パリの窓から : 監禁日誌8 先の見えないロックダウン | |||||||
Menu
おしらせ
・レイバーフェスタ2024(12/25) ・レイバーネットTV(11/13) ・あるくラジオ(10/10) ・川柳班(11/22) ・ブッククラブ(10/12) ・シネクラブ(9/1) ・ねりまの会(10/12) ・フィールドワーク(足尾報告) ・三多摩レイバー映画祭 ・夏期合宿(8/24) ・レイバーネット動画 ●「太田昌国のコラム」第96回(2024/11/15) ●〔週刊 本の発見〕第368回(2024/11/21) ●「根津公子の都教委傍聴記」(2024/11/14) ●川柳「笑い茸」NO.157(2024/9/26) ●フランス発・グローバルニュース第14回(2024/10/20) ●「飛幡祐規 パリの窓から」第95回(2024/9/10) ●「美術館めぐり」第4回(2024/10/28) ★カンパのお願い ■メディア系サイト 原子力資料情報室・たんぽぽ舎・岩上チャンネル(IWJ)・福島事故緊急会議・OurPlanet-TV・経産省前テントひろば・フクロウFoEチャンネル・田中龍作ジャーナル・UPLAN動画・NO HATE TV・なにぬねノンちゃんねる・市民メディア放送局・ニュース打破配信プロジェクト・デモクラシータイムス・The Interschool Journal・湯本雅典HP・アリの一言・デモリサTV・ボトムアップCH・共同テーブル・反貧困ネットワーク・JAL青空チャンネル・川島進ch・独立言論フォーラム・ポリタスTV・choose life project・一月万冊・ArcTimes・ちきゅう座・総がかり行動・市民連合・NPA-TV・こばと通信
|
監禁日誌8 先の見えないロックダウン*サンジェルマンの有名なカフェ「ドゥマゴ」の前 ロックダウン5週目になっても、解除のための具体的なプランは明確にならない。フランスの死亡者数は2万人に近づき(4月20日に超えた)、死にいく人との人間的な別れができない状況が告発される。 ●4月14日(火) 29日目。ロックダウン5週間目に入る。昨日のマクロンの演説で5月11日から学校を再開というのに対し、早速抗議と理解できないという声が上がったため、今日教育大臣のインタビューがあった。2週間後に詳しく発表するが、徐々に(地域差)、少人数のグループを受け入れる形という曖昧な回答。要するにまだプランができていないのだろう。世論調査でマクロンの人気が下がったので、ここらで演説してイメージアップを図ったのか。 今日は一ついいニュースがあった。アマゾンが従業員の危険を留意していない(防護の欠如、必要不可欠でない商品の配達)と労働組合が訴えていたが、その要求を認める判決が下ったのだ。アマゾンは上訴したが、とりあえず24時間以内に商品を限定して安全を保障する体制を整えなければ、1日100万ユーロの罰金が要求される。 さて、コロナ危機においてEUの対応も悪いが(火事場泥棒でヴェトナムとの自由貿易条約を結んだりもした)、今日EUの環境委員会の会長のパスカル・コンファン(緑の党からマクロン党に移った)をはじめ、EUの議員、環境大臣(フランスも)、労働組合や市民団体、多国籍大企業の社長など180の人・団体が「グリーンの景気刺激策」を求める声明を出した。ネオリベラルのマクロン党や社民党、少数の保守の議員のほか、コカコーラ、ロレアル、イケア、シュエーズ、エンジー、ネスレ、ヴォルヴォ、ルノーなどの社長が連名している。数ヶ国の環境大臣(フランスも)、WTOの長を務めたパスカル・ラミなども入っていて、ネオリベの立役者たちがわんさか。つまりグリーンウォッシングだから「コロナ以前」を抜本的に変えられるとは思えないが、これにEELVのヤニック・ジャド(さもありなん)とミシェル・リヴァジ(えー!)も加わっているのでショックだ。緑の党EELVからマクロン党に寝返った議員は多いが、EELVに残った議員も温暖化と環境破壊対策をネオリベ資本主義やとんでも大企業と一緒にやる方針にしたのだろうか?信じがたい。