〔週刊 本の発見〕『崩壊学−人類が直面している脅威の実態』 | |||||||
Menu
おしらせ
・レイバーフェスタ2024(12/25) ・レイバーネットTV(11/13) ・あるくラジオ(10/10) ・川柳班(11/22) ・ブッククラブ(10/12) ・シネクラブ(9/1) ・ねりまの会(10/12) ・フィールドワーク(足尾報告) ・三多摩レイバー映画祭 ・夏期合宿(8/24) ・レイバーネット動画 ●「太田昌国のコラム」第96回(2024/11/15) ●〔週刊 本の発見〕第368回(2024/11/21) ●「根津公子の都教委傍聴記」(2024/11/14) ●川柳「笑い茸」NO.157(2024/9/26) ●フランス発・グローバルニュース第14回(2024/10/20) ●「飛幡祐規 パリの窓から」第95回(2024/9/10) ●「美術館めぐり」第4回(2024/10/28) ★カンパのお願い ■メディア系サイト 原子力資料情報室・たんぽぽ舎・岩上チャンネル(IWJ)・福島事故緊急会議・OurPlanet-TV・経産省前テントひろば・フクロウFoEチャンネル・田中龍作ジャーナル・UPLAN動画・NO HATE TV・なにぬねノンちゃんねる・市民メディア放送局・ニュース打破配信プロジェクト・デモクラシータイムス・The Interschool Journal・湯本雅典HP・アリの一言・デモリサTV・ボトムアップCH・共同テーブル・反貧困ネットワーク・JAL青空チャンネル・川島進ch・独立言論フォーラム・ポリタスTV・choose life project・一月万冊・ArcTimes・ちきゅう座・総がかり行動・市民連合・NPA-TV・こばと通信
|
毎木曜掲載・第183回(2020/12/10) いま闘わないと間に合わない『崩壊学−人類が直面している脅威の実態』(パブロ・セルヴィ―ニュ/ラファエル・スティーブンス 著、鳥取絹子 訳、2019年草思社)評者:根岸恵子あなた方に一言 一時期、「このまま先進国が飽食で身勝手な生き方をしていると、地球環境は破壊され、温室効果ガスはある地点で指数関数的に増大し、地球は近い将来、金星のような星になってしまうよ」と言っていたことがある。ほとんどの人は戯言だと思って取り合わなかったし、私自身、天文学的知識もさほどないので、これは荒唐無稽な想像に過ぎないと、人に話すのをやめてしまった。金星は地球に一番近く、大きさも同じくらいの地球型惑星で、双子星などと言われる。しかし、環境は天国と地獄。青い地球に対し、金星は温度460度の灼熱地獄。この高温は二酸化炭素による温室効果ガスによる。金星にはかつて水があったといわれるが、蒸発してしまった。地球が同じ運命をたどるかといえば、科学者は笑うかもしれない。 ただ、危機感を持っていなければ、快適な地球は終わりだということを誰でもが知っている。しかし、それは政治がどうにかする話だとして、自ら動く人はあまりいない。 「崩壊学」というのは、パブロ・セルヴィ―ニュとラファエル・スティーブンスの二人の作者によって作られた造語だ。この新しい学問は宗教的な「終末論」を云々するものではない。地球の崩壊について、包括的に検証するものだ。「コラプソロジー=崩壊学」だそうだ。本書は地球の崩壊に向かう過程で、基盤となる研究を世界中から集めて紹介した。目的は、これから起きることと、それは何なのかを明らかにすること。それによって、必要な政策を議論するためのテーマを可能な限り真剣に扱うためであると作者は述べている。 この本をこの書評欄で取り上げたのは、12月26日のレイバーフェスタで上映するドキュメンタリー映画「Irrintzina」(雄叫び/写真)のためだ。この映画は気候変動とそれを引き起こしている企業や政治と闘う人々をドキュメントしたもの。映画の中にはこの本から導き出される言葉が多く引用されているし、日本語版を作るうえで、難解な用語を理解するうえで役に立った。 私たちの多くは、崩壊に導くものがなんであるのか知っている。化石燃料を消費することで発生する温室効果ガス。それが原因である気温上昇。2度以上の上昇は破滅を導くこと。珊瑚が死に絶え、氷河が解けること。水位が上昇し、水没する地域があることなど。 菅義偉首相は10月26日の就任後初の所信表明演説で、成長戦略の柱として『経済と環境の好循環』を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力していくと述べた。2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「2050年カーボンニュートラル」によって、脱炭素社会の実現を目指すと表明した。 騙されてはいけない。これは政府と経済界と連携した成長戦略の一環である。彼らは私たちが気候運動で使うスローガンや言葉を巧みに利用し、グリーンウォッシングされた企業の広告を垂れ流している。脱炭素を理由に原発の誘致など経済界は戦略的にカーボンニュートラルを利用し、間違った気候問題への解決策をさも正しいこととしていると喧伝しているのだ。 しかし、本当に行わなければならないのは脱成長である。地球を崩壊させるのは、二酸化炭素だけではない。問題は科学的根拠に基づく理由よりは、見逃されがちな人間社会の疲弊である。経済と社会が招く崩壊は、不幸せな人間社会を形成する。2008年の経済破綻は記憶に新しいが、なぜローマは崩壊したのかとか、なぜマヤの都市が放棄されたのかとか、イースーターの話など、この本は興味深い。平家物語的にいえば、「盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ偏に風の前の塵におなじ」だということである。人間の格差に潜むゆがみは、社会全体を崩壊させるだけの力を持つ。 この本は崩壊に向かう気が滅入るような地球の現状を、淡々と羅列しているのではない。闘ってみようかという思いにさせる本でもある。地球崩壊はもうすでに始まっており、なす術もないと言いながら、気候や政治や経済の在り方に対して、この本は挑戦的である。 さて、では私たちは反撃しよう。2009年コペンハーゲンでのCOP15以降、気候に関する運動は爆発的に広がった。「Irrintzina」はパリのCOP21での行動を描いているし、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんの画期的な行動は世界の高校生の金曜デモを促した。今、気候正義の運動やXR(Extinction Rebellion)「絶滅に反逆せよ」の世界的な活動などによって、気候の緊急性は声高に叫ばれるようになった。 本書が特に取り上げているのは、イギリスでロブ・ホプキンスによってはじめられた「トランジション」だ。世界に広まりつつあるこの運動は、地域の支え合いを基本にした共同体である。地域通貨やエネルギーや食糧の地産地消、相互扶助などが基本だ。 また、バスクのオルタナチバ、ZAD(守るべき土地)、エコビレッジなどもあげ、共同体運動こそが私たちの価値観を変え、成長ありきの経済に依存しない人間社会を実現できるのではないかと示唆している。農業を基本に据えた共同体はアグロエコロジー、パーマカルチャーなどの農法による地産地消のシステムを採用し、物々交換によるリサイクルは脱貨幣経済への橋渡しとなり、経済システムへの大きな転換を促す。また、ギリシャの財政破綻で若者たちが始めた運動は、連帯経済的なモデルであり、今世界的に広まりつつある。 私たちはもう一つの生き方を選択できるのだ。この本は崩壊する地球に嘆くのではなく、崩壊と闘うことを訴えている。闘う方法はいくらでもある。いま闘わなくては、間に合わない。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子・志水博子、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2020-12-11 06:04:59 Copyright: Default |