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レイバーネットTV「2017年わたしのオススメ本」アンケート結果

 *11月22日の番組をご覧ください。→アーカイブ録画

*以下到着順です。本のタイトル(著者)・理由・推薦者

★「日航123便 墜落の新事実」青山透子

 1985年8月12日に発生した日航機事故について様々な人たちに取材し、証言を得てまとめたものです。本当に衝撃的な内容で認識が根底から覆されました。政府発表を鵜のみにしてはいけないことは、福島第一原発事故や沖縄の基地問題でわかったことですが、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思います。(「北の国から」さん)

★「人間の居場所」田原牧

 問題は、向こうが云々ではなく、いつもこちら側、主体にある。「負け続けられる力」の涵養が必要だ。そして、そのためには「居場所」を作れるかが重要だと説く。原子化され「社会」を奪われ、個人で直接会社や国家に対峙せざる得ない人々が安心して集い、正気を保ち語り合える場をどれだけ作れるか。安倍的、経団連的なるものへの戦いは、この「居場所」からの陣地戦となるだろう。 各陣地での闘いと抗いの緻密なルポルタージュ。(遠藤竜太)

★「ペンとカメラ」木下昌明

 「知力」の定義を”人がそれまでの人生で学んだこと、経験し体得したことをもとに、眼前にある問題を解決したり、事象を分析、解説する能力”とするならば、この本は正に、木下さんの知力を凝縮して、書かれた映画、社会、時代の評論だ。例えば、「労働と時間」の章。「モダンタイムス」も「真昼の決闘」も私の好きな映画だし、佐多稲子の「キャラメル工場から」は今も手元にある本だ。しかし、その全部を時間、労働と時間という共通項で語る手法には、目を見張る。読んでいて楽しい映画評なのに、読後に深い知的高揚感を覚える本だ。木下さんの他の本も是非読みたくなる。(長谷川澄)

★「さよなら、田中さん」鈴木るりか

 「おもしろいよ」と何気なく渡された1冊。帰りの電車で読み切れず、つい帰宅後も鈴木るりかの世界に引きずり込まれてしまった。児童文学?小説?それよりも、場面が動画(アニメ)になって立ち上がってくる。著者はなんと14歳。小学館主催の「12歳の文学賞」を小4から3年連続して受賞したというのもうなずける。それはさておき、フィクションと断ってあるが、自分の置かれた環境をのびやかな視点で的確にとらえ、今の社会の現実を読むものに見せてくれる。(笠原眞弓)

★「モネ、ゴッホ、ピカソも治療した絵のお医者さん」岩井希久子

 名画から、英国の修復の現場から、依頼される仕事から真摯に学び続け独自の岩井メソッドを作り上げた。学校教育の外から生まれたすばらしい職人。奥深い絵画芸術を見る目の確かさ。人間の表現する営為の本質を探り敬意を持って遇する態度。子供を産み育てながら前人未到の仕事をしてきた。修復とは創造的な営みだと証明してみせた。人柄、生き方、その仕事に深く感銘を受けた。先駆者は未だ壮大な夢を描く。本物の創作者が明かす創造の秘密までをも感じとることができた。本当に感動した。(フクシマ陽太郎)

★「北朝鮮で考えたこと」テッサ・モーリス‐スズキ

 著者は、オンライン・カタグロで見つけた一冊の本に惹きつけられる。その本とは、エミリー・ケンプという1860年生れのイギリス人女性が記した紀行文だ。ケンプは1910年に、友人と朝鮮半島を縦断する旅行に出かける。韓国併合の年だ。著者も2009年に、ケンプがたどったルートを友人と訪ねる。本書は、その旅の紀行文であり、北東アジア100年の意味を思索するエッセイである。著者は、現地のガイドが運転するピカピカのトヨタ四輪駆動車で、停戦ライン(38度線)の北側に移動し、韓国側の建物を眺めながら、冷戦最後の障壁について考える。いまメディアは、ミサイルや指導者の表面的なところばかりをとりあげているが、著者は北朝鮮という国の内部でおきている変化をきちんとみている。(小林たかし)

★「拉致対論」蓮池透・太田昌国

 今年ほど本を読んだ一年はなかった。わけあって図書館通いすることになり、浴びるほど読んだ。だからオススメを一冊だけというのは本当に悩んだけれど、・・やっぱコレかな。北朝鮮は怖い!北朝鮮に制裁を!と心の底から思ってる人にこそ是非読んで欲しい。蓮池透さんは拉致被害者の蓮池薫さんの兄で、一時かなり有名になり、いい印象を持っていない人もいるかもしれませんが、そういう人にもおすすめです。(堀切さとみ)

