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スマホを駆使して社会の不正に挑む!〜刺激的だった映画『燃えあがる女性記者たち』

松原 明(レイバーネット共同代表)

 「スマホは横に構えて撮影してね。見るテレビの画面は横長でしょう。だから横がいいんです」。ドキュメンタリー映画『燃えあがる女性記者たち』で技術講習をするシーンが印象的だ。私はビデオ講座の講師を担当することがあるが「スマホは横に撮ること」を必ず教える。そして音声をしっかり撮ることが大事だ。映画を見ればわかるが、主人公の記者ミーラさん(写真)は外付けのスマホ用インタビューマイクを使っていた。

 いまもっとも手軽なスマホを駆使してジャーナリズムを立ち上げ、社会の不正に挑んだのがインド北部の被差別カースト・ダリトの女性たちだった。新聞社の名前は「カバル・ラハリヤ」(ニュースの波)」。2002年に設立されたこの小さな新聞社が、2016年から独自のビデオチャンネルを立ち上げ、30人の女性記者によるデジタル配信に移行する。そして、ユーチューブ動画でスクープを飛ばし視聴者が急増し、インド社会に大きな影響を与えていった。ドキュメンタリー映画『燃えあがる女性記者たち』は、その一部始終を4年の歳月をかけて記録し完成させた作品である。

 9月16日に都内でロードショー公開されるが、私は14日専修大学の「特別先行上映会」で見ることができた。共同監督でカップルでもあるリントゥ・トーマスさん(左)とシュミト・ゴーシュさん(右)は4日前にインドから来日したばかり。リラックスした雰囲気でトーク質疑があり、作品への理解を深めることができた。

 映画は衝撃的だった。最下層の村で頻発する「レイプ事件」。しかし家族が警察に訴えても無視される。そんななか「カバル・ラハリヤ」は当事者にインタビューをして、事実を告発した。動画のアクセスはあっというまに10万を超えた。それがきっかけで警察が動き「レイプ犯」は逮捕された。また、採掘場で労災事故で重傷を負った当事者の声もとりあげる。採掘場はマフィアが暴力支配していて人々は恐れをなしている。そこに女性記者たちがスマホを持って乗り込んでいく。また選挙報道でも保守候補者に「レイプ事件を減らすにはどうしたらいいか?」と嫌がる質問をぶつけて食い下がった。

 主任記者ミーラさんの言葉が印象的だ。「ペンの力で人を守る」「当事者の声を伝えることは社会を変えること」。それを実践している女性たちの眼はキラキラと輝いていた。忖度と自主規制ばかりになった日本の大手メディアに欠けているもの、忘れてしまったものが、ここにはある。ジャーナリズムの原点だろう。

 それにしてもインド北部の最下層の村の生活実態は、想像を絶する厳しいものだった。まず電気がない、そしてトイレがない。結婚強制があたりまえで、7歳で結婚したという話も出てきた。これがロケットを飛ばす国のもう一つの現実だ。映画を見て私が一番の疑問はそんな貧困状況のなかで、人々は「カバル・ラハリヤ」を見ることができるのだろうか? ネット環境はどうなっているのだろうか? ということだった。

 私のこの質問に監督が答えてくれた。「インドは世界で最も安いネット環境がある。いい中国製のスマホがだれでも格安で買えるし、通信データ料も圧倒的に安い。だから村に電気が来てなくてもみんなスマホを持っている」と。さっそく私はネットで調べてみたが、たしかに中国製激安スマホ「freedom251」は400円で買えるのだ。監督は続ける。「そうしたなかでデジタルメディアの革命がインドで起きているのです」。「カバル・ラハリヤ」のトータル動画再生回数は1億を超えたという。すごいというしかない。

 日本でも1990年代から小型ビデオカメラとインターネットの普及の中で、多くの市民ジャーナリズムが立ち上がった。私も「メディアをつくる 社会を変える」という夢をもって、「ビデオプレス」「民衆のメディア連絡会」そして「レイバーネット」に関わり、活動を続けてきた。そんな私にとって、この映画『燃えあがる女性記者たち』のワンシーン、ワンシーンはとても刺激的だった。「日本も負けてはいられない」とエネルギーをもらえる作品だった。

*2021年製作/93分/インド(原題 Writing with Fire) 配給:きろくびと 公開 : 2023年9月16日(渋谷ユーロスペース/シネ・リーブル池袋) 映画公式サイト https://writingwithfire.jp/


Created by staff01. Last modified on 2023-09-15 21:54:36 Copyright: Default

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