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太田昌国のコラム : 閔妃暗殺を題材とした芝居『ある王妃の死』を観る | ||||||
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閔妃暗殺を題材とした芝居『ある王妃の死』を観るさて、その記事は、現地駐在の領事官補だった堀口九万一が、郷里・新潟の旧友に宛てた、事件の翌日10月9日付けの手紙が今になって発見され、それを紹介したものだ。堀内自らも王宮に押し入ったが、「進入は予の担任たり。塀を越え、漸く奥御殿に達し、王妃を弑し申候」「存外容易にして、却てあっけに取られ申候」。先に挙げた書物の著者・金文子は朝日新聞の取材に答えて、「現役の外交官が任地の王妃の殺害に直接関与したと告げる文面に改めて生々しい驚きを覚えた」と、当然の感想を語っている。 堀内九万一は、送還された日本でいったんは逮捕されるが、事件に関わった他のすべてのメンバーともども、証拠不十分で免訴となり、報奨金を得て、復職すら叶う。それから10年後の1910年代には公使としてメキシコに駐在しており、1910年に始まるメキシコ革命の過程で起きた「悲劇週間」との関わり合いで外交官=堀口の振る舞いを知る私は(九万一の息子が、詩人の堀口大学であることも手伝って)、今までも一定の関心をこの人物に抱いてきた。その人物が残していた、気心知れた幼馴染宛ての手紙で油断したのだろうか、ここまであからさまに、悪びれることもなく、自分たちがなした乱暴狼藉のさまを記した手紙を読んで、日本近代史が孕む底知れぬ闇が、もうひとつ深まったという思いがする。朝鮮半島の支配をめぐって日露清の3大国が争う中で、帝政ロシアに「なびいた」閔妃を排除したというのが、事の本質なのだから。*写真=暗殺された閔妃
さて、舞台はどうだったか。物語の語り部となるのは、高宗と閔妃の息子・世子で、彼は母親が惨殺される場面をも目撃せざるを得ない。その最後のシーンへと至るまでには、片方には、在朝鮮国の日本公使館に集まる日本人外交官、旧軍人、邦字新聞社長らがいる。甲午農民戦争を李朝権力に加担して鎮圧し、朝鮮半島の支配をめぐって争った清国との戦争に勝利し、下関講和条約で版図を拡大し賠償金を獲得し得た――などの「勢い」に乗っているから、日本人たちの言葉、発想、ふるまいは限りなくマッチョで、見苦しく、聞き苦しい。それは、役者たちが日本人の「傲慢ぶり」を十分に演じきっていることを意味しており、戦争に勝利した社会に漲る「高揚感」がいかに危険なものであるかをも、台詞の外部で伝える。 他方には、朝鮮王朝を形成する親子三人がいる。彼らを最終的に見舞うのは「王妃の死」なのだから紛れもない悲劇だが、500年もの間続いてきた王朝支配は、この段階ではすでに大きく揺らいでいる。困窮した農民たちは、閔氏の経済政策の改革を求めて武装蜂起し、甲午農民戦争を戦った。劣勢に立たされた王朝は清国に出兵を要請し、清国に対抗する日本の出兵をも招き、それら外部の軍事力に助けられて、貧農たちの蜂起を鎮圧した。王族を頂点とする世襲制貴族階級たる両班の支配体制も激しく揺さぶられていた。王朝親子3人の台詞とふるまいは、どこか詠嘆的で、孤独だが、それは、暴徒に他ならない日本人が次第に狭めゆく包囲網のせいばかりではない。朝鮮社会そのものの中で、王朝の存立基盤が揺らいでいたのだ。 「国益」に賭けた、マッチョで、乱暴な日本人によって、異国の王妃が暗殺された悲劇――という単純化した物語に終始しなかったのは、男たちの振る舞いに辛うじてだが疑問を呈する日本公使館の日本人女性職員の存在、および王朝/両班制度に引き裂かれて、あるいはそれを批判して、「心ならずも」日本側に荷担する複数の朝鮮人の存在――によって可能になったと思える。 Created by staff01. Last modified on 2022-02-11 12:17:55 Copyright: Default |