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米国 : ミズーリ州の住民投票で「労働組合を弱体化する条例」を否決!
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〔解説〕6月27日のジャニス事件の最高裁判決により反労働組合攻撃が強まることが心配されていた。しかし、早速反撃が開始され、8月7日のミズーリ州の住民投票で労働権条例が大差で否決された。ミズーリ州の労働組合が住民団体と力を合わせ、草の根の選挙運動を展開して流れを変える勝利を生み出した。以下は9月レイバーノーツ誌のトップ記事の翻訳である(一部略)。(レイバーネット日本国際部 山崎精一)
 *毎月25日前後に「レイバー・ノーツ」誌の最新記事を紹介します。

ミズーリ州「労働権条例」を粉砕

  ジュディー・アンセル(労働教育者・カンサス市公正な雇用を求める運動)


*8月7日、驚異的な67パーセントの住民投票の反対票で労働権条例を否決したことを喜ぶミズーリ州の組合員たち

 中西部の労働権州*の地図を見るとミズーリ州の周りはほとんど労働権州であった。しかし、トランプ支持者が急増して反労働組合の強硬派エリック・グライテンス知事が2017年1月に誕生した。その直後に、共和党が支配する州議会は労働権条例を可決し、グライテンス知事は2017年2月にその条例に署名した。

 *労働権州=労働組合に入らない権利を条例で保障している州で、現在全米の過半数の28州になっている。具体的には、非組合員も労働協約の適用を受けるので、非組合員から組合費に相当する費用を組合が徴収するエージェンシー制度を禁止している。そのことによって非組合員は「ただ乗り」が可能となり、労働組合が弱体化される。

 しかし、ミズーリ州では反対の多い条例を市民が拒否する権利が認められている。そこで労働組合は住民投票を実施するための署名活動を始めた。

 労働権条例が施行される予定の10日前、2017年8月18日に労働組合は31,0567筆の署名を提出した。その年の住民投票にかけるために必要な署名数の3倍の数であった。

 州議会の共和党は投票率を引き下げようとして、住民投票の期日を今年11月予定の予備選挙から8月7日の予備選挙に早めた。しかし、その目論見は外れ、67パーセントの投票者が労働権条例を拒否した。

●2対1で組合側が勝つ

 このミズーリ州での労働組合側の勝利は、労働組合は衰退しているという通説が間違っていることを示した。1978年にミズーリ州で労働権条例が否決された時と比べると組合の組織率は三分の一になっているが、反対票は増えている。

 驚くべきことに州の全労働組合員25万人が一人も投票していなくても、労働権条例は否決されていたのである。予備選挙で共和党が獲得した票数から判断すると、労働権に反対の票の少なくても三分の一は共和党支持者の票である。

 前回の大統領選挙ではクリントン候補に投票した郡は四つしかなかった。しかし、115の郡の内100が労働権に反対した。それではこのミズーリ州の大金持ちが進める反労働組合攻撃をどうやって完璧に打ち破ることができたのだろうか?

●戸別訪問

 反対活動が始まったのは5月になってからであった。それは州全体に広がり、運動員も少しは雇われたが、ほとんどはボランティアによる運動だった。「25万人の労働組合員にとってはとても身近な問題でした。それでみんなボランティアで参加したのです。」と塗装工組合での仕事から年休を取って運動に参加したジェシカ・ポドラさんは言います。

 労働組合と地域団体からのボランティアが組になって7月の無慈悲な暑さの中で毎日戸別訪問して選挙民に話しかけた。州の西部地域の責任者だったポドラさんによると87万戸の家を訪問し、100万回電話掛けを行った。

 全州にわたって「A項に反対*」のポスターを10万枚配った。労働権条例推進派は25,000枚のポスターを作ったが、草の根の推進組織がないので配布することができなかった。ポスター戦ではこちら側の完勝だった。

 *住民投票事項A いくつかあった住民投票事項の内、労働権条例はA項であった。

 反対運動の一員、ミズーリ州「公正な雇用を求める運動*」は地域運動を展開した。メンバーたちは戸別訪問し電話掛けを行い、オルグたちは地域団体や教会の指導者たちと会って話をした。「ミズーリ州民皆保険を求める運動」は会員1万人の組織だが、住民投票事項Aで労働権条例が実施されると75,000人が健康保険に加入しづらくなることを宣伝した。ミズーリ州シエラ・クラブは全州向けのラジオ番組で労働権条例反対を訴えた。