★「ゴルギアス」プラトン

 中央公論社『世界の名著』シリーズ。ソクラテスとゴルギアスの間の論争が良く生きるとはどういうことか?どう生きるべきか?を読者に問いかける。混迷を深める現代社会にも現代的ゴルギアスは跋扈しているように感じる。この二人の論争から、いまの社会をどういきるか、そして現代的ゴルギアスをどう克服していくか、強く考えさせられた。(金塚荒男)

★「声なき人々の戦後史」鎌田慧

 鎌田慧のこの本は驚きの連続だった。私が『新日本文学』の編集部にいた60年代頃より彼をルポライターとして知っていたが、彼は十代のころからすでに労働争議を体験し、花田清輝と出会い、その影響を受け、至る所の労働現場に潜り込み、生活の資を稼ぎながらルポ活動を展開してきた。トヨタの『自動車絶望工場』はその代表作だが、社会の底辺からその矛盾を告発しつづけた。原発の危険性もずっと前から声を上げていた。著書も160冊余りにのぼる。これは鎌田の貴重な集大成の書であり、生きた「戦後史」である。(木下昌明)

★「プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争」田島奈都子

 テレビやネットのない時代、日本国民の戦意を高揚させ、戦時体制の強化に絶大な力を発揮したのは軍神に祀られた人物の銅像や、プロパガンダ・ポスターだった。敗戦前日の1945年8月14日、閣議決定で「大東亜戦争関係ポスター類焼却ノ件」でポスターの焼却を命じられるも、自宅の蔵に隠し続けた人物がいた。長野県阿智村村長の原弘平さんだ。本書には、原さんの蔵に保存されていたポスター135枚がフルカラーで掲載されている。1937年の日中戦争開戦から45年の敗戦までの約10年間に製作されたポスター。そのデザインは素晴らしく、時に美しくも見えてくるから、恐ろしい。(土屋トカチ)

★「涙のあとは乾く」キャサリン・ジェーン・フィッシャー

 2016年4月に、沖縄で元米海兵隊に暴行され残虐に殺された20歳の女性に対し、同年5月26日、怒りの集会が参議院会館でひらかれた時に、この本の著者であるジェーンさんが会場の参加者に向かって放った言葉に衝撃を受けた。ご本人から、教えていただいた本には赤裸々に当時の様子が描かれていた。被害者なのに、加害者あつかいにされ、それでも闘いつづけて突き止めた犯人。日本・・・この国はアメリカに守られているというのは建て前なのがよくわかる。日米地位協定は日本国憲法の上にあるからだ。この本は、さまざまな観点から。また、特に女性の方には是非読んでいただきたい1冊です。(みゆきえみ)

★「百まいのドレス」エレナー・エスティス

 ワンダは、ポーランド系移民の子ども。毎日同じすり切れた服、変な名前。だのに「百まいドレスを持ってる」という彼女を、クラスメイトはいじめる。が、いじめている中に「こんなこと、したくない」と思う女の子マデラインがいる。どうしたらいいか?と考える彼女。とても70年以上前に書かれたとは思えないし、子どもが生きていこうとする希望を感じます。翻訳家清水真砂子らの対談で、私はこの本を知ったが、日本で子どもが手にする本が、かわってきているそうだ。結末をハッピーエンドにする傾向や、クレーマー対策をした内容に変更する。複雑なこと、悲しいことを文字で知って考えるのは、子どもたちに不要なのだろうか。ぜひ『百まいのドレス』を、大人も。(黄金餅)

★「屍の街」大田洋子

 まさか、生きている間に核戦争の心配をするとは思わなかった。唯一の被爆国という日本には原爆文学というジャンルがあるが、今ごろになって私が出会った本は、大田洋子の「屍の街」である。大田は戦前から活動した作家で、故郷広島へ疎開した折に被爆した。その時大田は四〇歳過ぎ。大人の目でヒロシマの惨状を目にし、作家として、この現実を多くの人に伝えることを使命と思い、書き続けた。冷静な観察眼と視野の広い表現は、今読んでも胸に迫り、息をのむ。今だからこそ読み返し、核の非倫理性・非道徳性を考えたい。追記◎「屍の街」は、被爆直後の広島市中のことをリポートしたものである。その後GHQの検閲を書いた「山上」、ボロボロになった精神症状の治療のための入院生活を書いた「半人間」、戦後の広島を基町スラムに住みながらリポートした「夕凪と街と人と」も、あわせておススメしたい。現在は、日本図書センターの平和文庫「屍の街」(二〇一〇年)、講談社文芸文庫「屍の街・半人間」(二〇一四年)が手に取りやすい。(にしやままゆみ)

