〔週刊 本の発見〕國分功一郎『目的への抵抗』 | |||||||
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毎木曜掲載・第310回(2023/8/10) コロナ危機下に生き方を問う『目的への抵抗』(國分功一郎、新潮新書)評者:わたなべ・みおきタイトルを見て、何のことだろうと思ったが、帯に「自由は、目的を超える。『暇と退屈の倫理学』がより深化。」とあったので手に取った。『暇と退屈の倫理学』は本著にも言及されているが、宣伝に踊らされて「消費」するのではなく、手間暇をかけて「贅沢」をしよう、「無駄」とされるものにこそ、人間らしく生きることが含まれているという、著者自身の現在進行形の問題意識に基づく考察=生きている哲学の好著だった。 本書は東大で行われた二つの講話をもとにしており、質疑応答も含めとても読みやすい。一つ目は2020年にオンラインで、二つ目は2022年に対面で開催されたという。主題はコロナ危機下の社会のあり方に著者が感じた違和感だ。 コロナがインフルエンザと同等の5類に移行して3か月が過ぎた。海外からの観光客も戻りつつあり、コロナ禍でどんなことが起きたのか、どう思ったのか、忘れかけてもいる。一方で、政府の対応や発表、報道への不信感は払拭されず、漠然とした不安を感じ続けている人も多いのではないか。 本書では、行動制限をはじめ私たちが「受け入れてきた」ことについて、「コロナだったからしょうがなかった」ではなく、そもそもコロナ以前からあった、本来は批判的に検討されるべきだった傾向が、コロナを理由に推進されただけではないか、ということを、ソクラテスやアガンベン、アーレントら多くの哲学者の言葉を引きながら、消費と贅沢、手段と目的、民主主義と行政といった視点から考察していく。 そもそもアガンベンと言う名を知らなかったので彼の問題提起について初めて知ったのだが、2020年2月、イタリアで多くの感染者が出て行われた行動制限について、人々が「さしたるためらいもなく権利制限を受け入れていることへの疑問」を提起し、多くの批判にさらされたという。 しかしアガンベンは、馬が目を覚ましておくために虻が必要なように、チクリと刺すことによって人々を目覚めさせる役割が哲学者にはあるとして、批判にひるむことなく人間の生き方や政治のあり方を問い続けた。「自由を守るために自由を制限しなければならない――そんな矛盾がうけいれられるだろうか」と。 権力は「例外状態」あるいは「緊急事態」を巧妙に利用して、民主主義をないがしろにし、人々の権利を侵害していく。ここ20年くらいはずっと「テロリズム」が緊急事態を宣言するための常套手段だったが、それが「コロナ」に代わっただけではないか。 「不要不急」とされるものを排除する社会は、目的を追求するためには、あらゆる手段を許し、正当化する。「手段の正当化こそ、目的を定義するものにほかならない」というアーレントの言葉は重い。 「あなたのすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである」。著者が心に留めているというガンジーの言葉を、私も心に留めた。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2023-08-09 21:57:13 Copyright: Default |