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光州事件はこうして伝えられた〜韓国で大ヒットした映画『タクシー運転手』

    笠原眞弓

 3月29日に東京都議会はストーカーを念頭に置いた迷惑防止条例を成立させ、今年7月から施行される。この法案は憲法を越えているとの批判もあり、警察関係は否定をしているものの、現在連日行われている「安倍政権にNO」のような路上集会などにも規制がかかるのでは、と懸念されている。

 韓国では、1979年に軍事独裁の朴正熙大統領が殺害され、一時的に「ソウルの春(民主化)」が訪れたが、すぐに全斗煥が実権を握り新軍部による軍事政権が誕生し、金大中や金泳三が自宅監禁された。それに不満を持つ学生など、若者を中心に各地でデモが行われ緊張感が高まっていた。そんな中で、1980年5月18日から10日間に及ぶ光州事件起きている。つまりこの事件は、戒厳軍がデモ隊に実弾を撃ち、多数の市民を死に追いやった事件である。

 1990年代のはじめ、私は光州事件の犠牲者のお墓に詣でた。広い墓地の一角を占めるそこには墓碑が整然と並び、そのひとつひとつに犠牲になった方の写真が貼りこまれ、花などの供物が置かれていた。その日は記念日でもなんでもないのに、あちこちに墓参の人たちがいた。その光景は図らずも光州事件が、韓国の人々に深く記憶されることを示していると思った。そして振り返れば、2008年(FTAの牛肉自由化反対を端に発した反政府デモ)や、昨年の朴槿恵大統領の辞任を勝ち取った2つの非暴力大規模キャンドルデモの出発点の一つになったのではないかとさえ思う。

 さてこの映画は、その光州事件に期せずして巻き込まれた人のいいタクシー運転手キム・マンソプ(『弁護人』での主役・ソン・ガンポ)とジャーナリストとしての使命感に燃えたドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーター(『戦場のピアニスト』でのトーマス・クレッチマン)の光州事件の真っただ中で過ごした実話をもとに作られたものである。一種の英雄物語でもあるから、これが韓国で大ヒットをしたことは、うなずける。

 日本で仕事をしている特派員のヒンツペーター(ピーター)は、韓国で異変が起きているのに報道されていないことを知り、光州に飛ぶ。一方、父子家庭のマンソプは、娘がいじめられないように、滞っている家賃の10万ウォンの工面に頭が痛い。と、そこに光州まで1日で往復する10万ウォンの仕事の話を小耳に挟み、何食わぬ顔をしてその仕事を横取りする。ソウル市内のデモに対して仕事の邪魔とばかりに悪態をついていた彼が、最も激しい闘争現場に飛び込むことになったのである。

 ピーターとマンソプは、催涙弾から実弾に変わる2日間ほどを光州にいたことになる。逃げ腰のマンソプを尻目にピーターは、現場をひたすらフィルムに収め続ける。その発信に希望をつなぐ光州市民や学生たち。

 間もなくピーターの存在が戒厳軍に知られ、追われる身に。通訳の学生の機転で何とか危機を脱することができる。マンソプはソウルに残した一人娘が気になり、いったんは戻りかけるも、何かのスイッチが入って、戦闘現場に戻ってくる。息絶えた通訳の学生のそばで、呆然としているピーター。マンソプはそんな彼にカメラを握らせる。

 マンソプの乗るタクシーの存在感も半端ではない。決して立派ではない車だが、市街戦で痛みつけられながらもグリーンが冴えわたっている。まるで緑が平和を象徴しているかのように、修理によって再生されていく。

監督:チャン・フン 137分
4月21日(土)よりシネマート新宿ほか全国ロードショウ
https://www.facebook.com/taxidriver0421/

写真 (c)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.


Created by staff01. Last modified on 2018-04-17 12:09:51 Copyright: Default

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