「遠隔診療が普遍化すれば対面診療の価格はさらに上がる」
[インタビュー]イ・ギョンス嶺南大予防医学教室教授
チョン・ヨンギル記者 2014.03.26 19:20
25日鄭[火+共]原(チョン・ホンウォン)国務総理主宰で開かれた閣僚会議で
「医師-患者間の遠隔医療」を認める法案が通過しました。
政府は遠隔医療と保健医療投資活性化政策は
「大病院と大企業の金儲けとは無関係」という態度を固守していますが、保健医療団体は遠隔医療が医療民営化の信号弾だと批判しています。
どちらが真実でしょうか?
政府の主張を強化するためだとしても、遠隔医療と医療民営化には全く関連性がないとは思えません。
ポータルサイトのダウムやネイバーで「医療民営化」と検索すれば、一番上に「遠隔医療保健医療投資活性化政策正しく知る」のリンクが現れます。
▲ポータルサイト次に、ネイバーに医療民営化で検索すると政府の遠隔医療、保健医療投資活性化対策広報ホームページのリンクが現れる。[出処:ニュースミン]
遠隔医療導入と医療民営化の関係を政府が推進する「スマートケア」試験事業で調べてみようと思います。
大邱市もこの試験事業に参加しましたね。
3年間で157億ウォンをかけた事業でした。
事業を分析した産業通商資源部は遠隔診療の効果を強調しましたが、大邱慶北保健福祉団体連帯会議と医者は産業資源部が効果を過大に見せていると批判しました。
開業医中心の遠隔診療システム導入?
3年間の試験事業期間中に開業医5か所、患者28人に過ぎず
スマートケアはネットブック、スマートフォンで慢性疾患者健康をモニターして診断・処方する遠隔健康管理サービスで、2010年から2013年6月まで行われました。
当初38の開業医が参加する計画でしたが、3年間で遠隔医療に参加した開業医は5か所しかありませんでした。
老人ホームと敬老堂、長期療養施設も10か所の参加を目標にしていましたが、4か所しか参加しませんでした。
開業医を中心に遠隔診療システムを導入するという趣旨と違い、開業医から参加した患者はたった28人しかいませんでした。
そのため大邱慶北保健福祉団体連帯会議は3月19日「スマートケア」試験事業結果を分析し、
「医学的効果と経済的妥当性、雇用創出効果もきちんと検証されなかった。
開業医遠隔診療結果を膨らませて発表した」と指摘しました。
スマートケア試験事業分析に参加したイ・ギョンス嶺南大予防医学教室教授と会って、
スマートケア事業に対する評価と遠隔医療に関する話を聞きました。
イ・ギョンス教授は「大邱市がこの事業を行ったのは、メディシティや先端医療複合団地の線上にあると考えた。
試み自体が悪いというのではない。
だがどんな事業でも目的があるべきだが、この(スマートケア)事業は目的が明確ではなかった。
IT基盤の遠隔相談、診療技術を通じてビジネスモデルを開発し、外国にも売って、韓国にも売れると考えたようだ」と話しました。
▲資料=大邱慶北保健福祉団体連帯会議[出処:ニュースミン]
医療ではなくビジネスモデル作りが目的
事業の目的が「医療」ではなく「ビジネスモデル」だったのは、この事業の施行主体を見れば簡単に理解できます。
主管して評価した機関も産業通商資源部で、この事業をした大邱市の部署も保健福祉課ではなく、医療産業課でした。
誰を対象に遠隔医療をしたのかを調べましょう。
産業資源部は地理的に医療機関の接近性が低い人々彼ら、老人を含む健康脆弱階層に対する遠隔医療をするとしても、スマートケア事業はそのようには進められませんでした。
イ・ギョンス教授は
「分析結果を見ると、45歳〜65歳が主な対象だった。
65歳以上は10%、20%しかない。
病気を管理するために見る指標があるが、糖尿は16指標、高血圧は8指標ある。
このうち2つの指標で少し効果があるようだという結果が出てくるが、これで医学的有効性や妥当性があると見るのは難しい。
試験事業結果を選んで、産業資源部が報道資料を配布したようだ」と話しました。
さらに衝撃的なのは「この程度の結果なら、研究する人たちは論文に載せるのも難しい。
実際に研究した人もそう感じただろう」という言葉でした。
なぜこんな無理な結果を発表したのでしょうか。
イ教授は朴槿恵政権になって、創造経済、市場創出の話が出てきたので、ITによる医療産業で新しい市場を創り出そうとしたようだと説明します。
しかし医療法は規制が多く、現行通りでは遠隔診療といった新しい事業は推進できず、法改正も同時に進められるでしょう。
イ・ギョンス教授は
「医療法は保守的で規制が多くならざるをえない。
新しい手術の技法が導入され、10回手術して、9回成功しても、1回事故がおきればこの技法を導入するのは難しい。
