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 第73回・2020年11月30日掲載

軟禁日誌第2章(3)報道・市民の自由の侵害と警察による暴力


*11月28日の「自由のための行進」

 マクロン政権の強権政治は、報道と市民の自由を大幅に侵害する「グローバル治安」法案の採択に際して、国外からも注目されるほど露わになってきた。難民、市民、ジャーナリストなどに対する治安部隊の異常な暴力がエスカレートし、民主主義と自由を守るために大勢の市民が路上に繰り出した。

●11月21日(土)


*11月21日、トロカデロ広場の集会

 11月20日の夜、悪法「グローバル治安」の24条、ジャーナリストや個人が警官や憲兵の映像を流布するのを罰する条項が可決された。監視カメラの条項など残りの条項を「片付ける」ために、マクロン党は国民議会の討議を朝の6時まで続けた(最後の2時間、大臣とマクロン党のこの法案提出担当者は質問にも答えなかったという)。緊急性は全くないのに、数で押し切るいつものやり方だ。

 翌21日土曜の午後、全国でこの法案に対する反対デモ(集会)が行われ、多くの市民が集まった。パリはトロカデロの「人権広場」が集会の場所だったが、午前中、パリ警視庁はこの「人権広場」での集会を禁止した。人々はトロカデロ広場に集まったが、エッフェル塔を正面に臨む人権広場に入れないよう柵が設けられ、広場を囲む道も全部柵で覆われていた。人権広場に入れるのは市民ではなく、何人かの武装した警官という「グローバル治安」法案を象徴する像が「人権の国」の歴史に刻まれた。この措置を命じたパリ警視総監ラルマンとダルナマン内務大臣も、その汚名を歴史に刻んだ。1万人を超える市民はさまざまなプラカードを作り、報道と市民の自由を奪う法案への反対を表明した。黄色いベストたちが大勢いた(2周年)。黄色いベストに対する治安部隊の暴力を写真や映像と共に記録し、内務省に知らせるツイートを送り続けた(今も続いている)ダヴィッド・デュフレンヌもマイクを握った。国会で朝の6時まで闘った「屈服しないフランス」の議員たちの姿もあった。

 日が落ちてから、やはり治安部隊との衝突があった(私を含め多くの参加者はその前に帰った)。ジャーナリストたちは警官に囲まれ(ケトリング)、撮影ができなくなった。前代未聞のことだ。撮影している人を逮捕した映像、ジャーナリストに警官が暴力をふるう映像もツイートで流れた。こうした映像を抹殺するための法律なのだ。内務大臣やマクロン党の議員は、デモの取材は警視庁の許可を受けたプレスカードがるジャーナリストだけにするなどとも発言した。ほとんどすべての報道機関の編集部が「とんでもない、そんな申請などしない」と表明した。それに加わらなかった公共テレビFrance2は、今日の大規模な「グローバル治安」反対デモについて、夜のニュースで15秒しか触れなかったという。紙・インターネット媒体以外の主要メディアでは、これら自由を侵害する法案についてほとんど報道しない。

 プラカードは訴える。「私たちの自由を返せ!」「誰が警察(国家)から私たちを守ってくれるのか?」「弾圧の自由にノン」「民主主義の暗殺の証人」……法案は来週火曜、国民議会で全条項についての総合採決の予定だ。採択されてもあまりにひどい内容なので、国務院(コンセイユ・デタ)や憲法評議会に野党の議員たちが訴えるから、はじかれる部分もあるだろうが……いずれにせよ、闘いは続く。

 ちなみに、仕事や必要不可欠な行動しかできないロックダウン中になぜデモや集会に行けるかというと、今回の政令を熟読した弁護士たちと人権連盟が、公衆衛生措置に反せず県庁・警視庁に申請して禁止されなかった場合に可能だと、証明書の書式を作ってくれたのだ(政府の証明書の項目にはないから)。
新型コロナ感染者数合計2 127 051人 死者数合計48 518人 入院者数31 365人(集中治療4493人)カーブは(死者数を除くと)少し下向き。

●11月24日(火)

