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〔週刊 本の発見〕新しい風が吹いてきたー3冊の本と1編の評論 | ||||||
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新しい風が吹いてきたー3冊の本と1編の評論評者:志真秀弘
まず『資本主義と奴隷制』(エリック・ウィリアムズ、中山毅訳、ちくま学芸文庫,1700円)。これは、太田昌国さんの本サイト連載の〈サザンクロス〉45回で紹介され知った。 原書の刊行は1944年、日本では1966年に出版され、この8月に文庫で復刊された。一読して、わたしはこれまでの見方がひっくり返された。本書は、イギリス産業革命は黒人奴隷の「血と汗の結晶」に他ならないことを明らかにしている。産業革命は西ヨーロッパの進んだ文明の結果だという先入観が、どれほど根拠の無い見方だったかを思い知らされた。著者の論は、今日では「ウィリアムズ・テーゼ」として評価をえるようになったが、発表当時はほとんど無視された。著者は、1911年イギリスの植民地である西インド諸島・トリニダートの郵便局員の息子として生まれ、島のカレッジを出て、本国のオックスフォード大学に送られ卒業。成績は抜群だったが、ラテン語やら何やらの「古典学」を、西インド諸島出身の黒人に教えさせようという場所はどこにもない。失意のまま、その道を離れ、カリブ海域史の研究に転じ、30代はじめに本書をノースカロライナ大学出版部から刊行する。その後1950年代に彼はトリニダート・トバゴ共和国初代首相を務める。 本書には奴隷・砂糖・綿花などの貿易でボロ儲けし、のし上がったあれこれの固有名詞が頻出する。読みにくいが、17・8世紀イギリスの名前を、日本明治期の岩崎何某とか古河何某と読み変えるとわかりやすい。文章は明瞭にして緻密、しかもユーモアがあり、訳も名訳。
例えば合衆国憲法には、先住民イロコイの「6部族同盟」の影響がある。18世紀の西インド諸島海域に現れた海賊船には民主主義が息づいていた。全員参加の総会が最高権限を持ち、乗組員は船長を解任する権利を持っていた。この大西洋両岸のあいだに生まれた民主主義が、南北アメリカのフロンティア社会に影響を与えたと考える方が自然だろうと著者は指摘する。学者たちは文字世界を独占して、そこに現れないものを無視する。が、新しい民主主義は文化と文化の間に即興的に生まれてくるのだ。こうした主張は人類学者グレーバーの該博な知識にもよるだろうが、同時にウオール街占拠運動の中心にいた彼の経験も加わっているに違いない。たとえばサパティスタは前衛主義を拒絶して自分たちのコミュニティで可能な限り民主主義を追求するなどの実践例をあげ、その影響力を説くなどがそれだ。歴史過程の読み解きと彼自身の活動とが交差する本書後半部は実に魅力的である。
*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子・志水博子、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2020-10-15 10:08:54 Copyright: Default |