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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』『九月、東京の路上で』
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毎木曜掲載・第269回(2022/9/15)

関東大震災99年の今を考える本

『証言集 関東大震災の直後 朝鮮人と日本人』(西崎雅夫編、ちくま文庫、900円)、『九月、東京の路上で』(加藤直樹、ころから、1800円)/評者:志真秀弘

 9月1日(木)、T B Sラジオ「アフター6ジャンクション」でライムスター宇多丸は3冊の本―『九月、東京の路上で』(加藤直樹)、『トリック』(加藤直樹)、『証言集 関東大震災の直後』(西崎雅夫・編)―を紹介した。宇多丸は『九月、東京の路上で』刊行(14年)後、毎年9月1日には自分の番組でこの本を紹介してきたとのこと。地道で大切な努力だと思う。

 1日には「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」が例年どおり横網町公園(東京・墨田区)で開かれた。だが、小池都知事は歴代都知事が実行した式典への追悼文を、今年も送らなかった。結局6年続けて送っていない。小池都知事が「送らないのは諸説あるからだ」というのは権力を笠にきた暴言だ。

 『証言集 関東大震災の直後』には「子ども」「文化人」「朝鮮人」「市井の人々」合わせて147人の作文・証言・回想が収められ、「公的資料に残された記録」にも一章あてられている。貴重な労作であり、編者の強い意志を感じる。冒頭の「自警団遊び」の絵(表紙も)と文は竹久夢二。子どもたちの作文は生々しく事実を伝えていて、読み進むのが苦しくなる。が、ゆっくりとひとつひとつ読んでいくと高群逸枝の「私はもうつくづく日本人がいやになる」という叫びに出会う。佐多稲子は同じ長屋のおかみさんの言葉に「朝鮮人を特に軽蔑する感情もなく、むしろ同情する貧しい生活者の知恵」をみた。残虐な行為だけではなく冷静な言動もあった。自警団をはねつけて「無辜の朝鮮人を保護するのは当然ではないか」と切り返した大学生もいれば、五、六十人の自警団に囲まれても「金さんという朝鮮人」を守った街の人もいる。当時も今も人々はけして一色ではない。編者が理事を務める「一般社団法人ほうせんか」は、今年も9月3日荒川区の旧四ツ木橋近くの河川敷で「関東大震災韓国・朝鮮人犠牲者追悼式を開いた。

 『九月、東京の路上で』は日本の現代史を考えるための必読書である。2日未明から12日にかけて関東全域に広がった自警団、警察そして軍隊による朝鮮人、中国人の虐殺が日を追って順に示される。品川警察署前、旧四ツ木橋付近、神楽坂下、亀戸駅付近、千歳烏山等々、虐殺の場所が、地図や現在の写真もあわせ、再現されていく。いとうせいこうは本書の帯で「過ちを繰り返さないためにこそ歴史があるのではないか」と訴える。23年から年表を遡ってみよう。13年前の1910年に大逆事件が起き、日韓併合があった。14年に第1次世界大戦勃発、17年ロシア革命、18年シベリア出兵、米騒動、19年三・一独立運動と続く。不景気と戦争が民衆の身近にあり、社会に不安が広がっていた。植民地支配に由来する朝鮮人蔑視もむろんあった。だが庶民の差別意識だけでは「惨事はあそこまで拡大しなかった。」本書にあるとおり「内務省や警察がお墨付きを与えたことが、自警団による虐殺を後押し」し、新聞社は流言をさらに広げた。Labornet TVは『9月、東京の路上で』を特集し(17年4月)、私も著者と共に現地を巡った。

 来年は関東大震災から100年になる。震災直後に起きた虐殺の歴史を消すことはできない。ぜひ読んでほしい。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人、志水博子、志真秀弘、菊池恵介、佐々木有美、根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、わたなべ・みおき、ほかです。


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