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●紹介:『写真集:キャンドル革命――政権交代を生んだ韓国の市民民主主義』(コモンズ刊 定価:本体3400円+税、B5変形判、312ページ)

一人ひとりの力がつくった100万人の民主主義

小林たかし

1.本の力と共同制作の力

 本書は、キャンドル革命一周年の2017年10月に韓国で出版された本の日本語版。定価は3400円(+税)と高値で、重さも1キロをこえるが、中身もズシリとくる。中身を紹介するまえに、個人的なお願いを一つ。――大金を払える人は、たたかう韓国民衆へのカンパと思って買ってほしい、フトコロのさびしい人は買った人から借りて読んでください。読み終わったら、この本を仲間に宣伝してくれるとうれしいです。

 さて、本書は本の力を遺憾なく発揮した、おすすめの写真集だ。非暴力に徹したキャンドル集会に集まる人たちの素顔――東学農民運動からキャンドル革命へいたる120年のたたかいの歴史――世界の民主主義に光をあたえたキャンドル革命の意義、これらを一冊にまとめ上げる総合力と再現力は、どちらも比類がない。ネットにはネットの力があるが、本には本の力がある。

 この本は、労働者詩人で写真家の朴勞解(パク・ノヘ)が監修した。63歳の彼は、1989年に「南韓社会主義労働者同盟」という組織をつくった社会主義者で、序詩は彼の作品。写真家の金宰鉉(キム・ジェヒョン)は、労働争議や反原発運動の現場を撮ってきた35歳の若い人で、キャンドル集会参加者のさまざまな姿と多くの局面を切りとった写真を載せている。長文のドキュメンタリーを書いたのは金藝璱(キム・イェスル)という36歳の女性。非営利社会団体「ナヌム(分かち合い)文化」の事務局長。

 23週間、光化門(クァンファムン)広場に通いつめた彼女は、《はじめに》にこう記している。「明日の情勢を分析し、次の集会のプラカードに書くフレーズを話し合い、戻って来てから夜通し手帳や写真を整理して、この本を創っていきました」(3ページ)。本書の著者名は彼女一人だが、このドキュメンタリーは仲間との共同制作だ。

 本書は6割以上が写真ページだ。目に焼き付くような写真の合間を縫って、キャンドル革命[16年10月〜17年3月]の6章にわたるドキュメンタリーが時系列で組まれている。その所どころに闘争日誌があり、集会で歌った歌の歌詞があり、参加者の声が紹介され、朴槿恵(パク・クネ)の妄言集や通信社の記事などが配置されている。

2.「100万人それ自体が巨大な暴力だ」

 5か月にわたるキャンドル集会には、韓国総人口の33%にのぼる総計1685万2000人が参加した。毎週土曜日の集会には、100万人もの人びとが繰りかえし集まったのに、一件の事故も一度の暴力事件も起きず、集会参加者に一人の逮捕者も一人の死者も出さなかった。なぜか? 著者はこう書いている(119ページ)。

 「キャンドル市民みずから暴力を誘導する動きに巻き込まれることなく、賢く成熟した抗争をしたからである。しかし、より本質的な理由がある。100万人それ自体が巨大な暴力だからである。……いつでも暴力に発展する可能性をもった100万人という物質的な威力があったからこそ、平和革命が可能だったのである。……100万人の平和集会がもつ道徳的威力は、直接暴力という物理的威力をはるかに圧倒した。」

 世界に例のない平和的集会が可能だったのは、数の力だけではない。《広場を守った朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長》と題する箇所にはこうある(202ページ)。

 「(朴ソウル市長は)地下鉄駅の安全要員の配置、緊急患者に備える救急車と消防隊員の配置……など、11月から3月までの5ヵ月間、行政力を総動員してキャンドル市民と光化門広場の保護に取り組んだ。とくに、(警察がデモ隊を攻撃する)放水車の給水源である消火栓の使用を拒否した。」

 著者は、市民を心配してサポートしてくれた、ソウル市の職員と市長に心から感謝している。

3.「解放広場」に開花した民主主義

 片手にキャンドル、片手にスマホをもった人たちが光化門広場に集まって、新しい集会文化を創った。

 インターネットとSNSを使いこなす人たちは、自分で情報を検索し、通信で仲間に情報を拡散しながら光化門広場に足を運び、キャンドル市民となる。キャンドル市民のなかには、LEDキャンドルを創作する人や、スマホの画面にキャンドルを表示する無料アプリを提供する人もいた。また、「警察車に花ステッカーを貼ろう」という一市民の提案は、クラウドファンディングで大量の「花ステッカー」となり、警察車のボディーを飾った。こうして、数百台の警察車のバリケードは花のバリケードに様変わりし、平和集会の象徴となった(192ページ)。

 一人ひとりの意志によって、光化門広場は「解放広場」へと変貌した。新しい人たちによる、新しい集会の誕生だ。キャンドル集会には、環境団体から人権団体まで1500余りの市民団体が集まった。市民団体といっても、構成員の多くは労働者階級だ。

 貧富・性別・学歴・地域などによる格差に批判的で、いまの社会を変えたいと思う人ならだれでも、自立した個人として社会変革のたたかいに参加できる。労働運動はもちろん、フェミニズム運動や原発反対運動など、さまざまな分野の市民運動や地域運動も、社会を変えるたたかいの大きな流れとなれば、それぞれの運動体の量も質もたかめることになる。

 キャンドル市民は、個人と個人のあいだ、運動体と運動体のあいだに、民主的で平等な連帯が生まれる空間=「解放広場」をつくり、彼ら彼女らは、そこから全国に自分たちの体験を発信して、民主主義を拡散していった。キャンドル革命の主役である労働者と市民は、5か月間のたたかいでついに政権交代をかちとった。著者は、第4章「解放広場」の冒頭にこう記している(173ページ)。 「われわれはキャンドル革命を通じて、現実の広場とデジタルの広場で、同時に躍動する直接民主主義を体験した。善と正義の共同体、平等と分かち合いの共同体を体験した。……たがいに違い、たがいに見知らぬ人びとが一つになって、新しい民主共和国を築いていった。」

    ☆       ☆       ☆

 以上、ほんの一部を紹介した。経済と貧困と労働の問題、代議制民主主義と直接民主主義の問題、政党と選挙の問題、積弊清算の問題(歴史問題)、メディアの問題――とくにキャンドル革命を無視した日本のメディアの問題、などの紹介は別の機会にゆずりたい。

〔付記〕「カブトムシ研究会って本当にあるの?」:私は2018年11月に、この〈レイバーネット〉に「非暴力の精神とデモの文化」と題して、キャンドル集会についての紹介記事を書いた。こちら
 そこに私は、〈「○○労組」や「○○学生会」以外に、「カブトムシ研究会」「シマウマ研究会」「おひとりさま連帯」などの旗もあった〉と記した。ところが、本書の第4章「解放広場」に《「カブトムシ研究会」から「民主ファン連帯」まで》という見出しがあるではないか。そこには、こんなくだりがあった(193ページ)。
「11月12日の100万人キャンドル集会で市民の爆笑を誘った旗があったが、その名も『カブトムシ研究会』。……3年前に友人らとこの会をつくった代表によれば、昆虫とはまったく関係がない。この旗によって『誰でも参加できるというメッセージを示すことができれば目標達成だ』という。……キャンドル集会では……全国おじさん連合、惑星連合地球本部韓国支部……など、一人あるいは仮想の組織、急造された集まりの奇抜な旗が広場にはためいた。」

本書申込み(コモンズ)


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