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「患者」でなく「人間」を目の前にさらしてくれた映画〜原一男『水俣曼荼羅』

笠原眞弓

 原一男監督の『水俣曼荼羅』が第8回グリーンイメージ国際環境映像祭で上映されることになり、申し込んだ。

 すごい映画だった。6時間というのもだけど、内容が多岐にわたっているのに、散漫な感じがしない。15年の撮影、5年の編集というのも、彼らしいとはいえ、やっぱり「すごい」と言ってしまう。

 彼は、大学で教えながら、休みを利用して水俣へ通っていた。そこで、監督と被写体の垣根がどんどん低くなることはわかる。そしてついに坂本しのぶさんの恋バナまで撮ってし まう。後で聞くと、30人くらいいるうちの3人の人が登場するが、撮影に3年かかったという。彼女の体調のいいとき、話したいときしか撮れないから。そればかりでなく、一見( いちげん)さんには見せない本音が、さまざまな場面で飛び出す。

 最初の関西水俣訴訟最高裁勝利場面は、既視感のあるものだが、湯の鶴温泉での生駒さん夫婦の初夜の話や、判決後の集会の席での本音など、貴重な場面だ。何がって、そこに水俣病患者は特別な人でなく、他の人と同じ人間なんだとさりげなく語られるからだ。

 常に小刻みに震える手で、ペンキを塗っている生駒さん。何に塗っているのかと思ったら、生業のための漁船の塗り直しをしているのだ。脚が動きにくいので船のヘリを越え、地 面に降りるのが難しい。それでも頑張っておりながら、「この足が!」とマヒした足を指す。

 「末梢神経の障害」と水俣病を研究している2人の医師の話しからも(アカデミック漫談というジャンルを今作った。なぜか引き込まれるのだ)、医療界の権威や政治的圧力など が浮かぶ。そして相思舎の永野三智さんの正当な怒りの爆発。その場面を見ながら、思わず三智さんにメッセージを送ってしまった。彼女は「影武者になりたかったんだけどね…」と返してきた。この前会ってから1年になることを思い出し、改めて水俣病認定の県と国の姿勢について話してくれたことを思い出したのだった。

 ほかにも、唸る場面はあって、その一つに最後に短く出ていた石牟礼道子さんのインタビューがあり、彼女の心遣いに、あゝそうなんだとさまざまに納得した。何をどう納得したかは、ご覧になったらわかると思う。今秋には、劇場公開の予定だが、自主上映会もぼつぼつあると思う。


Created by staff01. Last modified on 2021-03-27 07:31:55 Copyright: Default

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