パリ監禁日誌4 : 「国家は銭を数える、私たちは死者を数えるだろう」 | |||||||
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監禁日誌4 「国家は銭を数える、私たちは死者を数えるだろう」*垂れ幕「お金が足りない公共サービス、早く富裕税を課せ!」 ロックダウンが4月中旬まで延ばされたフランス。3週間目のイタリア、スペイン。作家のアニー・エルノーが言うように、「国家は銭を数える、私たちは死者を数えるだろう」というデモの垂れ幕に書かれた医療界からの警告が今日、悲劇的に響き渡る。 ●3月27日(金)
11日目。ロックダウンは2週間、4月15日まで延長になった。街を歩く人の数は増えたような気がする。今日は病院での死者299人で合計1995人。でもイタリア(+919人)とスペイン(+773人)はさらに痛ましい。アメリカでも感染爆発しているようだ。 ラジオで刑務所でのルポを流していた。ごく一部の囚人の解放を認めたとはいえ、まだ実行されていない。マスクもなかなか届かない。解放後の住居の保障がない人は出られない。 「監禁」(自宅軟禁)状態でDVが増えているため、外出先として認められている薬局に赴き、薬局から警察や憲兵隊に通報するシステムができたとのことだ。女性はこのコロナウイルス危機でも、看護・介護スタッフ、キャッシャーなど第一線で多数働いているから、被害も大きく受ける。セーヌ・サン=ドゥニ県のスーパーで働いていたCGT組合員の女性が死亡したというニュースを見た。ま家庭内で子どもの学習その他さまざまな世話をする役目も、多くは女性が担っている。そこで今晩のフランソワ・リュファンのフェイスブック・ライヴは「第一線の女性たち」がテーマだった。 インタビューされたパリ郊外の病院で働く救命専門の看護師は、「1年以上前から疫病が広がるとかしたら大惨事になると警告してきたのに」と怒る。医療スタッフの安全が保障されていない中で私たちは最善を尽くしている、英雄とか言うな、ちゃんと仕事したいだけだと。 助産師さんの証言もあり、この危機のせいで中絶がすごく難しくなっている(優先でないとされた)、また出産にパートナーが立ち会えなくなり、産婦の不安が広がっていると語った。 それから社会学者ドミニック・メダのインタビューがあった。コロナウイルス危機で第一線に立つ看護・介護など「ケア」の部門で働く女性たちは、賃金がとても低く、社会的地位も低い。それはこれらの職業が女性の「自然な」行為だとされ、軽視され続けてきたからだと説明する。この危機によって、これら賃金が安い職業(キャッシャーや配達人、工場労働者、農民)がいかに必要不可欠であるかがわかったのだから、危機の後に変革をもたらすには、これら低所得の人々の賃金を引き上げ、逆に高い給料・報酬を制限すべきだと彼女は提案する。全くそのとおりだ。 さて、パスカル・マリシャラールという労働・健康・環境部門の研究者(CNRS)による興味深い記事を読んだので、簡単に紹介する。フィリップ首相とビュザン前健康大臣に対する訴訟(署名は30万以上)をはじめ、政府のコロナウイルス対策の不備への批判が高まっているので、政府の対応と照らし合わせる目安にするために、ウイルスについてメインストリームの科学的な認識がどのように進んだかをまとめたものだ。方法は、科学に関心がある人(健康省関係、政府に専門家として助言する人たち)なら誰でも読むであろうメインストリームの科学雑誌Scienceに、いつどんな記事が掲載されたかを見る。(私はサイエンスはふだん読まないが、科学分野のジャーナリストなら読んでいるだろう) https://laviedesidees.fr/Savoir-et-prevoir.html 最初の記事は今年の1月3日。1月30日には感染が中国以外にも広がった事実が認識され、2月5日に重要な展開(無症状の感染者の存在、封じ込めできなかったらパンデミックの可能性、重症者による医療システムの問題)が指摘される。