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書評:村山良三『JR冥界ドキュメント 国鉄解体の現場・田町電車区運転士の一日』(2024年、梨の木舎)

森 健一(現代史研究者)

 先日、7月7日の東京都知事選で石丸候補に165万票が投ぜられた。彼が何か違う、変わったことをしてくれそうだとの期待感があるようだ。私は、1980年代半ばからの「新自由主義」への転換で、日本社会から中間層がいなくなったこと、社会が上下に分断されたことが背景、根底にあるとみていた。淵源は1982年の中曽根内閣の国鉄分割民営化にある。「総評を崩壊させようと思ったからね。国労が崩壊すれば、総評も崩壊するということを明確に意識してやった」(『AERA』1986年12月30日号)と中曽根は臆面もなく語った。結果、「新自由主義」の鼓吹者たちへの対抗、カウンターが日本では弱められた。

 さて、この村山良三〔1939年〜〕『JR冥界ドキュメント』は、国鉄解体が「人間の破壊」であったことを「失われた30年」を経た、今だからこそ伝える記録文学になっている。とりわけ、1982年に「労使共同宣言」を国鉄当局と交わした、動労系の組合員による国労組合員への執よう、陰湿な心身攻撃がつぶさに再現、記録されている。

 86年、87年と村山が運転士として詰めた田町電車区では、動労系の役員らが構内を「私的巡回」して、4,5人が暗がりや仮眠室では、国労組合員へ挑発と暴力を繰り返した。管理者らは見て見ぬふりである。また、86年4月、分会長の国労役員からも動労系の「真国鉄労働組合(真国労)」旗揚げに参じる者が現れる。かつては、彼は糞尿にまみれる検修職場からの起こされた「入浴闘争」のヒーローの一人だった。外注化反対のチラシに民間の下請けの作業者を「害虫」の字をあてたりもする。働く者、人としての共感がないのだ。


*NHKテレビで組合つぶしの「一念でやった」と明けすけに語った中曽根首相

 88年、新宿要員センターから青梅駅に派遣された時、乗客を装った若い人物が筆者に「襟の〔国労〕バッジをつけているのをあんただけじゃないか、外せよ」「生意気だ」と唾を吐きかけてくる。この時、筆者もひるまなかった。駅前交番から青梅警察署長が呼ばれ、民事不介入で収まっている。読みながら危ういところである。

(第2章)

 国鉄分割民営化とは、たたかう国労の解体であり、労働職場での「人間の破壊」であった。「失われた30年」を経た、今だからこそ、その破壊の意味が身に染みてわかる。国労組合員である著者に職場であえてミスを作り出そうとし、心身を痛めつけるやり口は私学の職場で内部告発を続けた私への学園側、管理者らの10年以上の手口と酷似する。

 推薦文を寄せた鎌田慧氏は「国有財産を民間に横流しするクーデターであり、中曽根内閣の悪行だった」と断じる。2017年の選挙で英国労働党は、マニュフェストに水道、電力、鉄道、郵便の再国有化を掲げた。今、世界各地では、公共事業の再公営化の流れが勢いを増している。欧州での左派連合の躍進も「新自由主義」を鼓吹した、グローバリズム勢力への対抗、カウンター勢力の台頭である。先の都知事選では、ここを論点、争点として有権者にアピールできなかった。小池陣営を支えたのは、自民党・公明党(創価学会)、そして本書が許さないとした「人間の破壊」を労組の名で遂げてきた連合東京らである。

 本書を読んで、組合ごと当局の側に寝返って、もとの仲間への攻撃に転じるとは何であろうか。そうした「社畜」化して、魂を喪った人々の群れを筆者は「冥界」と言い表している。人間の破壊を続けて、日本の社会が復元力を失ないつつある。思えば、九州、北海道の1047名の国鉄闘争団には「人らしく生きよう」との合言葉があった(参考映画『人らしく生きよう−国労冬物語』)。

 私は、「新自由主義」と現下のグローバリズムへの対抗勢力を築くこと、自治体事業の民営化(利権、天下り)に反対する主張と「人らしく」生きること、「魂を売り渡していなかった」政党や労働組合の復権を互いに組み合わせてこそ、先の石丸候補にひき寄せられた人たちへの呼びかけであると思う。都知事選では、岸本杉並区長ら街頭に1人でも立ち、アピールする市民、つながる若い人達の姿が希望である。私たちは負けない。

〔追記〕
 本書41頁の注にある、2015年6月〔30日〕「最高裁で設立委員会〔委員長・斎藤英四郎経団連会長〕内での不当労働行為があったとの判決が出された」との記載を確かめ、検索しても判例データベースに載っていない。これも問題である。私が資料整理した『戦後史のなかの国鉄闘争』(2020年)でも最高裁の認定の記載を落としている。
 また、本書のあとがきにある、1986 年7月7日の衆参同日「死んだふり」選挙で中曽根が大勝(304議席)、国労側に立つ社会党が敗北したが、背後で文鮮明の旧・統一教会が60億円の巨費をかけ、「訓練された精鋭部隊」を投入、130名の「勝共議員」を台頭させた。(「朝日」2023年4月27日)も知らなかった。今回の7・7都知事選での小池・石丸の大勝も同じ視点から現代史としてはやく検証すべきだ。


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