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造船下請企業の労災死亡はほとんどが人災

労働災害と下請労働者

チェ・ナヨン記者 2015.05.14 11:52

▲昨年10月、3トンの重量物が落ちて下請労働者にあたった。被害者はその場で即死した。鋭い重量物には保護の覆いをかぶせるという基本的な安全規則を遵守せず発生した惨事だった。[出処:蔚山ジャーナル]

▲「これは人ではなく鳥です。高いクレーンの上で安全網もない」。現代重工工業下請労働者が高空で危険な作業をしている。[出処:現代重工社内下請支会]

昨年4月29日午後8時40分頃。 蔚山現代重工第4岸壁の鉄板荷役場で、下請労働者A氏はトランスポーターと向き合って運転手に手信号を送った。 「バック! バック!」 A氏はトランスポーターのヘッドライトと夜光棒を頼りにしているが、いつものように闇は光を飲み込むものだ。 A氏のうしろには高さ15mの岸壁があった。 岸壁の下は海だった。 岸壁の前に安全手すりはなかった。 この日は雨が45度の角度で降っていた。 信号を送り続けて後退していたA氏は岸壁を踏みはずした。A氏は海に落ちた。 「ロープを探せ!」共に信号を出していたA氏の同僚は、あわてて救助装備を探しに出た。 救助装備があるはずの場所には装備がなかった。 彼らが装備を探しに行く間に119救助隊が到着し、救助隊はその後で到着した現代重工の潜水士らと共にA氏を捜索した。 失踪から1時間30分経った後に、A氏は引き揚げられた。 A氏のからだはすでに冷たくなっていた。

昨年、現代重の労災死亡者はすべて下請労働者
外注化の過程で安全管理は後まわし
下請労働者の作業中止権要求は難しく

昨年、現代重工で発生した労災死者数は9人だ。 労災死亡者9人は、全員が下請企業労働者だ。 2005年から2014年までの10年間で、下請企業の労災死亡者数は元請業者の労災死亡者数の二倍を超える。 造船大企業が危険な作業を下請企業に押しつける慣行が広がり、下請労働者の安全問題は後まわしにされている。

労働団体の関係者は昨年発生した8件の労災死亡事故のほとんどが事前に防止できた人災だと指摘した。 蔚山労災追放運動連合のヒョン・ミヒャン事務局長は、安全施設の不備を労災死の原因にあげた。 彼は「A氏は当時、安全手すりも設置されず、照明も非常に弱い状態で働いていた。 ランタンやヘッドランタンも提供されていなかった」という。 彼は「救助装備さえ所定の位置にあれば、海に落ちてもA氏は命を失わなかっただろう」と話した。

現代重工社内下請支会(以下下請支会)のチョン・ドンソク労働安全部長は 「昨年10月、布ベルトが鋭い部品にあたって切れ、3トンの重量物が下請労働者を襲う事件があった。 この事件も鋭い部分に保護の覆いをしなければならないという基本的な安全規則を遵守せずに発生した惨事」と述べた。 昨年3月の足場崩壊で下請労働者が墜落して命を失った事件も、 安全作業のために設置するべき足場を重量物を積むために不法に設置したことで発生した事故だ。

労働団体の関係者らは実質的な労働者の作業拒否・中止権の不在も労災死亡事故の原因だと見ている。 ヒョン局長は「原則的には悪天候では作業を拒否できるが、下請労働者のA氏は言われるまま働くしかなかった」と話した。 チョン・ドンソク労安部長も「昨年3月、海上墜落事故の当時、事故の前に下請企業は危険を予想して作業中止を要求したが、会社は受け入れなかった」と主張した。 彼は「原則的には下請労働者も作業中止権や拒否権を持っているが、 下請労働者がこの権利を使えば解雇されるなどの不利益を受ける。 雇用が不安定なので危険を感知しても作業を拒否したり中断し、安全措置するよう要求できない」と話した。

チョン部長は「安全施設の不備と作業中止権の不在は、すべて業者の利益に関係している。 早く業者が利益をあげようとする過程で、安全施設が後まわしになることが多い」と話した。 彼は「工程が歯車が回るように進められる状況で、作業が中止されれば混乱する。 そのため労働者が作業中止権を使うと業者は損害賠償請求などで該当労働者を不利益措置することが多い」と話した。

下請労働者も安全に問題提起できるようにすべき
「危険作業は元請が管理する必要がある」

専門家たちは、危険な作業ほど多くの安全管理費用が必要なので、 安全管理能力がある元請が管理すべきだと話す。 だが現在、大企業は危険な業務をほとんど下請企業に任せている。 産追連のヒョン・ミヒャン事務局長は 「労災問題を解決するには、危険作業は請負を禁止しなければならない。 だが今は逆に、危険作業の請負が拡大している」と話した。

下請支会は最近合意した作業中止権が、下請労働者にも影響が及ぶようにするには、 下請支会の組織力を強化しなければならないとも言う。 下請支会のある関係者は 「2014年の賃金団体協議で、労組が作業中止権を持つことになったが、 作業中止権が下請労働者の安全まで守ることができるのかは疑問」とし 「下請労働者が安全について問題を提起できるようにするには、 元請業者が元下請全体の安全を管理するという確実な規定が必要」と話した。

