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現代社会に対する強い警告〜劇団文化座「アニマの海」を観る

    牧子嘉丸
 朝の連続テレビ小説「なつぞら」の主人公は、北海道から上京してアニメーターをめざしているが、先輩からアニメーションの意味を「原画にアニマ(魂)を吹き込むことだ」と教えられる。そのひそみに倣(なら)えば、この芝居はまさに舞台に作者の魂を吹き込んだといえるだろう。 

 幕開きは一漁村の家族の何気ない日常から始まる。父なきあとの海の暮らしをめぐる兄弟のいさかいやら息子の嫁とりを心配する母親やら、一家の過去と現在がよみがえってくる。そして、やがてこの平凡な暮らしを悲惨な日常に陥れる危機が忍び寄っている。それは「最近、ここらのネコに中風がはやっとらす」という笑い話で暗示される。やがて、母が倒れ、兄も身体がむしばまれていく。劇は海で暮らす漁師家族の悲劇をその一家に寄り添う若き主婦石崎君子の語りを織り交ぜて描いていく。あたりまえの日常が刻々と暗転していく恐怖こそ、水俣病の本質である。

 私が観た日にはアフタートークがあり、出演者の話や観客からの様々な意見や質問があった。劇中に不思議な女の子がいて、工場のサイレンが鳴ると耳をふさいで、逃げていく。あれは何んだっだのか、という疑問に別の観客の女性が「私はこう見ました」と見事な解釈を述べる。また、市民有志がこれ以上水俣の評判を貶めないでくださいと訴える場面に今日の住民エゴを見たという意見や、妻を水俣病で亡くした老漁夫が静かに土地を去っていく姿に深く感動したという声もあった。

 劇団代表の佐々木愛さんが「芝居はお客様ひとりひとりの解釈・見方があり、それがまた楽しいんですね」と話されていたが、まさにその言葉通りだった。観客のなかに長く水俣の支援をされてきた人がいて、「きょうのお芝居を泉下の石牟礼道子さんも喜んでおられると思います」という趣旨の発言があったが、劇団・出演者一同への何よりの励ましであったろう。まさに石牟礼さんのアニマが吹き込まれたのである。

 私はまた長い原作をもとに脚本を書いた杉浦久幸さんの功績も多としたい。願わくば、沖で漁をしながら、妻が七輪で飯を炊き、夫がとれたての魚を捌いて食事をする場面を回想のひとり語りでもよいから入れてほしかった気がする。まさに王侯貴族の位も何するものぞ、という豊かな暮らしがそこにはあったのだ。

 今、プラスチックごみによる大洋汚染の危機が叫ばれている。馬鹿げたスターウォーズ計画などの宇宙開発より、この海の汚染こそ緊急事態ではないか。水俣病という平穏な日常を破壊する経験を人類規模で繰り返す愚をおかそうとしている。そんな現代社会に対する強い警告でもあると思った。

劇団文化座HP(6/23まで公演中)


Created by staff01. Last modified on 2019-06-16 10:40:08 Copyright: Default

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