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土田修のグローバルニュース(番外編):韓国クーデター未遂事件を深掘りするフランス・メディア | ||||||
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●フランス発・グローバルニュース番外編(2025.2.2) 韓国クーデター未遂事件を深掘りするフランス・メディア土田修(ジャーナリスト、元東京新聞記者)
実は、クーデター計画の詳細な内容は、現在、韓国内で進行中の裁判や国会の調査委員会によって次々と明るみに出ている。反共主義者で独裁政権時代への郷愁に取り憑かれた尹被告が「野党勢力が北朝鮮と通じている」という妄想から「韓国を守る」ために起こした確信的暴挙だったのだ。韓国の社会や政治を揶揄したり笑い飛ばすことに余念がないワイドショーにとっては格好のネタのはずなのだが、目下のところ、日本のメディアはこの件について奇妙な沈黙を守っている。 ル・モンド紙によると、尹被告は検事総長を務めていた2020年ごろに、ある夕食の席で「検察の歴史とは赤(共産主義者)との闘いの歴史だ」とし、「自分が軍人だったらクーデターを起こしている」と発言していた。2021年10月には全斗煥を「優れた政治家だった」と称賛し、軍事独裁政権を肯定する発言を繰り返していた。また、尹被告は右派の中心人物である福音派のカリスマといわれるチョン・グァンフン牧師の影響を強く受けており、北朝鮮や左派への激しい敵意を度々表明していたという。2022年5月の大統領選挙で当選した尹被告は大統領府を青瓦台から国防省の庁舎内に移転しているが、縁起をかつぐ福音派的シャーマニズムの要素が絡んでいるといわれている。 2023年4月の総選挙で革新系野党「共に民主党・民主連合」が大勝利を収め尹政権は窮地に立たされた。その結果として、与党に対する支持率低迷がクーデター計画の引き金になったと考えられるが、同年8月の韓国独立記念日の演説で尹被告は「共産主義を盲目的に信奉し、歪んだプロパガンダを通して社会を混乱させる反国家勢力が存在する」と野党を「赤」と決めつけ糾弾する発言をしていた。これは2024年12月の戒厳令を宣言した際の声明と同じ内容だった。その後、尹政権はメディアの統制を強化し、野党や政権批判者に対する弾圧や訴追を次々と開始しており、スウェーデンの民主主義研究機関V-Demは「韓国における民主主義の後退」を警告していた。 憲法上、韓国の大統領は5年間の単独任期のみで、再選は認められていない。「尹被告は妻の不正疑惑で任期終了後に投獄される恐れがあった」と指摘するのは政治評論家のキム・オジュン氏だ。「彼は政権を延長する手段を模索しており、妻を大統領にするか、クーデターによって強権体制を敷くしかないと考えていた」。だが、尹被告の妻は不起訴になったとはいえ、高級バッグ受領疑惑などによって国民に不人気であることから強権体制に突き進むしかなかった。 政治的に追い込まれた尹被告がクーデターを決意したのは、2024年3月、シン・ウォンシク国防相(当時)らを、大統領府管轄の邸宅に招いた非公式の夕食会でのことだった。「近い将来、戒厳令を宣言する必要がある」との発言にシン国防相らは驚き、思いとどまらせようとした。同年8月、尹被告は高校の同級生の退役軍人キム・ヨンヒョン被告(内乱罪で起訴済み)を国防相に任命し、クーデター計画に反対したシン氏を排除した。 ほかにも、軍内部の反対勢力を抑え込む目的で、高校の同窓生であるヨ・インヒョン被告(同)を国軍防諜司令官に任命するなど信頼できる側近を政治の中枢に配置することに余念がなかった。1980年に軍事クーデターを起こした全斗煥は陸軍士官学校出身者の秘密組織「ハナフェ」を基盤として軍の掌握に成功したが、尹被告も同様の手法で軍や政府機関の掌握に努め、戒厳令によって「大統領の意のままに動く国会」の設立をめざした。 「戒厳令を正当化するための大規模なテロ作戦も計画していた」とル・モンド紙は指摘する。