〔週刊 本の発見〕『軟骨的抵抗者−演歌の祖・添田啞蟬坊を語る』 | |||||||
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第1〜第4木曜掲載・第18回(2017/8/17) フリージャズと演歌が出会った●『軟骨的抵抗者−演歌の祖・添田啞蟬坊を語る』(鎌田慧×土取利行 金曜日 1200円)/評者=志真秀弘 〽︎ラメチャンタラ この唄を聞いた記憶はわたしにある。ザ・ドリフターズのカバー、あるいはエノケンだったかもしれない。これは添田唖蝉坊(1872−1944)の息子添田知道(1902−1980)の作詞「東京節」(1919年)の一節。「ラメチャンタラ・・・」の部分は啞蟬坊のアイディアといわれる。少し年配の人なら、作者の名前は知らなくても、かれのうたはどこかで聞いたことがあるだろう。その唖蝉坊について鎌田慧と土取利行が語り合ったのが本書。対談をまとめたもので、コンパクトな冊子だが、内容は問題提起と発見に満ちている。巻頭の「歌声よ起これ」(鎌田慧)も「新しい歌、新しい言葉」で新しい運動をと呼びかけて、意欲的。各ページ下段には唖蝉坊の「ラッパ節」(1905)、「ああわからない」(1906)、「マックロ節」(1913)などをはじめ35の歌詞が紹介されている。たとえば「あゝわからない」の一節。 〽あゝわからないわからない 拳を振り上げるだけではなく、抑圧されて生きる人々の情感を唖蝉坊は見事に言葉にしている。かれのうたが、いまに響く所以でもあろう。それにしてもフリージャズから出発した土取は、どのように演歌と出会ったのか。 それは直接にはパートナーの桃山晴衣(1939−2008)の導きによる。桃山は中世の大衆歌謡「梁塵秘抄」を蘇らせたことで知られる音楽家であり、宮園節の名手でもある。彼女は、最晩年の添田知道に弟子入りして、唖蝉坊演歌の直接指導を受けた。桃山の遺品に荒畑寒村の色紙や堺利彦が牢獄で書いた詩の限定本などに加えて、知道が実際に歌っているテープがあった。桃山は「あなたはこれからやることがある」と土取に言い遺した。その言葉に押されるように、そこから土取の演歌継承が始まる。 土取のそれまでを簡単に振り返ると、1970年代半ばニューヨークで、ジョン・コルトレーン、アルバート・アイラー等フリージャズミュージシャンがジャズの解体へと進んだ影響を受けて彼は「音楽の解体に向かっていった」。その過程でピーター・ブルック(1925―)の国際劇団に加わり音楽活動を進めるうちに、音楽への認識も変化する。ブルックの9時間に及ぶ演劇『マハバーラタ』の音楽監督をつとめ、インドはじめ世界の音楽に惹かれ、さらに1982年パリで桃山と出会い彼女の三味線を聞き、そこから日本の古代からの歴史的音楽に関心を寄せる。 欧米近代が生んだ音楽への批判から出発して、世界の、そして日本の前近代の音楽、さらに唖蝉坊の演歌へと至る土取の歩みは極めて興味深い。音楽に止まらず、広く芸術にも関わる問題がそこにある。 本書を読む前、7月30日に両国のシアターχカイで「土取利行・邦楽番外地Vol.5 添田唖蝉坊・知道演歌 明治大正の女性を唄う」を、聞くことができた。ゲストの松田美緒の唄にある情感もよかったが、土取の冷静なうたいぶりと幸徳秋水等への正確な言及に感銘した。彼の音楽活動は本書と合わせて要注目です。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日(第1〜第4)に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美です。 Created by staff01. Last modified on 2017-08-17 13:38:54 Copyright: Default |