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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『闘って正社員になった 東リ偽装請負争議6年の軌跡』
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毎木曜掲載・第343回(2024/4/25)

5人の闘い

『闘って正社員になった 東リ偽装請負争議6年の軌跡』(東リ偽装請負争議原告・弁護団編、耕文社、1400円+税)評者 : 志水博子

 タイトルにもある「東リ偽装請負争議」は、労働組合や労働運動に携わっている人なら、きっとご存知に違いない。2017年11月、たった5名の非正規雇用の労働組合員が、住宅建材の製造販売を営む「東リ」を相手取り偽装請負を告発し、地位確認訴訟(平たくいえば自分たちを「東リ」の正社員として認めさせる裁判)に挑んだ。2020年3月、一審神戸地裁では敗訴したものの、2021年11月大阪高裁で逆転勝訴、そして2022年6月、最高裁が東リの上告受理申立を不受理とし高裁の勝訴判決が確定した。日本で初めて「労働契約申し込みみなし制度」(派遣法第40条の6)が適用され、原告5名が正社員となった事例である。

 このことを知った時、おそらく現在の日本社会で「偽装請負」であることを知らず違法な状態で「働かされている」多くの非正規労働者にこそ、彼らの闘いを伝えたいと思った。

 本書は、原告の5名はもとより弁護団、そして支援者によって著されており、様々な読み方ができる。「はじめに」のところには、この問題の概要と背景的なものが描かれているが、特に印象的だったのは「政治」との関係性である。今回、初の適用となった「労働契約申し込みみなし制度(派遣法第40条の6)を導入したのは、2012年の民主党政権であり、それが、10年以上棚ざらしにされてきたのは、その後の自民党政権下であった。

 第1部の「東リ伊丹工場での偽装請負の実態」は、弁護団であるお二人の弁護士が著されているが、偽装請負であることを立証するためにここまで調べることが必要だったのかと驚くほど詳細かつ綿密に書かれていることに舌を巻く。これだけでも弁護士団の、この裁判にかける並々ならぬ意気込みが伝わってくる。それは、第2部の「法律闘争の取り組みとその成果」も同じである。ここは、法曹界とでも言おうか、弁護士はもちろんのことだが裁判官、それに厚労省をはじめ労働行政に携わる人にもぜひ読んでほしいところだ。

 私が一番関心を持ったのは、原告のひとり有田昌弘さんが書かれた「組合結成・偽装請負告発から、全員職場復帰・直接雇用・正社員化まで」だった。彼らはなぜ闘うことができたのか。それをぜひとも知りたかった。労働組合を立ち上げたきっかけは、当時の請負会社L社のI社長のパワハラだという。それをおかしいと社長にいうことができない従業員たちは、苛立ちを共に働く同じ従業員に向け、そのせいで職場はいがみあっていた。それを何とか変えたいと思ったからだとあった。なるほどそれが5人の闘いの出発点であったのか。そして、こうも書かれていた。自分たちがI社長の言いなりになっていたのは労働法の知識に乏しく、社長に逆らえばクビになると思い込んでいたからだ、労働組合を組織できるとは夢にも思わなかった、と。ああ、今もきっとそんな風に思っている労働者は多いのではないか。この本をそんな労働者たちに届けることはできないものだろうか。

 さて5人は組合をつくって会社にI社長に対抗していく。団体交渉の過程で就業規則がないことや36協定を結ばずに残業させられていたことも明らかになる。労働運動を通じて権利意識が芽生え、それらの存在意義も知り、闘い方も身につけていく。

 そこには、労働者の生の声、ホンネがふんだんに出てくる。例えば、非正規しか選択肢がなく偽装請負であろうがなかろうが働くしかなかったと。偽装請負であることがわかっていてなぜ闘わなかったのか、答えは明快、闘う必要性を感じていなかったと。また、こうも言う、私は労働者の権利向上・回復のためにために闘ってきたのではない、結果的にそうなったとしても、私の考えは別のところにあったと。それは、働くなかまを思うからではなかったろうか。

 そして、5人は行動する、その一つひとつが具体的にリアルに描かれている。I社長との闘い、村田浩治弁護士との出会い、なかまユニオンとの出会い、その中で、社前や街頭での宣伝やビラまき、署名活動など労働組合運動のいろはを知ったと。

 途中に挟まれている、弁護士や支援者を含めての原告5名の座談会も興味深い。5名それぞれなのだが、この5名だからこそ、将来的に勝つという保証のない闘いを諦めずに最後まで続けることができたのかもしれないと思った。

 心にズシンと来たことは、次のくだりである。「私たちが果たした5人揃っての職場復帰及び正社員化は、労働運動界にとっての大きな勝利であり、これ以上ない成果として評価されている。私たちは東リに勝利したことは、もちろん嬉しいが、私たちにとって現場で日々働くことと、運動の成果は別物である」

 その後に書かれていることから、労働運動で一番大切なことは、「勝利」以上に、労働者が当たり前に働くことができ、当たり前に生活できることだと伝わって来た。

 弁護士や組合活動家は本書を読み、ぜひともそれをかみくだいて労働者に届けてほしい。そのためには「労働契約申し込みみなし制度」(派遣法第40条の6)について、わかりやすいリーフレットがほしい。欲を言えば、誰か、この5人の闘いを漫画にしてくれないだろうか。ぜひ違法な状態で働かされている多くの非正規労働者に届けたいのだが。


Created by staff01. Last modified on 2024-04-25 09:29:26 Copyright: Default

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