2月11日にはPCR検査が不足する懸念が記され、2月25日はパンデミックになったことが確認される(WHOが宣言するのは3月12日だが、この時点でイタリアは北部10都市をロックダウンしたばかり)。そして、感染爆発の「カーブを緩やかにする」準備の必要性(なるべく早く)が認識された。 そして重要なのは、中国で2週間調査し、感染の制御に成功した内容をまとめたレポートをWHOが2月28日に発表したことだ。中国は大量検査と感染経路の追跡によって、感染者を隔離して成功した。WHOは最初中国を信用していなかったが、現地の調査ですっかり敬服したらしい。このレポートはサイエンス誌には3月2日の月曜に掲載(2月25日は金曜だった)が、政府の健康省関係者だったらすぐに読んだはずだ(40ページ)。現に2月29日土曜の午前中、コロナウイルスについての緊急閣議が開かれた。しかし、この29日土曜の夕方、フィリップ首相が国会に出向いて何をしたかというと・・・昨年12月からデモ、ストが行われ、国民の過半数が反対する年金改正法案を「討議なしで」強行採決する憲法49条第3項を行使したのだった。フランスの死者はまだ2人だったが、感染者は27日38人(+20)、28日57人(+19)、29日100人(+43)と増え始めた時期だった。 ●3月28日(土) 12日目。イタリアの死者が1万人を超えてしまった。スペイン、フランスは同じようなカーブを進んでいる。フランスの死者2314人(+319)、集中治療室に4273人。 疫病はギリシア・ローマ時代の記録にもあるが、歴史的な例としてよくあげられるのは中世14世紀半ばの大規模な黒死病(ペスト)の流行だ。なんと人口の3分の1が死亡した。この惨禍を機に、イタリアではボッカッチョが傑作を綴った。1348年、ペストが広まったフィレンツェから逃れて郊外の家に避難した10人の若者たちが、10日かけて毎日それぞれ物語を語る(合計100話)という設定の『デカメロン』(十日物語)だ。この中から物語を一つずつ、俳優が読んだものを毎日提供するサービスをLundi matin(政治、哲学、社会運動、文学などを扱うネット雑誌、年に2回紙媒体も発行)が始めた(フランス語だけでなく、ドイツ語やイタリア語、オーストリア語などで読む人も)。恋愛をテーマにした物語が多い『デカメロン』は発表されるとただちに、大きな反響をよんだ。 趣の異なる別のテキストを紹介しよう。 ●3月29日(日) 13日目。夏時間になった。日本との時差は7時間だ。今日のニュースは、オー=ド=セーヌ県議会長、保守の政治家パトリック・ドゥヴェジャンの死亡(コロナウイルス)の告知から始まった。国民議会の議員の感染が最初に発見されたのは3月5日。アルザス地方のその議員はずっと重態だが、他の議員たちの症状は軽いと伝えられている。パスカル・マリシャラールの記事(27日に紹介)に指摘されていたように、2月29日土曜、最初のコロナウイルス対策特別閣議の日に年金改革法案を強行採決したフィリップ内閣は、翌3月第1週に国民議会で5人感染者が出ても、気に留めなかったようだ。この時点で市町村選挙延期を決めて、外出自粛を強く要請していれば(そしてその間に検査やマスクなど必要物資の供給を計画していれば)、死者の数をもっと抑えられただろう。マルセイユの保守の候補者や選挙運動員は、第1次投票後にPCR検査でコロナに感染したことがわかったため、首相と内務大臣を訴えると発表した。そう、この選挙キャンペーンをやった多くの人たちは自分が感染(何には重態の人も)しただけでなく、他の人たちを感染させてしまった、投票所の陪席員に友人・仲間を行かせてしまった、選挙に行けと勧めてしまったと罪悪感と後悔の念にかられて、ずっと落ち込んだりしていたのだ。こうした経過は国会の委員会や訴訟によって明らかにして、責任を取ってもらわなければならない。 