 今朝、「公正な税制を求める市民連絡会」の要請でフランスのコロナ危機管理について話した。その準備で昨夜、作った資料を読んでいた時、レピュブリック広場でひどいことが起きている映像がツイートで入ってきた。一週間前、パリ北郊外のキャンプにいた難民数百人が、行き場所を提供されずに警察に暴力的に排除された。以後、路上をさまよっていた彼らに眠れる場所を提供せよと、支援NPOがテントを供給してレピュブリック(共和国)広場に集まりアピールした。パリ警視庁の命令で治安部隊が彼らの排除に取りかかり、NPOの市民、国会議員やパリ市議会議員を乱暴に押しのけ、取材するジャーナリストを威嚇した。いつも優れたライブを発信するBrutという独立メディアのジャーナリストは3回も暴力を受けた。治安部隊は難民たちが眠るテントをひっくり返して彼らを外にたたき出し、テントを没収した。難民たちは暴力と催涙ガスを受け、パリの町を追い回され、郊外まで押しやれらた。それらの映像を見て、市民、議員やジャーナリストの証言を聞いて、あまりのことに昨夜はほとんど眠れなかった。*写真=リベラシオン紙11月25日の第一面

 「グローバル治安」法案がすでに通ったかのごとく、警官・憲兵たちの暴力はエスカレートする一方だ。警官・憲兵による難民キャンプの暴力的排除は北部の町カレーや南仏イタリア国境で問題になっていたが、パリ市内で行われたのは初めてだ。長年続く難民の基本的人権に対する侵害を訴えるために、支援団体は象徴的な「共和国」広場で平和的アピールをしたが、人権宣言の国フランスのマクロン政権の回答は、この野蛮で残忍な暴力だった。

 この出来事の映像がSNSで流布されて衝撃を与えたため、内務大臣さえ「ショッキングな映像だ」(いや、ショッキングなのはそれらの行為だ)、直ちに調査を警視総監に命じたと語った。警察の内部調査などこれまでの例で何の期待もできないが、パリ検察局と「人権擁護官」も調査を開始した。今日の午後、「グローバル治安」法案の総合採択の前、「屈服しないフランス」はラルマン警視総監の罷免、治安部隊による危険な武器使用の禁止と、この法案の撤回を求めた。報道と市民の自由を侵害する法律を作るこの専制政治は、ハンガリーとポーランドと同じではないかと。国連、EU、世界の人権団体がこの法律を糾弾したではないかと。昨日のデモの際、暴力を受けたジャーナリストの中にスペインの記者もいて、ヨーロッパ諸国のジャーナリストもフランスの異常事態を把握し始めた。しかし、国会で極右・保守と共に、マクロン党の大多数はこの法案を可決した。マクロンが極右ルペンを防ぐ盾(大統領選2次投票の際に叫ばれた言葉)だなんて、全く嘘だった。今では明らかに極右の政治を行っている。

 このフランス共和国の一大事、民主主義の大危機に面して今晩、大勢の市民が難民と連帯し、政権に抗議するためにレピュブリック広場に集まった(他の都市でも集会やデモ)。法案は元老院で再討議され、憲法評議会にかけられる。土曜には再びデモが呼びかけられているが、市民は闘い続けるだろう。

 今晩マクロンが演説して、徐々にロックダウンを解除する旨を曖昧に語ったとのこと。大学は経済に関係ないからいちばん後回しで、再開は2月以降。経済に関係ないことには何の努力も考慮もしたくない人たち。
感染者数合計2 153 815人、死者合計50237人、入院患者30594人(集中治療4277人)

●11月25日(水)

 11月25日は女性に対する暴力撤廃の国際デー。このところフランスの女性デモはすごく盛り上がっている。今年はコロナ危機ロックダウンのせいでデモは一時中止され、ネットデモは先週土曜に行われたが、やはり集会でアピールしなければとレピュブリック広場に集まることになった。春のロックダウン中にDVが増え、解除後に支援NPOは大変だったという。ホットラインの3919は全国女性連帯連盟(FNSF)が創設し、国の機構に取り入れられた今も彼女たちが管理している。ところが、これを24時間年中無休にするために政府は入札募集をする意向だと知り、フェミニストたちは抗議署名を始めた。女性団体は以前から24時間対応するための予算を国に要請していたが、出資する代わりに民営化を考えたらしい。ノウハウがある女性団体がずっと管理すべきだとフェミニストたちは主張した。

