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声明

日本の戦争に「帝国の狭間」の民衆を巻き込むな

朝鮮半島・沖縄・台湾で軍事緊張を高める日本の「新冷戦」に反対しよう

2021年7月、レイバーネットTV第161号放送 「2021/7/21 米中対立・親米でも親中でもない第3の道を選ぼう」 に出演した 加藤直樹氏・植松青児氏・石井信久氏による声明文を掲載します。

声明文は 日本語韓国語中国語 の各言語で出されました。

以下は上記リンクのファイルのうち、日本語声明本文です。


声明

日本の戦争に「帝国の狭間」の民衆を巻き込むな

朝鮮半島・沖縄・台湾で軍事緊張を高める日本の「新冷戦」に反対しよう

島じまの人々を危険にさらす「南西諸島軍事化」

 2021年11月14日、ついに宮古島にミサイルが搬入された。最も近い民家から約250m、約350人が住む二つの集落が1キロ圏内にあるという場所の弾薬庫に、地対艦ミサイル等が持ち込まれたのだ。これにより、宮古島のミサイル部隊は本格的な運用態勢に入る。
 宮古島と沖縄島の間にある宮古海峡は、軍事的に中国を包囲し、商船の通行すら阻む「海上封鎖」を目指す米日の軍事戦略にとって、最も重要な急所(チョークポイント)である。
 海峡を航行する中国艦隊に向けられたミサイルが、宮古島の人びとを守ることはないだろう。むしろミサイルの横で暮らす島の人びとを危険にさらすことになる。
 宮古島だけではない。日本政府は、琉球弧に連なる島々を、中国艦隊の前に立ちちはだかる地対艦ミサイル部隊の最前線基地にしようとしている。与那国島、石垣島、宮古島、沖縄島、奄美大島、種子島、馬毛島…これらの島々で、自然や生活環境を破壊しながら急速に進められている「南西シフト」と呼ばれる軍事態勢は、軍事緊張を高め、その重圧とリスクをこの地域に集中させる。万が一、「有事」となれば、琉球弧は、日本・アメリカ・中国という三つの大国がぶつかる「限定戦争」「島嶼戦争」の現場となる。それは、かつての沖縄戦同様、軍民混在の空間での戦争となるはずだ。
 三つの大国が実際に戦火を交える可能性は低いかもしれない。だが重く垂れこめる軍事緊張それ自体が、その地に生きる人びとの平和に生きる権利と自己決定権を奪い、地域社会の軍事化を助長することになる。東京、ワシントン、北京のための戦争が、「帝国」の中心から遠く離れた小さな島々の人びとを脅かしている。

日本は戦争に「巻き込まれる」側なのか

「南西シフト」の完成を後押しするように、「台湾有事」が声高に叫ばれるようになっている。安倍晋三元首相は、メディアにせわしなく登場しては、「中国は隣国への挑発を控えるべき」「控えめに言っても自滅的だ」などと公言して中国への挑発を繰り返している。7月の参院選に合わせて憲法改正の国民投票を行おうともくろむ改憲勢力は、緊張激化をそのテコに使うだろう。「台湾有事は日本有事」「民主主義台湾を全体主義中国から守れ」という掛け声が大きくなっていくことは間違いない。
 こうした中、日本でも多くの人が東アジア情勢に不安を抱くのは当然だろう。しかし現状では、その不安は中国との対決を後押しする世論へと動員されてしまっている。
 日本の平和運動は、これに対して「改憲で日本が戦争に巻き込まれる」という警告を対置するのかもしれない。だが「日本を戦争に巻き込むな」という叫びは、果たして現実を正しく捉えているのだろうか。また、人びとの不安に正しく応えるものなのだろうか。