尹政権はクーデター計画のため5000人の兵士と2000人の警察官を動員しており、「北の仕業」と見せかけて、反政府的な野党議員、ジャーナリスト、判事、弁護士を逮捕または暗殺しようと特殊部隊を選抜していた。その中には「北朝鮮指導者暗殺任務」に特化した第707特殊任務隊も含まれていた。兵士たちには「北朝鮮の脅威が迫っている」と偽の情報が叩き込まれていた。 ル・モンド・ディプロマティークのランベール記者は、尹一派が北朝鮮を軍事的に挑発するため昨年10月に平壌までドローンを繰り返し飛ばしたり、野党議員らの暗殺のため北朝鮮軍の制服を大量に用意し、「北の仕業」に見せかける「偽装工作」を計画していたことについて明らかにしている。この暗殺計画を実行するのに韓米連合軍の統制下に入っていない特殊部隊の編成まで行っていたのだ。クーデターが成功し、尹被告による強権政治が始まっていたら、北朝鮮との軍事的衝突は避けられなかったのではないか? ▪️メディアの沈黙と「国内植民地主義」「自由と憲法秩序を脅かす親北朝鮮の反国家勢力を根絶する」。この尹被告の妄想が一歩間違えれば朝鮮半島有事を引き起こしていたかもしれない。米国の監視を逃れようと特殊部隊を編成したというが、平壌を狙ったドローンは38度線を超えている。北朝鮮軍の制服を着た兵士が韓国野党の議員らを暗殺したとすれば韓国軍が北に侵攻する可能性もある。仮に南北が交戦状態に入れば韓国軍は米軍の指揮下に入る。朝鮮戦争は終わっていないからだ。そんな事態に発展する危険のある出来事を在韓米軍が把握していないはずはない。この件をめぐって在韓米大使が在日米大使とやりとりをしていたという情報もある。日本にある米軍基地が標的になったり、朝鮮半島情勢が日本への直接的脅威となる場合には「集団的自衛権の行使」が検討され、日本の自衛隊が出動する可能性もある。日本は最早、朝鮮半島有事と無縁ではないのだ。それだけに日本のメディアの沈黙は不思議でならない。新聞テレビ各社はソウルに特派員を出し、随所にアンテナを張っているはずなのだ。今回のクーデター未遂事件について、フランスのメディアよりも多くの情報を入手していないはずはない。「反共主義者」であると同時に親日・親米家でもある尹被告について、不都合な情報を報道することに対し、自己規制しているとしか思えない。 日本の戦後政治において、岸信介、佐藤栄作、麻生太郎、安倍晋三と米国に追随する「反共主義者」が首相を歴任してきた。日本は朝鮮半島や満州を植民地にしてきた過去の歴史ときちんと向き合ってきたとは言えない。麻生太郎氏の祖父、麻生太吉が創業した麻生炭鉱では、第2次世界大戦中に強制連行された朝鮮人労働者に過酷な労働を強いていたことで知られる。その麻生氏は日本語の強制や「創氏改名」など、日本が植民地時代の朝鮮半島で行った「同化政策」ついて「当時の朝鮮人が望んだことだ」と述べたことがある。 日清戦争後、台湾経営で始まった日本の植民地政策は、フランスのアルジェリアにおける植民地統治をモデルにしたといわれ、その基本は植民地を本国の延長とみなして支配する「同化政策」にあった。麻生氏の発言は、韓国を属国視する植民地主義者の発想に基づいている。第2次世界大戦後の日米にとって韓国は政治的・経済的・地政学的にそれぞれの自国の利益に適う存在でなければならなかった。日本のメディアは米国にとって「反共の防波堤」になっている日韓の権力構造に忖度して沈黙を守っているのではないか? 新自由主義的政策が国内で生み出している格差や差別の問題、階級的搾取と抑圧の問題は、グローバル化の時代の植民地主義、すなわち立命館大学名誉教授の西川長夫氏(比較文化論)が提起している「国内植民地主義」の問題を抜きにして語ることはできない(平凡社刊『〈新〉植民地主義論』)。尹被告のクーデター未遂事件に対するメディアの沈黙は、朝鮮半島をめぐる戦後史への反省的認識の欠如を物語っている。 Created by staff01. Last modified on 2025-02-03 16:42:23 Copyright: Default |