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毎木曜掲載・第303回(2023/6/22)

戦争を止めるために

『私たちは黙らない!』(平和を求め軍拡を許さない女たちの会 関西/編、1430円)評者:志水博子
 私がこの国に生まれたのは敗戦から7年後の1952年。地域によって違うかもしれないが、物心ついた時にはすでに敗戦の苦労は周囲から消えていた。小学5年か6年であったろうか、担任の先生が誇らしげに「日本国憲法」を語ってくれたことを今でも覚えている。戦争を体験されているだけに、憲法への熱情はそのまま当時子どもであった私たちにも伝わってきた。その時、初めて聞いた“戦争放棄”という言葉は輝いていた。今では、憲法の三大原則として、国民主権、基本的人権の尊重と並び、平和主義が挙げられるが、私たちの世代にとってはそのものズバリの“戦争放棄”が心にある。

 日本国民憲法:第2章戦争の放棄:第9条
「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

 これが、私たちの輝かしい9条だ。ところが、どうだろう。今ほど、日本が再び戦争をする危険に脅かされている時代はない。昨年12月の安保三文書の改定では、言葉巧みに「反撃能力」という語を使い、これまで憲法では、どう解釈しようとも許されなかった「敵基地攻撃能力」を有する必要があると政府は明記した。そして、安全保障になど決してならない、それどころか私たち市民の生活を脅かす、この“新たな戦略”のために、防衛費は今後5年間でおよそ43兆円にするという。そんな戦争をしたい男どものとんでもない企みに巻き込まれるのは真平ごめんと危機感を抱いた女たちが、「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」を結成し、「#軍拡より生活 !〜未来の子どもたちのために平和を!」を掲げ、オンライン署名運動を始めた。署名はすでに8万を超えている。大阪でそれに連帯し刊行されたのが本書である。

 憲法も戦後民主主義もかなぐり捨て、戦争やむなし・軍拡をと、戦争に向かおうとする政府に対し、ジャーナリスト、平和活動をはじめ種々の市民運動の担い手、大学教員、弁護士、生活者、様々な立場から30名の女たちが声を上げた。それらのタイトルを見るだけでも、怒りが伝わってくる。「この国は、いったい何のために存在しているのか—人殺しを止めろ!」、「武器より教育」、「岸田首相の『聞く力』は誰の話を聞いているのか」、「戦争のない社会で子どもたちを育てたい〜今こそコスタリカに学びたい」、「今、政治に求められているのは、いのちと暮らしの安全保障」、等々である。

 そして、軍拡どころではない女性と子どもの生活の厳しさもまた伝わってくる。トマホーク爆買いどころではない。日々の食事にさえ事欠く現実が浮かび上がってくる。

 本書を手にした人には是非とも勧めたい。忍従や我慢は止めようと。諦めれば戦争が近づいてくる。おかしいと思ったこと、納得できないと考えたことは、たとえ我が儘と言われようとも、一人ひとりが声に出そう!戦争で儲けようとする奴らがいる限り、いつだって戦争は生活と隣り合わせだ。それを止めさせることができるのは実のところ女・子どもかもしれない。本書は、多くの人々に、今こそ声を上げようと背中を押しているように思う。本書を読んだ後は、きっと私も言いたいと思うのではないかしら。戦争は真っ平ごめん。私達は騙されるわけにはいかないのだと。それが本書の役割かもしれない。戦争はいやだ、軍拡は納得できないと声をあげよう、そして繋がろう。私たちにできることはまだまだある。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


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