木下昌明の映画の部屋:黒沢清監督『スパイの妻』 | |||||||
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●木下昌明の映画の部屋 第269回:黒沢清監督『スパイの妻』 国家を超えた「正義」とは?黒沢清監督の『スパイの妻』は、一種の戦争映画であるが、ひと味違うのは、日本が敗北したことを悲しむよりも「負けたんだよ」と、どこかふっきれた声がきこえてくる映画になっていることだ。そこにひかれた。この映画は今年度のベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞している。 舞台は、太平洋戦争前夜の神戸。そこで貿易商を営む若い福原夫妻の愛憎と葛藤がドラマの中心になって展開されている。2人は豪邸に住み、自家用車をもち、いつもしゃれた洋装である。夫の優作には高橋一生が、妻の總子(ふさこ)には蒼井優が扮し、それぞれ熱演している。その總子には幼なじみで、彼女に思いを寄せている憲兵分隊長の東出昌大がくわわり、三角関係ともいえるような関係が、戦時下の緊迫した時代の雰囲気をいっそうさし迫ったものにしている。 また優作は趣味で、会社の倉庫を使って何やら劇映画らしい映画をつくっている。それを忘年会の余興として社員たちと楽しんでいる。この映画中の映画は、ミステリーサスペンスを得意とする黒沢らしさを発揮する見せ場として登場している。 映画の柱となるのは、優作が社員の甥をつれて満州旅行に出かけ、そこで目撃した事件。2人は関東軍(日本軍)のある研究施設に招かれ、みてはならない国家機密をみてしまう。驚愕した2人は、帰国後、関東軍の悪魔の所業として、ひそかに国際社会に訴えるべく行動する。
ところがこのとき、満州から連れ帰った女性が埠頭で死体となって浮かぶ。この事件に優作がからんでいるのではないか、と分隊長が總子に告げる。ここから圧巻のシーンとなる。国家機密を教えられた妻が「あなたは売国奴ではありませんか」と問いつめると、夫は平然と「ぼくはコスモポリタンだ。ぼくが忠誠を誓うのは国家ではない。万国共通の正義だ」と語る。国家と国家とが対立する世界で、国家を超えた「正義」とは何か? そしてそのためにおのれを滅ぼしてもいいのか? 優作は世界を相手に商売している。外国語もペラペラなのは職業柄ということもあろうが、そればかりでなく、かれがナショナリズムに抵抗していることが、そこから読みとれる。 戦後、日本映画で、戦争映画らしからぬ作品として記憶に残っている戦争映画が2本ある。1本は熊井啓監督の『海と毒薬』(86年)で、遠藤周作の同名の小説がもとになっている。これは実際にあった九州帝国大学医学部の教授連による米軍飛行士たちの人体実験に光をあてた作品だった。手術室で腹を切りさくシーンは、ドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』(87年)の原一男が担当したが、これはなんだ、と目をこらしてみた記憶がある。 もう1本は篠田正浩監督の『スパイ・ゾルゲ』(03年)で、この作品も実話をもとにしている。いま見直すと、よく描けていると感心するが、とくに、日本側の主人公として朝日新聞の記者で、戦争末期には近衛文麿内閣に参加した尾崎秀実にひかれた。その尾崎を本木雅弘が演じていた。尾崎は、戦時下ソ連スパイのソルゲに協力する一方で、中国革命に参加した米国出身の女性革命家アグネス・スメドレーの『女一人大地を行く』の翻訳もしていた。尾崎はインターナショナリストであったが、日本の特高警察からは「売国奴」としてにらまれていた。 わたしは20代のころ、新日本文学会の文学学校に通っていたとき、講師の1人から「これを読んでみないか」と文庫本を貸してもらったのが『女一人大地を行く』だった。スメドレーの自伝でとても感動した記憶がある。 これらの映画は『スパイの妻』とどこか通じ合うものがあると思った。それは日本が戦争で敗北したことをよしとし、その戦争悪を暴露していたことである。 『スパイの妻』のラスト、總子がもらした一言が脳裏に焼きつく。 ※10月16日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー Created by staff01. Last modified on 2020-10-13 07:49:50 Copyright: Default |