 おなじみの菜っ葉服と赤いスカーフ姿のATTACの女性たち、議員、長期スト中のIbisホテルの客室係、労働組合員、弁護士、非合法滞在の女性たちなど、様々な人が集まりマイクを握った。ショックだったのは13〜15歳のときに消防士20人にレイプされたジュリーの母親の話。この消防士たちはボランティアではなく軍人のため、彼らの上官に訴えても調査が進まず、警察に訴えて裁判になっても事実追求は進まず(母親など家族が10年来闘っている)、あげくのはてに告訴されたのは3人のみ。それも最近、裁判所が軽犯罪扱いに決定してしまった。レイプを重罪にする法制化(1980年)にジゼル・アリミ弁護士がレイプ裁判(1978年)で貢献したことなど、今発売中の「シモーヌ」vol.3(現代書館)の記事に書いたのだが、それから40年以上経ってるのに、なんということだろう。
http://www.gendaishokan.co.jp/goods/ISBN978-4-7684-9103-4.htm
未成年に対するレイプなのに「合意があった」と裁判官が判断したとは!「ジュリーに正義を!」

 警官・裁判官の教育、司法の改善、学校教育、シェルターの増設、被害者をサポートするNPOへの予算増加・・・毎年10億ユーロをつぎ込み、2004年から徹底的に女性への暴力対策に取り組んだスペインのように真の政策を進めよ(マクロン政権は告知・口先のみ)、とフェミニストたちは主張した。レイプ容疑の男性が内務大臣では期待できないから、この「レイプ文化」を変えるために立ち上がり、連帯して闘わなければ。7月末に亡くなったジゼル・アリミが言っていたように、女性の権利は常に目を光らせていないと後退してしまうのだ。
感染者数合計2 170 097人 死者合計 50618人 入院患者29944人(集中治療4136人)

●11月26日(木)

https://twitter.com/Loopsidernews/status/1331870826652643328
 朝から、恐ろしく衝撃的なビデオがツイートで入ってきた。21日土曜の夜、自宅に戻ろうとした音楽プロデューサーのミシェル・ゼクレールが、パリ17区の警官3人にひどい暴力を受けた情景を映した監視カメラの映像(彼のスタジオの入り口のもの)と本人の証言。一度外に出た警官たちは窓を壊し、武装した警官の援軍を呼び、催涙ガスを中に向かって放った。外に出たミシェルは袋叩きに会い、地下で録音していた若者9人も路上で暴行を受けた。近所の住民がその光景を映しているのに気がついた途端、警官たちは暴力をやめてミシェルを逮捕した。彼は頭部に重傷、身体のあちこちに傷を負って6日間の就業停止の診断。48時間拘置された挙句、警官たちはミシェルが彼らに対して暴力をふるったと告訴した。ミシェルの弁護士は監視カメラの映像や住民が撮った映像をもとに、警官たちが虚偽の証言をしていると主張し、検察局は警官たちの訴えを退け、逆に警官たちに対して調査を開始した。

 ミシェルは警官たちが彼を「汚いネーグル(黒人の蔑称)」と何度も罵ったと語り、警官の行為がレイシズムからきていることがわかる。ミシェルはマスクをしていなかったので、外からすぐ家に戻るつもりが、職務質問さえ受けずにすぐ暴力を受けた。抵抗したら自分に不利になるとわかっていたので、助けを呼び叫び続け、地下で録音していた若者たちが気がついて一度はなんとか警官たちを外に押し出せた。路上での警官たちの暴力を止めたのは「カメラ、カメラ」と誰かが叫び、自分たちが撮影されていることに気がついたからだ。映像がなかったら、「グローバル治安」の第24条で警官を撮影することが禁じられたら、「僕は刑務所行きだっただろう、警官の言葉の方を人は信じるから」とミシェルは語る。

 この事件をSNSで報道したLoopsiderのビデオはすでに1000万回以上視聴され、ジャーナリストや弁護士、法案への反対者はもちろん、人気サッカー選手のムンバペやグリーズマンなどもツイートして抗議した。内務大臣も処罰しないわけにはいかず、暴力を働いた警官たちを一時停職にして内部の監察機関IGPNに調査を依頼した。でもこの機関はこれまでいつも警察組織をかばって警官の悪行を矮小化するし、月曜から暴力行為の映像を入手していたのに今日、SNSでスキャンダルになるまで何もしなかったのだ。パリ警視総監と内務大臣の辞職を求める声はさらに高まっているが、内務大臣は今日夜のテレビでもこれまでとほとんど変わらず、「いくつかの悪いケース」という主張でいつものように虚言ばかり。

