〔週刊 本の発見〕『訪問看護師がみた生と死 在宅無限大』 | |||||||
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毎木曜掲載・第326回(2023/12/14) 死を自分の手に取り戻す『訪問看護師がみた生と死 在宅無限大』(村上靖彦、医学書院)評者 : わたなべ・みおき離れて暮らす親の介護や自身の先行きに対する不安もあり、思い切って高齢者介護の職場に飛び込んだ。お年寄りが徐々に体が弱まって食べられなくなり、眠っている時間が長くなって亡くなられると、天寿を全うされたのだなぁ、安らかにお眠りくださいと思える。ご家族にも、亡くなる前の数日間位はなるべく来ていただき、一緒に過ごしていただくと、ご本人もご家族も納得してのよい最期を迎えられると思う。 こうして「在宅」で亡くなれるのは、病院での「治療」をしない、と決めたから。そうでないと、だいたい最期は入院してさようなら、となってしまう。 厚生労働省の2017年の調査によると、国民の63.5%が「自宅で最期を迎えたい」と希望しているが、2020年の死亡者のうち在宅で死んだ人の割合は15.7%で、68.3%は病院で亡くなっている。 1951年には、自宅で死亡した人の割合は82.5%、病院で死亡した人は9.1%だった。それが1975年頃に半々になり、2005年には自宅死が12.4%、病院死が78.4%となったという。2000年に始まった介護保険の導入と在宅医療の推進が進められていることもあり、徐々に在宅死が増えてきてはいるが、まだ病院での死が多い。 著者は、人類史において病院で人が死ぬというのは先進国におけるここ数十年の例外状態であり、今はいったん失われた自宅における看取りを再発明しつつある時であると捉えている。 それはかつてのように、なす術もなく家で亡くなったのとは異なる。医療技術の進歩によって、死亡原因の上位を占めるがんの緩和医療を行うことが可能となった、いわば先端医療が組み込まれた「家」が発明されたことによる在宅死である。本書はそこに関わる訪問看護師への聞き取りをまとめたもの。 哲学の研究者としての著者が「臨床実践の現象学会」で行った講演内容も掲載されている。生真面目な学者が現場の看護師に聞き取りをしてわかったことを哲学的に?分析しているのが面白い。日々お年寄りの姿を通して長い人生を生きぬくヒントや智恵をいただくがそれを伝える大変さも感じているので、訪問看護師の実感が込められた言葉を「外」に分かる言葉にまとめているのは貴重だと思う。 病院は、病気を治す所であって生活するところではないので「治療」以外のことは制限される。起床や就寝時間も決められ、夜更かしして好きなことをしたり、喫煙や暴飲暴食も許されない。でも人間は、体に悪いとわかっていても、油や糖分、塩分たっぷりのジャンクフードを食べたい時もある。 在宅での看取りは「言うことを聞いてくれない」わがままな患者に対して「治療」ではなく「生活」に焦点を置きながら、その人に分かりやすく説明して病気との付き合い方を分かってもらいながら行うという。 体験したことがない「死」を前に立ちすくむ家族や本人に、この先どのような段階を経て死に至るのか、見通しを知らせてあげること(予後告知)で、本人や家族が主体的に死に臨むことができるように導いていく、という役割も語られる。 在宅医療は一人一人の生き様に合わせてオーダーメイドされるから無限大なのだ。病院の管理下に置かれがちな死を自分の手に取り戻す、在宅看護に希望を感じた。 Created by staff01. Last modified on 2023-12-14 01:38:20 Copyright: Default |