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選挙だけの政治は弱い、参加型民主主義の道を!

印鑰 智哉(いんやくともや/写真) 2024.11.18

 米国の選挙だけの話と思っていたようなことがそのまま日本でも起きてしまった、そんな翌朝。不安を感じる人は少なくないだろう。

 世界の状況がここまでひどくなっている時代は果たしてあっただろうか。気候危機を止めることができないばかりか、以前の予想を超えて危機を加速させている。アゼルバイジャンで大事な会議が開かれているのに、そのことに誰が気を止めているだろうか? 本来、危機を避けることに必死にならなければならない時期に政府は動かず、そんな中、自然災害は激甚化する一方で、犠牲者は増え続けている。動いているのはごまかしの免罪符を得た企業ばかり、本当の対策は遅々として進まない。

 これまでは問題が生まれたら政府が対処するのが当たり前だった。でも今その機能が失われたに近い状態になっている。その主因の一つは政府官庁の機能が企業によってあちこち食い破られていることだ。政権与党はそれを止めるばかりかそれを利権の一つにして、促進してしまっている。そんな中、政府が掲げる公的な使命とその現実のギャップの前に政府はまっとうな役割が果たせなくなっており、官僚も矛盾に直面して、人材流出も止まることがなく、機能不全に陥っている。

 本来、こうした問題を社会に伝えることで存在意義を発揮してきたマスコミもやはり同様に機能不全に陥っている。インターネットの拡大の中、マスコミの多くは本来のミッションを果たす能力を失っている。その重要な機能を受け継ぐオルタナティブな情報流通の仕組みは萌芽的には存在しているとしても、まだ社会全体では機能しているとは言えない。情報は社会にとっての血液、それがスムーズに流れなければ社会の各所で壊死が起きる。

 こんな中、選挙はカルト的勢力の独壇場になりつつある。まっとうな理念を掲げた候補を、短絡的、扇情的なストーリーをSNSや街頭で流した候補が負かしてしまう。まっとうに危機に立ち向かおうとしている人たち、危機に曝されるマイノリティを守ろうとする人たちの主張が社会から拒絶されてしまう、としたら絶望を感じざるをえないだろう。選挙は暴力的になり、選挙後、対話が成立する環境は生まれそうにない。政治権力はマイノリティをさらに無視するものになっていくとしたら、恐怖感以外何ものでもない。マイノリティの切り捨ては全社会的な崩壊をもたらすことを歴史は語っている。この流れの行く先はどうなってくるのか、と不安は大きくならざるをえない。

 このような流れが世界各地で大きなうねりになっているということはこの流れは偶然のものではなく、歴史的なものであると考えざるをえない。だから、次の選挙に向けて工夫する、というだけでは解決策も見えてこない(もちろん、選挙は引き続き、重要なのだが)。この動きは「国民国家が資本主義を制御する」という以前から虚構でしかなかった物語の終焉が近い、ということに過ぎず、それまでの物語を構成していた要素がボロボロになっているということに尽きる。

 問題なのは次のありようがはっきり見えてきていないことだ。今の悪循環を断ち、新しいありようを具現化するためにもその進む先が見えてこないと、人びとの力は結集できないし、社会を変えることもできない。

 大きな絵を描くことは容易ではないが、すでに先人たちが示したもの、そして今、各地で生まれている動きをかき集めることで新たな道はぼんやりと描くことは可能なはずだ。それを堂々と描き続けることが重要だろう。そして、それを実現させる有効な方法としては、選挙だけでない社会へのコミットを拡大させること、そのためにも直接的な信頼を元にして課題を共有する小さな場を無数に作り、それらが相互に緩くつながり合うことだろう。次以降の選挙もそんな中で変えていくことができるはずだ。

 選挙だけの政治は弱い。そして世界では間接民主主義の限界を打ち破るさまざまな試みがすでに始まっている。参加型民主主義の進展は世界の政治を少しずつ変えつつある。たとえば食のあり方は議会に一任できる話ではなく、地域に食料政策協議会を作り、そこで市民自身が政策を練る。ボトムアップの動きだ。あらゆる分野でそうした取り組みが必要になっていくだろう。そうした動きが本格化していく中で、新たな情報流通も活気づくはずだ。そんな中、新たな社会のあり方が誰の目にも見えて、機能不全に陥った政府・地方自治体の改革も青写真が描けるようになるに違いない。

 危機の進展と、この試みの進展の競争になるかもしれない。事態は厳しいが、絶望に陥っている時ではない。(筆者は環境ジャーナリスト)


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