児玉繁信 : 私たちは、危うい「均衡」の上に立っている

　イスラエルのガザ虐殺が止まりません。レバノン戦争を始めてしまいました。さらにイラ
ン戦争を始めようとしています。地元のミニコミ誌に書きました。ご笑覧ください。

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イスラエルとアメリカは、虐殺を止めよ！
レバノン、イランに戦争を拡大するな！
核戦争の危機が迫っている！　

児玉 繁信

１）  イスラエルによる虐殺が止まらない

 イスラエルによるガザでの虐殺が止まらない。イスラエルは、レバノンとの戦争に突入
し、レバノンの民間人が大量に殺されている。アメリカだけがイスラエルを止める力を持
っているのだが、武器と資金を送り続けている。武器と資金を止めれば、イスラエルは戦
争できないのは明らかなのに、止めない。このアメリカに英仏独日などが追随している。

 アメリカとイスラエルは、世界中の人々から道徳的に信頼を失った。グローバルサウス
の国々は一層、アメリカに背を向け、政治的な信頼も失っている。

２）  イスラエルの戦争目的

 イスラエルの軍事作戦の目標が揺らいでいる。2023年10月7日のハマス攻撃時には、「人
質の奪還」と「ハマスの壊滅」だった。どちらも実現していない。2024年9月になると、
「ヒズボラの脅威で北イスラエルから避難した住民6万人の帰還」が目標に加わり、レバ
ノンのヒズボラとの戦争に突入した。しかし、ヒズボラを敗北させることはできない。逆
にイスラエル軍の被害が報告されている。

 イスラエル軍は、9月27日にはレバノンのヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害した。
10月16日にはハマスのシンワル指導者を殺害した。「これは、目的は一応達成したとして
戦争を終えるチャンスだった。しかし、そのような選択はしなかった。ネタニヤフは戦
争をやめるつもりがない。軍事作戦続行の選択肢をとるならば、ハマスとヒズボラは抵抗
を続け、新しいシンワル、新しいナスララが生まれてくることになる。そればかりか、今
では戦争目的に対イラン戦争が加わりつつある。それは悲惨で悲劇的な間違いだ。」(ア
レクサンダー・メルクーリス)。

 ネタニヤフ政権の狙いは、アメリカを中東戦争に巻き込むことでイスラエルと政治家ネ
タニヤフの危機を解決することにある。イスラエルは世界を第三次世界大戦に巻き込みた
いのである。

 だから、イスラエルによる対イラン戦争が迫っている。ネタニヤフとネオコンの論理か
らすれば、イラン戦争を始める。

３）　イスラエルの疲弊

 イスラエルは、世界中でから大きな批判、非難を浴びている。ハマス、レバノン、イラ
ンとの戦争はイスラエル経済と社会に莫大なストレスを与えている。投資格付けは大きく
落ち、投資は激減した。観光業は壊滅状態、IT産業はエンジニアを兵士にとられ技術者・
労働者不足だ。出国するイスラエル人が100万人に達した。

 イスラエルはハマスとの全面的な戦争、制圧を目標にやってきた。パレスチナ人虐殺の
継続だが、これはイスラエル人にとっても間違いである。イスラエルを何年も困難な戦い
に導く。ハマスの根絶は達成不可能だ。ヒズボラ根絶の戦争は、さらに不可能である。戦
争は長期化する。

 ネタニヤフのこの考えは、アメリカのネオコンと一致している。異なる理由ではあるが
補完的に一致し野合している。これまでイスラエルは戦争を短期で終えてきた。しかし
この戦争は長期化する。イスラエルには長期間にわたって戦争をする力がない。

 停戦がはるかにいい方法なのだが、ネタニヤフ政権にはこれができない。ハマスを残し
認めることはできないという。

４）　アメリカが止めない！

 すべての戦争を止めることができるのはアメリカだが、止める意欲が全くない。米とEU
はイスラエルを支持し武器を送り続け、レバノンとイランへの戦争拡大を支援している。
(イスラエルへの武器輸出のうち70％がアメリカ、30％がドイツ)

 ハマスもヒズボラもテロリストではない。選挙で選ばれた政党である。アメリカもEU・
日本も、ハマスやヒズボラをテロリストと非難しているが、そもそもこれが間違いだ。イ
スラエルを支援し武器を送る理由にはならない。

 国連総会では、国際司法裁判所の決定に従い「イスラエルのパレスチナ占領は違法であ
る」という決議が下され、「イスラエルが撤退しなければならない」とする具体的な措置
を採択したものの、アメリカが拒否権を行使した。バイデン大統領はイスラエルとパレス
チナ国家の二国家共存が必要だと口では述べたが、パレスチナ国家が国連に194番目の加
盟国となろうとした時、アメリカだけが拒否権を行使した。「拒否権を行使するアメリカ
が、国連を無力化し、平和の障害となっている」（ジェフリー・サックス）。

