〔週刊 本の発見〕『亡き王女のためのパヴァーヌ』 | |||||||
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毎木曜掲載・第33回(2017/11/30) ポップな文体から現代社会をえぐりだす●パク・ミンギュ『亡き王女のためのパヴァーヌ』(吉原育子訳、CUON、2015年、2500円+税)/評者=佐藤灯・金塚荒夫「叙情が社会批評となっている」。今回紹介するパク・ミンギュ(写真)の作品をこういいあらわしたのは韓国文学の翻訳者である斉藤真理子さんだ。韓国文学・近代朝鮮文学はこれまで良質な文学作品をたくさん生み出し続けてきた。その中でパク・ミンギュは、本をめくる手を止めさせないポップな文体から読書の楽しさを感じさせる。同時にそのポップな文体が競争に駆られる韓国社会で抑圧されている人々の苦悩を突きつけることで現代社会に疑義を呈し、読者を揺り動かす現代韓国の稀有な文学者だ。 物語の舞台は1980年代の韓国だ。三人の男女を軸にして描かれるこの作品の主人公は学歴を重んじる韓国社会の通念に共感できずに小説家を目指している「僕」。その僕の友人で母を亡くしている「ヨハン」。容姿が「醜い」ために心に深い傷を負っている「彼女」。みな心に傷を負っている三人は、同じ職場で交流を深めていく。そして「僕」と「彼女」は「美人だから」というその当時の韓国社会における通念的な理由ではなく、その人となりに惹かれ、互いの傷を癒していく。 特に外見と容姿に強いコンプレックスを持っている「彼女」の心情には胸が痛む。外見的コンプレックスを生起させている韓国社会の生きづらさが文章からひしひしと伝わってくる。しかし、それは当時の韓国社会特有のものだろうか? 女性や性を商品化し、序列化するメカニズムがある社会では、たくさんの「彼女」が存在しているのではないだろうか? 「つまり見た目はカネよりも絶対的なんだ。人間にとっては、それから人間がつくったこのしょうもない世界ではね。美しさと醜さの差はそれほど大きいんだよ、何でかわかるか? 美がそれだけすごいからじゃなくて、人間がそれだけどうしようもないからだ。どうしようもない人間だから、見えるものだけに依存するしかないんだ。どうしようもない人間であればあるほど、見せるために、見られるために世の中を生きていくんだよ」(p250−251)という言葉は求める「美」にそぐわない人々を抑圧する社会の空しさの一端をえぐりだしている。 パク・ミンギュは社会で抑圧をうけている人々に対する優しさを創作の根底に置いている。作中に登場するさまざまな楽曲もまた魅力的だ。特に本の題名でもあり有名な楽曲でもある「亡き王女のためのパヴァーヌ」の曲調が作品を通底し、主人公たちの悩みや苦悩、幸福と共振する。翻訳もまたすばらしい。多くの人々に手にとっていただきたい作品だ。 〔追記〕最近、出版社は優れた韓国文学・植民地時代の朝鮮文学の翻訳を多数出版している。平凡社からは「朝鮮近代文学選集」、CUONからは「新しい韓国の文学」、晶文社からは「韓国文学のオクリモノ」など、各出版社から定期的に優れた韓国・朝鮮の文学が紹介されている。このような作品を出版する翻訳者・編集者・出版社の皆さんに心から感謝します。どれもすばらしい文学作品ばかりなので、ぜひ多くの人々に読んでいただきたい。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2017-11-30 11:46:35 Copyright: Default |