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LNJ Logo 木下昌明の映画批評『サムライと愚か者』
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<木下昌明の映画の部屋・第241回>

「オリンパス事件」巨額損失隠しの顚末〜映画『サムライと愚か者』

 こんな事件があった。
 2011年7月、日本のある企業が売上高が2億円に満たない国内ベンチャー企業3社を約700億円で高額買収した、との暴露記事が月刊誌に掲載された。それが発端だった。これを読んで驚いたという社長は、4月に就任したばかりの英国人だった。

 彼はさっそく当時の会長に問いただしたところ、逆に取締役会で「解任」まで宣告され、全員が賛成したという。その後、旧経営陣が東京地検特捜部に逮捕される事件に発展した。―― 一体、何が起きたのか。

 これをドキュメントした山本兵衛監督の『サムライと愚か者――オリンパス事件の全貌』がおもしろい。

 オリンパスは顕微鏡や胃カメラなど光学機器の世界的企業で、当時のグループ会社が160社以上あったという。そんな企業がなぜベンチャー企業を巨額で買収し、それを隠蔽(いんぺい)し続けたのか。映画は、関係者のインタビューをよりあわせてナゾを解いていく。その筆頭は、英国人の元社長マイケル・ウッドフォードで、彼が「怖かった。今でも話をすると手が冷たく汗ばんでくる」と話すところから始まる。その後、記事を書いた経済記者や編集長、元取締役専務など事件にかかわった人々のインタビューへと続く。

 やはり興味深かったのは、700億円も出して国内ベンチャーを高額買収した奇怪さだ。3代前の社長の時代で、それをズルズルと隠してきた。映画は、その原因とからくりを次第に明らかにしていくが、そこから日本人特有の体質が浮かび上がってくる。これをウッドフォードは、日本人には「サムライと愚か者がいる」と腑分(ふわ)けした。愚か者とは、不正に加担した「卑怯(ひきょう)で臆病者の役員たちのことだという。

 映画は、グローバル時代の企業のあり方や日本人の精神構造などを考えさせる。が、それにしても、ウッドフォードは裁判で12億円も勝ちとったというからすごい。
(『サンデー毎日』2018年5月27号)

※5月19日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開


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