日本は軍事緊張を高めてきた当事者だ

 今こそ、もう一歩踏み込んで考えるべきではないだろうか。
 日本は本当に、戦争に「巻き込まれる」側なのか。
 今日の東アジアにおいて軍事緊張を高めているのは、世界的な覇権を守るために中国との対決姿勢を強めるアメリカ、あるいは「中華民族の偉大な復興」を掲げて台湾・香港に対して高圧的に振る舞う中国だけだろうか。日本はアメリカに引きずられているだけなのか。
 そんなことはない。日本は軍事緊張を高めている当事者なのだ。  今日の東アジア大分断の起源をつくった1945年までの大日本帝国の侵略と植民地化、それ以降の冷戦・戦争で日本が果たした米軍の後方基地としての役割については、ここでは措く。ここで指摘したいのは、日本による琉球弧軍事化は、米中対立が激化する以前の2000年代に始まっていること、さらに、「自由で開かれたインド太平洋戦略」などの中国包囲網構築を、先導して欧米諸国に呼びかけてきたという事実だ。
 米日と中国がにらみ合う硬く鋭い対峙線を東アジアの真ん中に引いて軍事緊張をあえて常態化させ、それによって米日vs中国という対立と均衡の「新冷戦」秩序をつくる。それが日本政府の一貫したもくろみなのではないか。
 日本は「巻き込まれる」側ではなく、「巻き込む」側なのだ。誰を「巻き込む」のか。朝鮮半島から沖縄、台湾と連なる、米日中に挟まれた「帝国の狭間」の民衆である。

日本の戦争に巻き込まれる朝鮮半島−沖縄−台湾の人びと

 朝鮮半島について言えば、日本はこの間、韓国・文在寅政権が進めてきた南北和解政策を執拗に妨害してきた。そのことはトランプの側近・ボルトンの回顧録でも言及されている。昨年11月には日米韓協議で「朝鮮戦争終結宣言」に反対したと報じられている。対立と均衡の上に立つ東アジア秩序を志向する日本は、地域の平和を前提とする南北和解の進展を望まない。南北朝鮮の民衆を切迫した「戦争の危険」の下に置き続けようとする。
 台湾についてはどうか。平和的な環境のなかで自らの運命を決めていきたいと願う台湾の人びとが、香港の抵抗を弾圧しつつ膨張する中国の圧迫に脅威を感じて、その「抑止」を米日に期待しているという事実はある。しかし、日本は機会を捉えてはことさらに中国を挑発し、あえて対立を激化させようとしている。中国にとって台湾は日本帝国主義に奪われた土地なのだから、当の日本が我が物顔で挑発してくれば、引くに引けなくなるのは当たり前だ。「台湾問題」が米日vs 中の軍事対立に置き換えられ、台湾の人びとはさらなる不安の中に置かれ、米日に依存せざるを得なくなる。台湾は、琉球弧と一体の、中国封じ込めのための要塞島に仕立てられる。
 米中対立や「中国の脅威」は、日本の政策と無関係に存在しているのではない。東アジアの軍事緊張を緩和しようとせず、むしろ高めてきた日本は断じて戦争に「巻き込まれる」国ではない。地域大国として、朝鮮半島−沖縄−台湾の人びとを「軍事緊張に巻き込む」当事国なのだ。

日本の平和運動は東アジアの中で「平和」を考えるべきだ

 だから、東アジア、そして日本の平和のためには、私たちはまず、軍事緊張を高めながら、そのリスクを「帝国の狭間」の民衆に負わせようとする日本政府の軍事・外交政策をこそ批判し、抵抗し、転換させなければならない。
 中国との軍事的緊張を緩和し、南北朝鮮の和解を後押しし、それによって「帝国の狭間」の人々が平和に生きる権利をめぐる状況を前進させること。そのための言葉と力を育てていくこと。日本の平和運動に求められているのは、そのようなことではないか。
 しかも、日本の人びとの多くが感じている「不安」も、「帝国の狭間」の平和の実現によって初めて解決されるのではないか。
 「平和憲法」を守り、その理念を実現することも、この方向を通じてのみ可能である。外交的・軍事的に緊張強化政策が推し進められる中で、国内の法律論争で「平和憲法を守る」ことなど不可能だ。日本の平和運動が目指すべき平和は、東アジアの平和として実現するほかない。
 朝鮮半島―沖縄―台湾という「帝国の狭間」は、植民地主義と冷戦によって重層的な傷を負った地域であり、同時に、軍事支配からの脱却と民主化、和解を志向してきた地域である。それは、排他的な主権線で分割できない/排除できない、より緩やかで平和的な地域秩序を模索するものでもある。
 それこそが、米日中という「帝国」が突き進む「強者の秩序」に対置されるべき、東アジアの「進歩」の方向であると、私たちは考える。

2022年1月1日

石井信久(「島じまスタンディング」メンバー)
植松青児(雑誌編集者、「琉球弧自衛隊配備反対アクション」メンバー)
加藤直樹(ノンフィクション作家)

連絡先 20220101statement@gmail.com


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