 *1987年に結成された労働者の権利問題と取り組む地域の草の根の運動組織。全米各地にありネットワークを形成している。もともとはナショナルセンターのAFL-CIOが呼びかけたものだが、労働組合ではない地域団体が職場の問題に外から取り組むところに特色がある。

●訴えと金

 労働権条例反対運動は主に経済問題を訴えた。労働権条例は組合に入っていようがいまいが、すべての働く者にとって不利だ、という単純な訴えが効果的だった。労働権州ではそうでない州と比較して平均年収が8700ドル低いという事実を強調した。労働権条例を推し進めているのは金持ちの特権層で、大企業のCEOの年収は労働者の361倍であることを強調した。

 推進側は金で負けたと主張するかも知れない。確かに推進側は500万ドル使ったのに対して、反対する労働組合側は1800万ドルと圧倒した。

 推進側が余り金を使わなかったのは、11月の上院議員選挙に重点を置いたためかも知れないし、またグライテンス知事のスキャンダルで気勢が削がれたせいかも知れない。知事は5月末に辞任していた。ヘアドレッサーとのセクハラ疑惑と選挙違反の2件で起訴されていたからだ。

 お金のことは別にしても、右派が最初から労働組合側を見くびっていたことは確かである。住民投票に必要な署名を集められるとは思っていなかった。ましてやその3倍も実際に集めるとは。

 「ミズーリ州では長い間労働権条例に反対してきましたし、公正な雇用を求める運動などは長い間労働組合との共闘を求めてきました。」とミズーリ州公正な雇用を求める運動の政策責任者のリチャード・フォン・グランさんは振り返る。「推進派の労働権全国基金はこの闘いではマスコミ宣伝やメール広告を重視し、信頼関係のネットワークを作ることを考えていなかった。労働組合とその共闘団体の草の根の運動を過小評価していた。」

●一対一の会話

 この運動の教訓の一つは正しいメッセージが重要だということである。推進側は労働組合を問題にしようとした。こちら側は働く人々の問題にしようとした。

 しかし、誰がそのメッセージを伝えるかも重要である。「別にメッセージを伝えようとしたのではなく、ただ皆と話したかったのだ。」と仕事を休んで地域の活動にフルタイムで参加した機械工組合員のブライアン・シモンズさんは語っている。「みんなミズーリ州民で隣同士なのだ。時間を取ってゆっくり話せば草の根の運動はうまく行くんだ。」

 「公正な雇用を求める運動」のリチャード・フォン・グランさんはもっと簡潔だ。「選挙民に話をすれば勝てるのだ。」しかし、労働組合がこの勝利から正しく学ぶか疑問を持っている。組合指導者の中には、この勝利の教訓は共和党支持者にもっと働きかけることだと考える人もいるのではないか、と恐れている。すでに労働組合地域評議会の中には労働権条例に賛成せず、現行相場法*廃止に賛成しなかった「友好的な現職共和党議員」を推薦する動きがある。これらの議員は少数者や女性の権利に反対したり、必要な社会サービス予算を切ったり、金持ちの税金を引き下げたりすることが多い。

 *1931年制定の連邦法で、連邦政府が締結する建設とサービス契約ではその地域の現行相場賃金を下回ってはならないことを定めている。

●元に戻すな

 来年2019年に州議会が再度労働権条例を可決する危険性がある。それを防ぐには労働組合は組合員以外に働きかけるような運動を続ける必要がある。

 そのためには進歩的な経済政策と民主的な改革を推し進める必要がある。11月選挙にかけられている二つの住民投票はその第一歩となりえる。一つは最低賃金を引き上げ、もう一つは州予算を使ってゲリマンダー(与党に有利な選挙区割り)を廃止するための州憲法改正である。

 トーマスさんは労働組合と黒人社会との間にあった対立*が組合指導者にとって警鐘となることを期待している。「全ての労働組合が目を覚まし、黒人社会との関係を築くきっかけとしなければならない。」

 *カンサス市の新しい空港建設を巡って黒人社会と建設労働組合の対立があり、黒人団体の一部に労働権条例に賛成する動きがあった事。

 1978年に労働権条例を打ち破ることに成功した運動の戦略を担った故ジェリー・タッカーさんは2005年にこう記している。「急成長していた反労働組合潮流は反労働権条例運動の多様性、広がりの前に敗北した。反労働権条例運動は大衆的な運動作りを基本としていたが、その戦略、戦術、エネルギー、社会的広がりは残念なことにすぐに忘れ去られてしまった。その勝利はアメリカの労働運動にその可能性を瞬間的に垣間見させたが、労働組合はそれを生かすことができなかった。」

 この歴史が繰り返さないことを期待しようではないか。


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