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LNJ Logo 太田昌国のコラム : 元宰相A狙撃事件について
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 ●第69回 2022年7月10日(毎月10日)

 元宰相A狙撃事件について

 元宰相Aが狙撃されて、死んだ。折からの参議院議員選挙の応援演説をしていたさなかの出来事だったから、犯行者の狙いがまだわからぬままに、「民主主義への挑戦」とか「暴力で社会は変わらない」とか「テロは絶対に容認できない」とかのコメントが、テレビ・ラジオ・新聞などの商業メディアにも、個人が発信するネット・メディア上にも溢れ出た。選挙運動期間中に政治家を標的とした狙撃事件だったのだから、「政治(的動機に基づく)テロ」と捉えるのは、自然なことであったと私も思う。

 だが、半日経ち、一日経って、容疑者の取り調べに当たっている警察当局からの情報が漏れ始めた。「安倍氏の政治信条に恨みはない」「(ある宗教団体に)恨みがあり、その団体と安倍氏が深い関係があると思っていた」……。取り調べ当局の口から伝えられる容疑者の供述なるものは、恣意的ないし意図的な表現にされる場合が多いから、一般的にはまるごと信用できるものではない。それは当然の前提としても、この原稿を書いているのは事件から3日半を経た段階だが、容疑者の周辺取材からは、次のような情報も出てきている。すなわち、容疑者の母親がこの宗派の熱心な信者で、多額の金をそこへ注ぎ込んだために、まだ子どもであった容疑者兄妹は食べるものがないほどの苦労を重ねたうえに、家庭は崩壊したから、彼がその団体をずっと恨んでいたに違いないという、親族の証言が出ているのである。(7月10日付け朝日新聞朝刊)。

 その朝日新聞を含めて日本の大手商業メディアは、7月11日までは、この特定団体の名を名指し報道してこなかった。だが、日本ではネット上で、フランスなどの外国メディア報道でも、それが「世界平和統一家庭連合」、すなわち、旧名「統一教会」であることが明らかにされている。統一教会といえば、「原理研」「国際勝共連合」「霊感商法」「合同結婚式」「世界日報」などの関連する出来事や名称などとともに、1970年代から90年代にかけて、深刻な社会問題を引き起こしたカルト宗教の一団である。当時も多数の批判的な分析や体験者の証言が出版されたが、衣(名称)を変えて以降も視野に入れた分析としては、例えば、山口広『検証・統一教会=家庭連合−霊感商法・世界平和統一家庭連合の実態』(緑風出版、2017年)など、参照して有益な書に事欠かない。オウム真理教に先んじてこのような宗教団体が存在し、今なお姿・形を変えて生き延びている事実をどう捉えるか。もちろん、オウムの場合は、「教祖」が国家権力との対決を〈空想的に〉夢想したが、自らが「小国家」になろうとして、多数の他者を傷つけながら自滅した。旧・統一教会はむしろ、国家権力を持つものに寄り添うことに意義を見出しているかに見えるが、ここ数十年このカルトに関する情報量は激減したので、社会的認知度は低いのが現状だろう。メディアでは「しんぶん赤旗」が一貫してその実態の解明に努めてきた。昨年2021年9月18日付けの同紙は、韓国で開かれた同団体の大会に元宰相Aがビデオ・メッセージを寄せたこと、従来からその機関誌の多くの号の表紙でAの写真が使われてきたことなどを報じている。→ https://www.jcp.or.jp/akahata/aik21/2021-09-18/2021091815_01_0.html


*「しんぶん赤旗」より

 なぜ、そんなことが問題視されなければならないのか? それを知るために、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」がAに送った公開質問状を読めばよい。この弁護士連絡会は、旧・統一教会による霊感商法の被害者の救済や、宗教活動を隠れ蓑にしたこの種の商法の根絶のために、1987年に全国の弁護士約300名により結成されたものである。いまなお、国会議員や地方議員が旧・統一教会やそのフロント組織の集会・式典などに出席し祝辞を述べ、祝電を打つという行為が目立っているが、これらの議員の行為は、統一教会によって、自分たちの活動が社会的に承認されており、問題のない団体であるという「お墨付き」として利用されている。このような立場から、昨年の同会の大会にビデオ・メッセージを寄せたAの、政治家としての責任問題を問うて、公開質問状を送ったのだ。→ https://www.stopreikan.com/kogi_moshiire/shiryo_20210917.htm

 旧・統一教会会長は、7月11日午後、取材できるメディアを厳しく制限した記者会見を開いた。この記者会見の報道を機に、12日朝刊からは大手商業メディアも「旧統一教会」の名を記しての報道をするようになった。(テレビはほとんど見ないので、自分では確認できていない)。大手メディアが、この宗派の過去の活動形態にまで遡ってその「宗教活動」の実態に迫り、当時を知らない若い人びとにも理解できるようにして、元宰相Aがこのような団体と親密な関係を持つことがどれほど異常なことかを明かすことになるかどうかは、残念ながらわからない。

 元宰相Aの狙撃死の真相を暴くことは、この社会の根底にある奥深い闇に手を突っ込むことを意味する。死者に対する感傷的・情緒的な讃美の言葉が溢れている今、その闇が〈誰の目にもわかりやすく〉明かされたなら、どうなるか。私たちが、本来ならば、〈政治的に葬り去るべきであった〉人物は、他ならぬ私たちの非力さ故に、長期政権の座に居座った。そして、この社会をずたずたに切り裂く諸政策を問答無用に実施した。そんな彼を待ち受けていたのは、自分の家庭を壊した宗教団体と元宰相Aが異様な癒着ぶりを示していたことに恨みを抱く人物による〈狙撃死〉だった。第一報に接しての、「政治テロ」との思い込みは違っていたのだ。

 その〈死〉にまとわりつく、幾枚もの暗いベールを引き裂かなければならない。「悼む声」が世界中から届く――とメディアが誇大に伝えるAの「極右的な」本質は、それによってヨリ顕になり、現代日本社会を規定してる政治基盤について、驚くべき、別な視野が開かれていくことだろう。


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