患者の生命に関することだからだ。
ところが全ての慢性疾患者対象に事業をするというのは論理的にも妥当ではない」と話します。
▲イ・ギョンス嶺南大予防医学教室教授[出処:ニュースミン]
「SK、LGが国民の健康保護を目標に事業推進? 違う。
効果を検証して、装備を売るという目的」
イ・ギョンス教授は、遠隔診療のために老人にスマートフォンを配っても、
検査結果を誤入力すればどうなるのか、
情報が転送される過程でデータに誤りが発生すればどうするのか、
病気は一つと思って遠隔診療を利用したが他の病気にかかっていたら、といった例をあげました。
それと共にイ教授は
「IT産業の人々は、ITは薬ではないので安全だとしか考えない。
技術的な面と産業の効果だけを考える。
しかし考えてみよう。
この事業を推進するSK、LGが国民の健康保護を目標として事業を推進しているのだろうか? 違う。
スマートケアを通じ、効果があることを検証して装備を売ることに目的がある」と指摘します。
そうです。老人たちが装備をどう購入して利用するのかは考慮の対象ではありません。
特に、一つの疾患しか持っていない老人たちは、何度もデータを入力しなければなりません。
対面診療なら一回病院に行けば良いのにですね。
イ・ギョンス教授は
「健康脆弱階層が保護され、安い費用で医療を利用できるかというと、保健福祉部の広報とは違う」と強調します。
健康脆弱階層はさらに多くの労働をするので、あまり時間がありません。
相対的に教育水準も低く、コンピュータ、スマートフォンとの心理的な接近性も低くなります。
イ教授は「大邱高血圧センターで一番困ったのは、人々がこないことでした。
やりたくても金もなく、装備もないからだ。
設置しても、彼らが利用できない可能性が高い」と話します。
それと共に「僻地の看護師は一部の診療をする。
看護師がガイドする状況で医師が遠隔で対面するのは可能だと思う。
本人が機械を触って測定するのは現実的には不可能だ。可能だという仮定自体がとても無理だ」と話します。
▲2010年大邱市とLG電子はスマートケア試験事業協約を結んだ。[出処:大邱市]
「遠隔診療を普遍化すれば対面診療の価格はさらに上がる」
では老人を含む健康脆弱階層のためだという政府の主張は事実でしょうか?
イ教授は「若い人々が相談するのに活用するのは可能だと思う。
しかし今の状況は、健康脆弱階層が恩恵を受けると広報しているので過大包装だ」と批判します。
対面診療よりも安い費用で医療サービスを利用できるというのは事実でしょうか。
遠隔医療が日常的に導入されたと仮定してみましょう。
対面診療と遠隔診療を便宜によって選べる人はうまく利用できるでしょう。
しかしスマートフォンも使えそうもなく、複合的な病気を持っている老人が遠隔診療データの入力も大変なので対面診療を選びます。
この時、対面診療報酬は今のように維持できますか?
イ・ギョンス教授は「今の医療報酬体系では、1種類の病気でも、3〜4種類の病気でも診療費には差が出ない。
遠隔診療が普遍化すれば対面診療費はさらに高くなるだろう。
高級化されるのだ。
この時、医療疎外階層の複合的な病気を持つ低所得層が病院を訪問するのはやさしいだろうか」と話します。
それでイ・ギョンス教授も、遠隔診療は診療の補助的な手段でなければならないと話します。
そして「大邱で遠隔診療が必要なのですか?
町ごとに病院があるのに。
病気になった人は心理的にも弱くなります。
彼らが機械だけを見つめてデータ入力することを好むでしょうか?」という質問を投げます。
外国の事例はどうか。
イ教授は「LG、SK、サムスンは、外国で10年前から見てきた。
外国は遠隔診療を制約的にしか利用しない。
慢性疾患管理のためのプログラムに医師や専門の看護師がみな配置されている。
患者がそこにきてコーディネーションを受けて、遠隔診療も併行する」とし
「遠隔だけでできるというのは成立しない。
唯一韓国だけが遠隔医療を普遍化しようとしている。
産業形成のために。
規制を無理に突破して、健康と安全の両方を失いかねない」と警告のメッセージを投げます。
原文(チャムセサン)
翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可( 仮訳 )に従います。
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Created on 2014-03-28 03:04:31 / Last modified on 2014-03-28 03:04:32 Copyright:
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