昨日、政府はマスクを10億個発注(中国に)、集中治療ベッドを14000に増やし、検査数も4月末までに毎日5万に増やすと発表した。人工呼吸器も1000 発注したそうだ。一方、メランションたちはロックダウンの最初から、これらの必要物資を国内で製造する計画をつくるべきだと言っている。そうすれば、自国で感染がおさまっても、その頃に危機的な状況になるかもしれない他の国々(とりわけ北アフりかやアフリカなどフランスと関係が深いフランス語圏の国々)に提供できると。でも相変わらず、野党の言うことに対して返事はない。フィリップ首相は政府の対応が悪かったとは誰にも言わせない、と凄んだが、ロックダウンを決めたから2週間近くもたつのに、マスクなど防護用品はまだ行き渡っていないし、酸素ボンベの工場の国営化を求めても回答はない。医療つき老人ホームで働く人へのインタビューがお昼のフランス・アンテール局のニュースで流れたが、話が進んでいくうちに介護師にマスクなど防護用品が不足していることがわかった。 今日まででフランスの死者2606人(+292)病院のみ。重態は4632人。イタリアよりスペインの24時間の死者数の方が増えた。バルセロナの郊外に住む友人と電話で話したら、今ではカタルーニャ地方の方がマドリッドより死者が多くなり、バルセロナはベッドが足りなくなるだろうと、見本市会場の中にベッドを設置しているという。彼らはロックダウン3週間目だが、スペイン政府は2週間「必要不可欠」以外の経済活動を一切禁止し、解雇も禁止した。 ●3月30日(月)
14日目。朝、国営ラジオ局のフランス・アンテールで作家アニー・エルノーがマクロン大統領に宛てた手紙が読まれた。『拝啓大統領閣下』から始まるボリス・ヴィアンの反戦歌の最初の句から始まる。素晴らしいので訳した。 https://www.franceinter.fr/emissions/lettres-d-interieur/lettres-d-interieur-30-mars-2020 「拝啓大統領閣下、『あなたに手紙を書きます。時間があるときに読んでくれるかもしれません』。文学に夢中だというあなたなら、この書き出しはおそらく何かを想起させるでしょうね。インドシナ戦争とアルジェリア戦争の間の1954年に、ボリス・ヴィアンが書いた『脱走兵』というシャンソンの最初の句です。今日、あなたが布告したにもかかわらず、私たちは戦争状態にはありません。敵は、私たちと同類の人間ではなく、思考も人を傷つけようとする意思も持たず、国境や社会階層の違いなど分からず、無差別に個人から個人へと移って繁殖します。あなたは戦争の語彙に固執するのでそれを使うと、武器は病院のベッド、人工呼吸器、マスク、検査であり、医師や科学者、医療スタッフの数です。ところが、フランスを統治し始めて以来、あなたはずっと、保健衛生部門が発した警告の叫びに耳を傾けることはなく、昨年11月のデモの垂れ幕に書かれた『国家は銭を数える、私たちは死者を数えるだろう』は今日、悲劇的に響き渡ります。しかしあなたは、国家が医療部門から手を引くことを推奨する人たちの意見を聞く方を選んだのですーー財源の最適化やらフローの制御といった生身の人間が不在の技術官僚の専門用語、現実を見えなくするわけのわからない言葉によって。けれども、見てください、今現在、国を機能させる業務を行い保っているのは、大部分が公共サービスではありませんか。病院、国の教育省と何万人ものとても安月給の教員たち、フランス電力、郵便局、地下鉄や国鉄。そしてかつて、あなたが『取るに足らない』と言った人々、今では彼ら、トラックでゴミを回収し、スーパーで作業し、ピザを配達し続ける彼らが全てではありませんか(訳注:取るに足りない人々が全てだと書いたヴィクトル・ユーゴーから)。知的な生活と同じように必要不可欠な生活、物質的生活(訳注:マルグリット・デュラスの作品のタイトル)を保証する彼らが。 