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理不尽な被害者たちの生の声〜ドキュメンタリー映画『福島は語る』

    笠原眞弓

 武藤類子さん(写真下)は、福島市で1980年代から反原発運動にかかわっていたと話しはじめる。今は2012年以降福島原発訴訟団の団長をかわきりに、原発事故関係の複数の団体に関わっている。彼女は福島の人たちに呼びかける。「理不尽な被害者であることを思いだそう。怒っていいし、あきらめなくていい、言葉に出していい、道が開けるかもしれない。誰にでも与えられた権利なのだから」と。そして「黙っていていいの?」と問いかけ、抗う力を語る。「それは解決するということではない。当事者が抗っていかなければ……。黙っていたら国は助けない」としみじみ語る。

 そして沖縄の人たちに話が及ぶ。「沖縄の人たちは怒りを燃やし続けているのを観ると、私たちはまだまだ。福島はもっと理不尽だと思わなければ、怒りは出てこない」と静かに怒ることを促す。

 土井敏邦監督は、2014年から撮影を始めて100人に会い、この作品の中には14人のインタビューが収録されている。最近、普通の人(女)たちの生の声の記録が出てくるのは、やっと明治になってからという話を聞いたが、この映画はまさに、生の声の記録である。

 正直「そういうのって……」と生意気に思ったのだが、始まるとすぐにぐいぐいと引き込まれていった。そこで語られる言葉は、監督に向かって無防備に汲みだされていく「本心」そのもの。良く聞く言葉、よく耳にする表現ではあってもそれを越えて、映像は彼女、彼の奥深い心情を容赦なく引きずり出していく。

 「二人とも子どものためなのに、そのやり方が違って……、何度も離婚の覚悟を……」と袖を引っ張り出して顔の水分を拭く若い母親は、離婚したくないと言外にいう。

 避難先では言ってはいけない言葉を小学生でもわかっていると、双葉町で教えていた先生。彼女は3・11の「忘れないための黙祷」を年休をとってやり過ごしていた。避難児童4人を担任した年はその子らを学外に連れ出し、アイスを食べながら笑っていたという。子らにとっても、初めての泣かない「その日」だったのだ。

 自死を考えながら生きる透析の女性。家も生業も跡取りもすべて失って自分を責める男性は、孫と暮らす姿を思い描いて顔を緩ませる。しかし、次の瞬間には自分より辛く悲嘆にくれる人を思いやる。

 不意に現れたお百姓の中村和夫さん。私の知り合いだ。2年前にくも膜下で亡くなった。懐かしい彼本来の明るさが、画面に滲む。農家の多くの人が将来も農業を続けられるのかと不安の中にいた時、彼は「それでも種を播く」といい、その言葉をいただいて仲間たちと福島の農家とそこにつながる他県の農家を訪ね、短いDVDを作った。忘れてはいけない福島。記録は続くのだろうか。

*170分/3月2日より新宿ケーズシネマ、3月9日より渋谷ユーロスペースほか全国公開


Created by staff01. Last modified on 2019-03-04 09:11:27 Copyright: Default

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