〔週刊 本の発見〕『地域における鉄道の復権〜持続可能な社会への展望』 | |||||||
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毎木曜掲載・第211回(2021/7/1) すべては「国鉄分割民営化」から始まった〜「公共」壊した「改革」を超えて『地域における鉄道の復権〜持続可能な社会への展望』(宮田和保・桜井徹・武田泉 編著、緑風出版、3,200円+税、2021年3月)評者:黒鉄好2021年は、奇しくもJR発足後最初の惨劇となった信楽高原鉄道正面衝突事故(1991年)から30年、石勝線特急列車火災事故(2011年)から10年の節目の年である。信楽事故を起こしたJR西日本はその後、さらなる悲劇・尼崎事故を起こし、コロナ危機のなかで中国山地の不採算ローカル線切り捨てに乗り出している。JR北海道に至っては、路線全体の半分を「自社単独では維持困難」な路線に指定し、鉄道事業からの全面撤退すら現実のものになろうとしている。JR東海は南アルプストンネル工事によって大井川からの流量が毎秒2トンも減少するとの試算があるにもかかわらず、静岡県にまともな説明もしないまま国土破壊のリニア開業へ向け暴走する。「大雨が降っても道路はすぐ復旧するのに、鉄道は復旧されずに消えていくのはおかしい」という疑問も市民の間に広がっている。 このような惨状を生み出したのは国鉄分割民営化であり、本書はその全体像を改めて捉え直し批判を加える。鉄道をめぐっては、北海道のローカル線問題を中心としながらも、安全問題、経営問題、「改革」反対派組合員の不採用などの労働問題、リニア、整備新幹線と並行在来線などあらゆることを取り上げている。 「改革」の背景にある新自由主義はいかにして生まれてきたのか。どのように社会の隅々にまで浸透し世界を持続不可能に追い込んできたかについても分析、批判を加えている。国鉄分割民営化の総決算と新自由主義批判。一方だけでもじゅうぶん1冊の本になり得るほどの重い2つのテーマのどちらとも手を抜かずに格闘した労作である。*写真=分割化された鉄道 日本でも世界でも、既存の支配構造への批判は多く聞かれるようになったが、今や重要なのは「世界を解釈することではなく変革することである」。持続可能な社会への展望という副題が示すように、本書は持続不可能な新自由主義社会を清算した後に来るべき新しい社会像についても対案を示す。JRグループを中心とした鉄道改革の方向として、持株会社制による旅客6社間の格差是正策のほか、上下分離や、あらゆる公共交通機関を連携させ一体的に運用するドイツの「運輸連合」など、1980年代の改革で壊されたものの単なる修復にとどまらない新しい制度の提案も試みている。そこには、執筆陣が実際に欧州を訪問し、公共交通を実地調査した際の知見も取り入れられている。自動車中心の従来型のまちづくりから脱し、公共交通中心のまちづくりへ転換していく必要性も述べられている。 13人もの共著者が30回以上も討議を繰り返す中から本書は生まれた。SDGs(国連「持続可能な開発目標」)の評価をめぐっては共著者間で激しい議論もあった。北海道ローカル線と住民の関係、鉄道再建策を論じた節のほか、尼崎事故遺族・藤崎光子さんを取り上げたコラムの担当として私自身も共著者に加わった。公共交通問題をライフワークとしてきた私にとってもこれまでの活動の集大成になったと思っている。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、黒鉄好、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2021-07-01 11:31:09 Copyright: Default |