『レジリエンス(変化に対処する能力)』という言葉、トラウマの後の再建を意味するこの言葉の選択は奇妙です(訳注:マクロンは公衆衛生緊急事態下で、軍隊を必要な作業に出動させることにして、オペレーションにこの名をつけた)。私たちはまだそこまで行っていません。大統領、この軟禁状態、物事が激変する時期がもたらす影響に気をつけなさい。物事を見直すのに適した時期です。新しい世界を願望するとき。あなたがたの世界ではありません!決定権のある人たちと金融家たちが、すでに臆面もなく決まり文句の『もっと働け』、週に60時間まで働け、などと口々に言う世界ではもちろんありません。疫病が明白に示したとんでもない不平等を、もう望まない人が大勢います。その反対に、本質的な欲求ーー健康的な食生活ができて、医療を受けられ、住まいがあって、学べて、文化を享受することが全員に保証されている世界を多くの人が望んでいます。まさに今、人々の連帯がその可能性を示している世界です。大統領、私たちはもう、自分たちの生活を奪われることに対して黙ってはいませんよ。私たちにはそれ以外持っているものはないのです、そして『生活、命ほど大切なものは他にはない』のですーーこれもシャンソン、アラン・スーションです。そしてまた、今日制限されてしまった私たちの民主主義の自由を、長いあいだ束縛されたままにはしません。この自由のおかげで、ラジオで禁止されたボリス・ヴィアンの手紙とは逆に、私の手紙は今朝、公共放送ラジオ局で読まれることになりました。 アニー・エルノー」 アニー・エルノーが言う新しい世界を再建するために、根本的な政策転換を求める呼びかけを3月27日、労組やATTACなど市民団体、グリンピースやオックスファムなど環境団体18が発表した。さて、制限された民主主義といえば、明日31日に「政府への質問」が行われるが、1会派1人の議員しか認められなくなった(国民議会議長が決めた)。そして「公衆衛生緊急事態」下の政府の措置をチェックする方法として、国民議会の調査団(約40人)が毎週ヒアリングを行い、その第1回として4月1日の18時にフィリップ首相をビデオで喚問する予定だ。 「屈服しないフランス」の国民議会と欧州議会の議員たちは、コロナウイルス危機について調査委員会を立ち上げ、ヒアリングを始めた。今日3月30日は、マチルド・パノー議員(環境関係の問題を多く担当し、毎年3.11の私たちの福島集会の時にも来て発言している)が原子力施設の下請け労働者のジル・レノーに、これらの施設での状況を質問した。フランスでも日本と同じく、原発の定期検査、メンテナンスなど最も被曝の危険が高い仕事の8割を下請け労働者(全国で16万人以上)が行っている。コロナ危機の緊急事態で廃炉は中止になったが、電力は必要不可欠な生産だから、仕事は続いている。フランス電力やオラノ(元アレヴァ)の正規社員に比べて、下請け労働者の安全保護や労働条件は悪く、企業によってばらつきも大きいが、被曝管理の上にコロナウイルスの感染の危険が重なり、現場の不安は募っているという。場所によっては検査が行われたが、そうでない施設も多く、防護用品も不足している。ジル・レノーはSUDエネルギー部門の組合員で、また下請け労働者の団体も作っているが、これまで要求してきた正規社員と同じエネルギー部門の労働協約を下請けにも適用させることが必要だと主張する。ただでさえ、効率と企業の利益を上げるために安全性(施設、労働者)と労働条件が劣化したが、疫病で労働者の不安と安全がさらに脅かされたら、事故が起きやすくなると。 今日はこれまでで最多の死亡数(病院のみ)が加わり、3000人を超えた。3024人(+418)。入院者数20946 (重態は5107人)。イルドフランスはこの週末から危機的な状況、集中治療室用の催眠材やクラーレといった薬品、シリンジポンプが足りなくなってきているという。 飛幡祐規(たかはたゆうき) Created by staff01. Last modified on 2020-04-01 23:22:24 Copyright: Default |