★「夜の谷を行く」桐野夏生

・末端の連合赤軍兵士がみたリンチ殺人事件。死んだ仲間を担いで夜の谷を数キロも歩いた記憶が痛烈だ。同時代を生きてきた私にとって身につまされる。もしかしたら自分も関係していたかも。内ゲバを含め、その後の「左翼運動」に大きな影を落とし、いまだに克服できていない問題。ことし塩見孝也さんが亡くなったが、当事者たちはいま70歳前後。作者が問うているのは「今」なのだ。(松原明)

・現在の日本において、僅かでも進歩的・左翼的な人物、勢力、思想へ向けられる――"パヨク"、"ブサヨ"などの呼称に象徴される――侮蔑と冷笑に満ちた攻撃的な視線は、世界の中でも突出したものと感じられる。その原因は樣々にあろうけれども、1970年代初頭に起きた連合赤軍による山岳ベース事件、あさま山荘事件が人心に大きな影を落としたことは確実であり、その真摯な検討及び反省が十分に実行されてきたとは見做しがたい。本篇がそれを果たしたとは言えずとも、改めてその必要を強く想い起こさせる一書となっている。(大西赤人)

★「沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート」チェ・ギュソク

 1980年代の韓国は軍部独裁の時代。労働者は劣悪な環境に置かれ、学校では「共産主義の脅威」を刷り込む反共教育が行われていた。軍隊が住民を虐殺した光州事件も起こったが、TVや新聞は「北のスパイが煽動」と報じ、実情は国民には知らされなかった。本書はそのような社会の中で民主化を求めて叫ぶ学生・市民の姿が描かれている。反共家庭で育った主人公のヨンホや彼の母の変化に心が打たれる。マンガであるのも読みやすい。私は20代であるが、学生や同世代の若者たちに是非読んでほしい1冊だ。(依 草太)

★「パパラギ」エーリッヒ・ショイルマン

 20世紀初頭にヨーロッパを旅した西サモアの酋長の手記である。彼は自分の見た「文明社会」を徹底的に批判した。まず服装、住宅や都市、機械、映画や新聞、時間、中でもお金についての批判は、すごい。「丸い金属と重たい紙、彼らが『お金』と呼んでいる、これが白人たちの本当の神さまだ」「お金を持っている人が、必ずしもたくさん働いているわけではない」。資本主義の矛盾をいとも簡単に見ぬいている。タイトルの「パパラギ」は、白人のこと。(佐々木有美)

★「子どもたちの階級闘争」ブレイディみかこ

 今年はオッカケのようにブレイディの本を読みました。この本には、イギリスのいまがいきいきと描かれ、「地べた」の保育所の子どもたち、保育士たち、そして親たちが躍動感に満ちた文体から浮かび上がります。そこからイギリスの労働者階級の変化を読み取ることができ、逆に日本のマスコミが海外に目を塞いでいることもわかります。鎖国の日本に、最新情報を伝える役割もこの本は果たしてくれました。(志真秀弘)

★「百万人の身世打鈴(シンセタリョン)」編集委員編

 日本の植民地支配をうけた朝鮮半島/帝国日本に生きた朝鮮の人々の暮らしや思いを知るのに最も良い方法は、当事者の話を聞くことだ。本書は、足掛け7年に渡って聴取した109名の身世打鈴(身の上話)を収録したものだ。植民地農村での暮らしから、皇民化、日本での生活、ハンセン病患者や「慰安婦」被害者、被爆者、強制連行被害者の語りなど様々な経験が章ごとに紹介され、彼・彼女らが辿ってきた歴史の全体像を把握できる。時代に翻弄されても生き抜いてきた人々だからこその思いや訴えが、一人一人の声を通して響いてくる。(佐藤灯)

★「市民政治の育て方 新潟が吹かせたデモクラシーの風」佐々木寛

 今年の衆院選において、保守王国の新潟でなぜ野党統一候補が勝てたのか。「新潟の奇跡」の立役者がそのメソッドを平易ながら本質を突く筆致で著した本。新潟の成功例を示すだけではなく、勝因を検証し、次につなげる汎用性ある道具に磨き上げる技法が語られる。観客民主主義脱却への確かな実践論だ。元気になれる1冊。(渡辺照子)

以上


Created by staff01. Last modified on 2017-11-24 15:18:53 Copyright: Default

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