、2002年3月27日、民事再生手続き開始申立に至った。「差別はしない」気風は、経営が傾き、銀行から役員が送りこまれるようになってからは、次第に色あせ、差別発言、恣意的な人事が目立ってきていた。
問答無用の大幅賃下げと即日解雇
2002年7月22日、20年懸命に働いてきた会社から、「ポストがない」の一言だけで退職勧奨を受け、断ったら整理解雇と称して即日解雇された。99年11月、一方的に改悪された給与規程改定により、事実上の降格と賃金を3割以上減額されていた。女性の仕事は補助的定型業務だと下位資格に揃えた結果だった。会社に組合が無かったので、個人加盟組合に加入した。支部長となり積極的に組合活動をしてきた。不当な賃金減額は提訴し、在職裁判中であったが、まさかこんな形で解雇されるとは思ってもいなかった。
営業譲渡を利用した組合排除目的の解雇
私の解雇は計画的だった。営業譲渡が予想される部門に1月から出向させられていた。3月に民事再生手続き開始申立、7月管渠更生部門の大林道路への営業譲渡と人員削減発表、そして即日解雇と続いた。シナリオは出来あがっていた。
民事再生下でも整理解雇4要件は堅持
解雇は、整理解雇の4要件を欠くものであるばかりか、会社の組合に対する嫌悪、原告の組合への加入と支部長としての組合活動を決定的動機としてなされたものであり、労働組合法7条1号および3号の不当労働行為に該当し、無効であると主張してきた。2003年12月22日の判決は、「被告は責めがない労働者を解雇しょうとするにもかかわらず、組合に協力を求めようとする姿勢がなく、ほとんど抜き打ち的に解雇してそのまま押し切ろうとしたに等しく、説明・協議義務を果たしていないのはもちろん、甚だしく不誠実である。」「人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、解雇手続きの相当性、いずれの点からみても合理性を欠いて社会通念上相当として是認できないものであるから、権利の濫用に当たり、整理解雇の効力の有効要件を緩和すべきであるとの被告の主張その余を検討するまでもなく無効である。」と原告の全面勝訴であった。
女性差別による32%賃下げ裁判、慰謝料支払まで命じる画期的判決
2003年12月12日の判決は、新格付けは、労働契約上付与された降格権限を逸脱するものとして合理性を欠き、社会通念上許容しがたいから、権利の濫用であり無効。しかも慰謝料まで支払わせる画期的判決だった。
しなやかに、したたかに闘う
会社は性懲りも無く両方とも控訴してきたので、闘いはまだ終らない。昨年10月、公正な判決を求める団体署名に取り組んだ。約2ヶ月という短い期間であったが、586団体集まった。労働者の強い連帯に勇気付けられた。自分自身が納得できる解決まで、しなやかに、したたかに闘っていく覚悟である。
(イセキ開発工機訴訟・原告)
「労働判例」に判決2件とも掲載(2004・7)
「労働判例」に判決が紹介されています。すばらしい判決なので是非ご活用下さい。
(1) 【労働判例】 bW69 2004/7/1号
イセキ開発工機(賃金減額)事件 (東京地裁平成15.12.12判決)
新就業規則による格付け変更の効力と差額賃金・慰謝料請求
東京地方裁判所 民事19部 平成12年(ワ)第12998号、 伊藤由紀子裁判官
平成12年6月27日:提訴、 平成15年12月12日:勝利判決
一審判決要旨
32%賃下げとなる2級10号の格付けは、労働契約上付与された降格権限を逸脱するものとして合理性を欠き、社会通念上許容しがたいから、権利の濫用であり無効である。
(2) 【労働判例】 bW70 2004/7/15号
イセキ開発工機(解雇)事件 (東京地裁平成15.12.22判決)
出向社員に対する所属部門の閉鎖を理由とする解雇
東京地方裁判所 民事11部 平成14年(ワ)第20882号、 多見谷寿郎裁判官
解雇日:平成14年7月22日、 (平成14年7月26日:地位保全仮処分命令申立)
平成14年9月26日:本訴、 平成15年12月22日:勝利判決
一審判決要旨
本件解雇は、整理解雇4要件いずれの点からみても合理性を欠いて社会通念上相当として是認できないものであるから、権利の濫用に当たり、整理解雇の効力の有効要件を緩和すべきであるとの被告の主張その余を検討するまでもなく無効である。