呼びかけの文章も実に虚無で技術官僚的で、「新しい繁栄モデル」とかある。エコロジーを信念にしていた(はずの)人たちのなんという堕落。忘れないために名前のリストがついたリンクを記す。 気分転換に、サンジェルマンに住む友人の写真をアップする。そしてアニー・テボー=モニーのインタビューも。 ●4月15日(水) 30日目。ノートルダム大聖堂火災の1周年にあたる。火災といえば、チェルノブイリ原発の禁止区域(半径30km)にある森で4月3日から火事が起きて(二つ目は8日から)、全部で約47000ヘクタールも燃えたという。ロシアのグリンピース、フランスのCRIIRADなどが警鐘を鳴らした。原発から数百メートルのところでなんとか止まったらしいが、放射能はまた拡散された。CRIIRADの測定によればフランスへの影響はないが、原発付近ではセシウムなどによる汚染が増大するだろう。 さて、今日は閣議のあとに医療スタッフへのボーナス、低所得者への援助が発表されたが、学校の再開やその他、各担当省はマクロンの演説内容が「寝耳に水」だったような対応なので、統一した危機管理がオーガナイズされない状況が本当に心配になってくる。ガールフレンドのアパートにいた息子がうちに戻ってきたが、高等師範からも大学からも連絡はほとんどなく、教授・教員たち、事務局に連絡をとろうとしても返事がなかったり、かなりというかひどくむちゃくちゃだという。 ヴィダル高等教育・研究部門大臣はロックダウン以降1か月にもなるというのに、学生に対して何の発表もメッセージもなく、「ヴィダルはどこ?」というハッシュタグができてツイートで揶揄られているほどだ(生活が苦しい働く学生たちは危機に陥っている)。ナント大学は「授業開始は9月から」と決めて発表した。「高等教育省が試験について何も具体的に告知せず、大学がそれぞれ勝手に再開の時期を決めるなんておかしい。自分が大臣だったら学生に向けてすぐに話すよ。学生は見捨てられたと思ってる」と息子。「大統領ひとりに権力が集中して、各省は何もやらない、何も決められないと思っている(経済省だけは例外、しっかり機能している)。第五共和政は君主制、アンシャン・レジームと同じだね。アンシャン・レジームでさえ高等法院にもっと権力があったかも。」 今日はEHPADからの集計がたくさん届いたらしく、死亡者数は激しく上昇した。17167(病院10643 Ehpad 6524)。入院者数は初めて減って31779人(重症6457人)。イタリア、スペインの新たな感染は減ってきたが、アメリカ、フランス、イギリスは増え続けている。 ●4月16日(木) 31日目。ルイス・セプルベダがコロナの犠牲者に加わった。なんと哀しいことだろう、まだ70歳だった。ピノチェトの牢獄に捕らえられて28年の刑を宣告されたが、アムネスティーの働きかけで2年半後に出獄。南米数ヶ国に滞在してからドイツ、スペインに住んだ。アマゾンのシュアール(ヒバロ)族と共に暮らした経験にもとづく"Le vieux qui aimait l'histoire de l'amour"(『ラブ・ストーリーを読む老人』1988年)では、白人によるアマゾンの自然破壊が告発されていた。 ロックダウンはあと4週間以上続くので、延期していた「よそものネット・フランス」(反原発・反核活動のNPO)の総会をネットでやることにして、テストを役員3人でやってみた。参加している他の市民団体でもネット会合を3週間前から始めたが、やはり複数で話すのはいいものだ。しかし、ネットではむろん、じかに接する人間関係は補えない。外出禁止で精神的な苦痛が増大していることが指摘されているが、音信不通になってしまった知人がいて、心配なので救急で消防士に出動してもらった。幸い、それほど危機的な状態ではなかった。でも孤独な監禁状態が続くのはよくないので、友だちの家への移住を検討している。 社会生活が行えず、予定していた仕事の目処はただず、いつから活動を再開できるかわからない状態は、人々の不安をかき立てる。せめてロックダウン解除のプランを具体的に明瞭にしてほしいものだ。 