 バイデン政権は「イスラエルに自制を求めている」と何度も表明しながら、武器を送り
続けてきた。アメリカ政府の発言は「煙幕」であり、嘘であることを、今では世界中の政
府と人々が理解している。

 イスラエルへの戦争支援は、バイデン政権の大きな失敗だ。イスラエルの対イラン戦争
の開始に導き、世界の終わりとなる。第三次世界大戦と核戦争を引き起こす。バイデン政
権はこれまで常に戦争をエスカレーションさせてきたから、このままならイスラエルの対
イラン戦争は必ず起きる。

 ただ現時点では、アメリカ政府内に混乱が見られる。これまで戦争を主導してきたネオ
コンに対し、米国防総省ペンタゴンが中東戦争に参戦した時の見込みを検討し、ストップ
をかけているようなのだ。「ウクライナ戦争中に、中東戦争に参戦しても勝てない、さら
には本当の敵・中国に戦争を仕かけられなくなる」という判断である。アメリカの軍事力
にも限界があることをペンタゴンは理解している。

 現代世界は今、この危うい均衡の上に立っている。

５）  イランは自制している

 10月1日のイランのイスラエルへの反撃は、イランの攻撃能力を認識させ、アメリカとイ
スラエルに衝撃を与えた。多くの衛星映像により、マッハ5の超音速ミサイル・ファッタ
Ⅰがイスラエル空軍基地とモサド本部を攻撃したことを確認した。アイアンドームは容易
に突破されることが示され、アメリカは急遽、THHADミサイルを配備した。それでも、迎
撃は不可能である。この厳しい現実を認識したのは、アメリカ・ペンタゴンであり、イス
ラエルのはずだ。

 戦術と武器にゲームチェンジが起きている。最強兵器はミサイルであることが明らかに
なった。空母も戦闘機も陳腐化しつつある。双方が超音速ミサイルを持つが、迎撃できる
ミサイルは地球上にはまだ存在しない。戦争となれば、双方が破壊される。

 イランは、イスラエルに対イラン戦争の意図があることを十分に承知し準備をしてきた。
それゆえ、イランはアメリカと西側諸国に対して「我々は抑制的であり、紛争を求めて
いない」と伝え、アラブ諸国にも、戦争となった時にアメリカ軍基地を使用させないよう
に求めている。ロシアと軍事同盟を結び、ロシアの迎撃ミサイルS-400を配備した。

 イランの外務大臣アラーグチは「イランは戦争を望んでいない。しかし、戦争が起きる
ならばイランは準備はできており、戦う」と表明した。イスラエルとアメリカは、イラン
の「はったりだ」とコメントしたが、そうでないことは認識している。イスラエル存続に
かかわる脅威だからだ。

 イスラエルに残っているのは、サムソンオプション、すなわち核攻撃である。イランの
地下核施設を破壊するには核兵器以外にできない。これも現実の一つだ。「イランはまだ
核弾頭を持っていないが、ウラン濃縮は60％以上を超えており、早急に核弾頭をつくる能
力はある。打ち込む超音速ミサイルはすでに持っている」（シーモア・ハーシュ、スコッ
ト・リッター）。

 ロシア・プーチン大統領は、イスラエルに対して(そしてアメリカに対しても)、「イラ
ンの核施設、石油施設へ攻撃をしてはならない、攻撃の検討さえしてはならない」と強く
警告した。ロシアとイランは実質的に、戦略的な同盟関係に向かっている。

 その結果、10月26日のイスラエルのイランへの攻撃は、核施設と石油施設を除く、軍事
基地に限定された攻撃となった。イランはイスラエル・ミサイルの多くを撃墜した。イス
ラエルとアメリカは、イランの迎撃能力の一部を改めて認識した。

６）  世界戦争の危機が迫っている

　世界戦争の危機が迫っている。それは、アメリカとイスラエルから迫ってきている。「
戦争を始めるのは簡単だが、止めるのは非常に難しい。ネオコンはこれを知っている。」
(アレクサンダー・メルクーリス)。当面、2025年1月の次期大統領政権になる前までが、
一つの機会だろう。

 現在、第三次世界大戦と核戦争の危機が迫っている。私たちは、危うい「均衡」の上に
立っている。

 平和憲法をもつ日本政府と市民は、アメリカ追従を断ち、和平協議への努力を続けるこ
とが求められている。声を上げ続けよう！     (2024年11月2日記)