 ところで、24日土曜には法案反対のデモが呼びかけられているが、昨日の夜、パリ警視庁はこのデモを再び禁止(バスティーユまでの行進を禁止し、レピュブリック広場での集会のみ)した。早速、ジャーナリストや様々なプレスの編集部、弁護士団体などの共闘組織は「自由のためのデモを決行する」声明を発表した。また、月曜の夜の難民排除スキャンダルの後、首相は「グローバル治安」法案についてジャーナリストたちに会うという提案をしたが、この共闘組織は法案反対デモの禁止に抗議して、首相との面会を拒否した。

(「国境なき記者団」は首相との面会を承諾し、批判を受けている)。国外のプレスもこの民主主義と自由を侵害する法案、繰り返される警官による暴力に注目し始め、音楽プロデューサーへの暴行事件の後、ニューヨーク・タイムズとファイナンシャル・タイムズが強権的なマクロン政権について記事を出した(ドイツ、ベルギー、スペインなど諸国のプレスが、マクロン政権の自由侵害について報道している)。  マクロン政権は否認を続け、パリ警視庁総監も内務大臣も辞めないが、今週の二つのフランス共和国史上恥ずべき事件(同様の事件はたくさん起きている)がメディアでいつもより大きく取り上げられたことにより、民主主義と人権を侵害するマクロン政権の本質・実態に気づいて、「自由のための行進」に加わる人が増えるといいのだが。
感染者数合計2 183 660人 死者合計50 957人、入院患者29 282人(集中治療 4006人)

●11月28日(土)


*11月28日のデモ、プラカードと共にマクロンや大臣の顔も掲げる

 今日11月28日のデモ「自由のための行進」は昨日の夕方、パリ警視庁のデモ禁止令を行政裁判所が破棄したため(ジャーナリスト協会が急速審理を要請した)、合法となった。一つ目の勝利。それで少しホッとしてデモに行くことができた。14時レピュブリック広場から出発、ものすごい人で若い層も多かった。ロックダウン中(今日から一部解除だが)にこれほど多くの様々な市民が自由を求めて集まるのはすごい、希望を感じた。行進がなかなか進まないほどで、主催者発表で20万人(内務省発表4,6万人)、全国で50万(内務省発表13,3万人)。「フランス、警察の権利の国」「誰が警察から私たちを守ってくれるの?」「いたるところに警察、正義はどこにもない」「警察国家にノン」「カメラは命を救う」「恥辱の省」「警察は殺す、ダルマナンはレイプする」(ダルマナン内務大臣にはレイプ容疑がある)「ラルマン警視総監はパポンの匂いがする」(パポンはナチスに協力してユダヤ系フランス人の強制収容所への移送を行った官僚。戦後パリ警視総監に出世し、1961年のアルジェリア戦争中にアルジェリア人の弾圧を行った。強制移送の件は1997-98年の裁判で「人道への罪の共犯」で有罪になった。)……日本語に訳すとスローガン独特の味わいがなくなってしまうが、巧みなスローガンをよく思いつくといつも感心させられる。ロックダウン中の窓にかけられた垂れ幕や、壁に貼られたスローガンもそうだった。こうした反逆の精神がユーモアと共に発揮されるかぎり、フランスの民主主義に抵抗力はあるだろう。

 バスティーユに近づくと、先頭でブラック・ブロックと治安部隊の衝突が始まり、また催涙ガスが流れてきた。治安部隊は毎回、戦闘がしたくてうずうずしている感じだ。「私は警察が怖い」というスローガンもあったが、これがこのところ市民の気持ちだろう。今日の午後、ほとんどすべてのテレビ局の報道責任者が名を連ねて声明を発表した。テレビ局のルポを放映する前に、警察がそれをチェックすることに同意せよという要請を受けたことに抗議し、報道の自由への侵害を糾弾する内容だ。ドイツとの共同チャンネルARTEももちろん署名したから、ドイツのプレスは再びマクロン政権に対して警鐘を鳴らすだろう。今日はAFPの仕事をするシリア出身(戦乱から逃れてフランスに来た)のカメラマンが警察からひどい暴力を受け(この件は英ガーディアン紙が報道)、先日暴行を受けたBRUTのジャーナリストも再び殴られた。マクロン政権のフランスは本当に、信じられない民主主義の危機になっているのだ。

 しかし、「自由のための行進」の終点、日が落ちたバスティーユで人々は携帯のライトをかざした。「彼らにこの国の光を消させはしない」。
新型コロナ 死者合計 52 127人 入院患者28 139人(集中治療 3765人)

飛幡祐規(たかはたゆうき)


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