死亡者数17920(病院11060人、Ehpad6860人)入院者数31305人(重態6248人)集中治療室にいた知人がだいぶ回復したとのニュース。歌手のChristopheクリストフも集中治療室にいたが今晩コロナで亡くなった。Et j'ai crié, crié, Aline, pour qu'elle revienne… ●4月17日(金) 32日目。初夏の陽気が続いている。今日の夜、リベラシオン紙に「お別れの儀礼を設置する」というタイトルの呼びかけが載った。コロナウイルスの重症患者に家族や友人がまったく会えず、臨終にも立ち会えず、遺体も見ることができず、葬儀も非常に限られた形でしかできない現状に対して、それらは人間に不可欠な行為だからなんとか身近の人が(一人だけでも)病人の最期に立ち会えるようにしてほしい、と訴えたものだ。私たちは、死に向かう人に生命と親愛の情の印を伝えなくてはならない、それが尊厳であると。 ステファン・オードゥアン=ルゾーという歴史学者も、コロナ危機で公衆衛生的な必要があるとはいえ、死者との隔離が容易に決められてしまったことに驚いたと言ってる。死にいく者に付き添い、葬儀を行い、死別の哀悼を表現することが先史以来の人間社会だった。現代人はますます死と老いに直面することを避け、喪の習慣も失われ、高齢者は専用施設に追いやられるようになった。社会生活からの排除である。しかし、このコロナ危機では人間社会の原則が軽々と破られてしまったと。もっとも抗議と悲痛な訴えはだんだん広がったようで、マクロンは月曜の演説でEHPADの住人に会いにいけるようにすると語った。 今日の夕方、初のネット・ミーティングを「屈服しないフランス」は催したが、ジャン=リュック・メランションもスピーチの中で、この問題について強調した(今回が初めてではないが)。まず、ある年齢以上の人が外出の自由を奪われ、訪問者に会えないような措置には賛成しないと断言した(彼は68歳)。そして、死に向かう人に会えず、まともな葬儀ができない状況について反論し、紀元前441年のソポクレスの『アンティゴネ』を引用した。反逆者の兄の埋葬を禁じるクレオンに対し、アンティゴネは人間の情(心)の法に自分は従うと主張して首を吊る。太古から、政体の法と人間的感情の法は矛盾するときがあったが、その場合は心の法にしたがって解決しなくてはならないとメランションは述べる。「愛の言葉、愛撫、手を握ること、歌、言葉、音楽などなしに、同じ人間を死に向かわせるのは恐ろしいことだ。」 メランションの演説は心に響く。いいアイデアもたくさんある。例えば、新型コロナウイルス用のワクチンができたら、それは世界じゅうに無料で配布されるべきという提案。 ●4月18日(土) 33日目。土曜のネット・デモは3回目、今回は34000以上のツイート(もちろんトップ)で、さらに参加者が増えた。今やジャーナリストは常にツイートを見張っているそうだが、なぜ主要メディアでこのネット・デモやバルコニー・デモについて、一言もないのだろうか(リベラシオンでさえも)。 中学で美術を教える友人と長電話した。ネット授業を3回行ったとのこと(今、学校は春休み中だが)。テレワークというのは、ふだん学校でやっている授業の3倍くらい時間を費やすことになるという。そして、やはり参加しない(できない)生徒もいるそうだ。 金曜のリュファンのフェイスブック・ライヴでは、ロックダウンが1か月過ぎてなお、地元のアブヴィルの病院で使い捨ての防護服が欠乏していることが語られた。彼の母親など市民が連携して急遽、型紙を改良して(1枚のシートで多く裁断できるように)作り始めたが、手作りではとても間に合わない。かつてアミアン近郊には多くの繊維工場があったが、繊維産業は人件費の安い国に工場を全部移転したため、一つも残っていない。フランス中で今や、ほとんどすべての衣服が国内で縫製されない。袖を閉めるのに必要なゴムでさえ欠乏しているという。 そこで、リュファンはノルマンディー北部の都市、ディエップの議員セバスチャン・ジュメルに連絡した。