ヒョン・ミヒャン事務局長は「元下請労働者が一つの事業場で混在して働いているので、 元請であれ下請であれ、安全施設が不備なところが発見されれば安全施設の設置を要求できる」が、 「現代重工元請労組の活動に下請労組の健康権活動も一緒に反映できる構造を作らなければならない」と話した。 現代重工労使は今年の初めまで続いた2014年度の賃金団体協約交渉で、 労組が作業中止権を持つことについて初めて合意した。

現代重工「昨年、安全管理に3000億ウォンを投資」
下請支会「相変らず危険だ」

安全管理が不十分だという指摘について、 現代重工は昨年4月に3000億ウォンをかけて安全点検・管理を強化したと答えた。 現代重工は当時、特に危険な作業が多い下請企業労働者の安全確保に集中的に投資したと伝えた。

だが下請支会の考えは違う。 チョン・ドンソク労安部長は「現代重工が3000億ウォンを安全管理に投資したというが、 いったいその金をどこに使ったのかわからない」とし 「安全要員は相変らず不足しており、相変らず労働者たちは安全施設もなく働いている時が多い」と言う。 彼は「元請には専門的な安全要員がいるが、下請には安全要員が現場作業も併行する。 安全だけに集中する安全要員はいない」と言う。 彼は「下請労働者らは今も高いクレーンの上で安全網もなく働いている。 労働者は鳥にでもなったと思っているのか」と語った。

これを監視監督すべき雇用労働部は、事故後に不備な安全施設を設置することを指示した。 彼らは「以前より安全施設が良くなった」ということを強調する。 元下請の雇用構造より労働者個人の不注意に事故の原因を探したりもする。 雇用労働部蔚山支庁の関係者は「労働部は1月から労働者に対して安全帽をかぶることを強調するなどの安全キャンペーンを実施している。 持続的に特別勤労監督もしている」と伝えた。

2004年以後、重大災害の責任者が拘束処罰されたことはない

労働団体らは、労災死亡事故の責任を現代重工代表理事と元請業者安全管理責任者などが負うべきだと主張している。 現代重工社内下請支会など3つの労働団体は3月、 現代重工代表理事と造船事業部、海洋事業部の代表を産業安全保健法多数違反で蔚山地方検察庁に告発した。

昨年3月25日に発生した足場プラットホームの崩壊による海上墜落事故と、 4月21日に発生したLPG船火災事故による窒息死の事件の二件は、 検察が起訴し、裁判所の判決を控えている。 昨年の事件のうち残りの事件はまだ起訴が決定していない。 ヒョン・ミヒャン事務局長は「残りの事件は現在労働部で調査中」と話した。

だが専門家たちは労災死亡事故を司法処理するとしても、 安全管理責任者の処罰の程度は非常に低いと指摘する。 民主労総蔚山労働法院のシン・ジヒョン弁護士は 「訴訟にまで行くのは、主に安全措置不十分による産業安全保健法違反の責任を問われることになるが、 処罰が難しく、処罰されても罰金刑で終わる。 金額も最高3000万ウォンまでだが普通は1000万ウォン程度にとどまる」と言う。 ヒョン・ミヒャン事務局長も「労災死亡以後、 法的な争いになっても罰金や執行猶予などで処理されることが一般的だ。 罰金の金額も最近は数十万ウォン程度で、関係者はほとんど負担がない水準だ」と話した。

実際に、これまで現代重工の労災死亡事故により安全管理責任者が拘束処罰されたケースは殆どない。 半月で労働者四人が連続して死亡し、2004年2月に現代重工安全保健総括重役などが産業安全保健法違反容疑で拘束されたことが 現代重工の労災死亡事故責任者拘束の事例の全てだ。

シン・ジヒョン弁護士は「現行法では重大な労災死亡事故が発生しても、 元請業者や下請企業は業務上過失致死罪で処罰されず、 産安法上の罰金刑だけで処罰されるが、その金額が低すぎる。 現在の処罰水準では、企業が労災予防に積極的に動くのは期待できない」と言う。 彼は「産安法では元請を処罰するのが難しいので、 元請に対して実質的な責任を問う方案が必要だ」とした。

企業殺人法制定など企業主処罰の強化を

これについて労働界では、労災死亡に対する企業主の処罰を強化しろという声が高い。 ヒョン・ミヒャン局長は 「労働者1人が死んでも事業主にとって大きな責任と処罰がないので、 事業主は労災予防をしない」とし 「労災死亡は事業主による明白な労働者殺人行為だ。 労働者の労災死亡に対し、事業主の明らかな責任を問う企業殺人法を制定すべきだ」と話した。

シン・ジヒョン弁護士も「労災死亡が発生した場合、 経営責任者に対して加重処罰条項を持つ特別法を制定したり、 懲罰的損害賠償制も導入するなどで事業主の責任と処罰を強化していかなければならない」と話した。 ヒョン・ミヒャン事務局長はまた 「企業主らの処罰強化と共に下請労働者を大規模に投入する雇用問題も解決していかなければならない」と指摘した。

付記
チェ・ナヨン記者は蔚山ジャーナル記者です。この記事は蔚山ジャーナルにも掲載されます。チャムセサンは筆者が直接書いた文に限り同時掲載を許容します。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2015-05-14 23:29:08 / Last modified on 2015-05-14 23:29:09 Copyright: Default

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