〔週刊 本の発見〕『にちにいまし−ちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』 | |||||||
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毎木曜掲載・第172回(2020/9/24) 「一物全体をいかす」琉球料理の精神『にちにいまし−ちょっといい明日をつくる琉球料理と沖縄の言葉』山本彩香著(文藝春秋 2020年1月刊 1450円+税)評者 : 佐々木有美コロナ禍のいま、食の大切さを考える。「にちにいまし」とは、沖縄の言葉で「似ているけれど、さらによい」という意味。琉球舞踊の名手で、琉球料理の第一人者といわれる著者・山本彩香(85歳)の、料理と日々の生き方への思いが詰まった一冊だ。東京で生まれ二歳のときに、那覇の遊郭街「辻(チージ)」の「尾類(ジュリ)」(芸奴)だった叔母の養子となった著者。中学のころは「ジュリの子」といじめられ、豆腐を売り歩いたりして学校にも満足に通えなかった。 琉球王国当時、日本や中国の使節団を接待した「辻」の「尾類」たちは、芸をするだけではなく、料理も作って客をもてなした。その伝統は続き、料理の名手だった叔母から著者は琉球料理の粋を受け継いだ。本書を読んで最も感銘を受けたのは、「一物全体を生かす」琉球料理の精神である。たとえば、芋は芋だけでなく、その茎も一緒に料理する。食材を丸ごと味わうのが琉球料理の醍醐味だ。味付けは、その土地の酒や調味料でシンプルに。ゴーヤチャンプルは、ゴーヤ、豆腐、卵をいため、味付けは醤油と塩だけ。ゴーヤを塩でもんだり、茹でたりの下処理はしない。その方がゴーヤの持ち味「苦味」が生きるし、栄養も逃がさない。 様々な食材の、それぞれの個性を生かす。人間も同じだと著者は言う。「苦味が強くても身体にはよい野菜があるように、一見マイナスだと思われるようなところでも、別の角度からみればプラスに働くことがあります」。同じヨモギでも、畑の下の柔らかいヨモギは、炊き込みご飯(ジューシー)に入れるとよく、太陽に下で育った丈夫なものは、すり潰して胃腸の薬になるという。その土地に生きる人々は、野菜一つにも細やかな観察と利用法を考えてきた。 この本には、料理とともに、沖縄の人々に大切にされてきた「黄金言葉(くがにくとぅば)」という諺や表現がたくさん紹介されている。「子持ちぇー、石にん、木にん、トートゥ、トートゥ」。子を持つようになったら、石の前でも、木の前を通っても「尊いです。尊いです」と祈りながら歩きなさいということ。つまり、子どもを「守る側の大人になったら、身の回りにある自然、ひいてはあらゆるものに敬意を払って生きなさい」と。自然「保護」ではなく、自然を「尊ぶ」心。「一物全体を生かす」という精神も、根っこはここにつながっている。 観光産業で生きる沖縄に、著者のことばは厳しい。観光客を出迎える「めんそーれ」は「いらっしゃいませ」の意味ととらえられているが、実は「あっちは行きなさい」「あっちへ行ってらっしゃい」の意味。本来は「いめんせーびり」と言うそうだ。「よその人々をもてなすには、まず、自らの足元をよく知らなければならない」。「言葉は、自分たちのルーツや歴史を教えてくれる大事な手がかり」。旅は大切なもの。私たちも、その「もてなし」にふさわしい旅をしたい。 「肝(ちむ)ぐりさん」は、「心が苦しい」ということ。相手がたいへんなとき、相手の痛みを我が事のように受け止めること。この本には、戦争も基地のこともほとんど出てこないが、沖縄の人々の生き方、心を知るための好著である。写真入りの琉球料理のレシピも楽しい。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2020-09-24 11:19:17 Copyright: Default |