ジュメルが地元にある工場いくつかに連絡したところ、生分解性パッケージングの工場が防護ガウンを作る体制を整えることになった。フェイスシールドと人工呼吸器を作れるという工場もあった。このように、国内に残る工場で今の医療機器に必要な物品の製造・供給プラン(徴用、国営化も含め)を国が率先してやれと、ロックダウンの最初から野党や市民団体が要請しているが、マクロン政権は頑なに「国営化」や「徴用」を拒否する。金曜の夜、国民議会の追加予算討議では、酸素ボンベ製造のLuxferや薬品製造Famarの国営化の修正案が却下された。企業のイニシアチブはもちろんあるが、今回のような危機では国が舵をとって生産・供給体制を整えないと、救える命も救えなくなるのに。 この追加予算法案は夜中の3時に採決された(来週火曜に元老院で討議)。医療スタッフへのボーナス(1500€か500€)や、低所得者への援助(ケチくさく150€、子ども1人につき100€アップ)にあてられる額に比べ、航空・自動車など大企業への援助は4倍以上ある(200億ユーロ)。また、マスクと消毒ジェルの消費税(TVA)は20%から必需品の5.5%に引き下げられたが、これもゼロにする修正案を却下した。富裕税(32億ユーロ)を復活させれば、低所得者への援助(9億ユーロ)を引き上げられるのに、黄色いベストのときと同じで政府は意地でも拒否する。「500ユーロなんて残り物の施しはいらない、給料を500ユーロ上げて、ちゃんと医療に必要な物資や体制を整えなさい」と訴えるEHPADで働く女性のビデオがフェイスブックにアップされた。 高齢者にロックダウン解除の時期を遅らせるという案は放棄された。 ●4月19日(日) 34日目。ロックダウン5週間目がもうすぐ過ぎる。今日の夕方、フィリップ首相と健康大臣の記者会見があった。健康大臣は、5月11日以降にPCR検査を毎週50万できるようにしたいと述べた(ドイツは3月下旬から毎週50万近く、イタリアとスペインもフランスの2倍以上の検査量)。現在は1日に25000というから、遅れはなかなか解決されていないわけだ。フィリップ首相は新型コロナウイルスの基本再生産数R0を0,6に下げたと告げ、ロックダウンを解いてもこれを1以下に抑えなくてはならないから、ソーシャル・ディスタンスなど防護を強調した。 この基本再生産数R0についてはドイツのメルケル首相が国民に説明するビデオ(1,1だと10月に医療崩壊、1,3だと6月)があったが、17日金曜にドイツの健康大臣はR0が0.7になったと発表した。ドイツはICUベッド数が多く、また早期の検査と町医者との連携などによって、病院の緊急に患者が集中しなかったとのことだ。 一方、フランスの首相が告げたR0が0,6という数字はいったいどこから出てきたのだろうか。4月12日にInserm(国立健康医学研究所)などの研究者が発表した予測モデルでは、ロックダウン直前のR0を3と推定し、ロックダウンによって80%接触が減れば0,68になるとする。Covid19の科学者顧問会の会長は18日、3月初めに3,4 だったR0は5月11日には0,6に下がるだろうと述べたという(根拠はわからない)。つまり、今のところはまだ「R0を0,6に下げることに成功した」とは言えないと思うのだが。いずれにせよ、大切なことはピークが再び来ないように、大量に検査を行い感染がわかった人を隔離する計画を作ることだ。また、学校や社会活動の再開について(防護のマスクやジェルなどの供給を含め)安全を確保できる具体的なプランを立てることだが、それらはまだできていないようだ。ようやくホテルの使用に触れたが。 パリのイダルゴ市長は、政府よりは少し具体的なロックダウン解除のプランについて、インタビューに答えた。検査と感染者の隔離の二点を強調しているが、現在の検査数はまだ少ない。5月11日に向けて、布マスクが全市民(居住者)に提供されるというが、具体的な方法はまだわからない。 飛幡祐規(たかはたゆうき) Created by staff01. Last modified on 2020-04-22 12:18:31 Copyright: Default |