女性は命を守る性である〜フランス映画『夜明けの祈り』 | |||||||
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女性は命を守る性である〜フランス映画『夜明けの祈り』笠原眞弓(c)2015 MANDARIN CINEMA AEROPLAN FILM MARS FILMS FRANCE 2 CINEMA SCOPE PICTURES 美しい映画だった。それなのにこちらが毅然としていなければ、飲みこまれてしまいそうだった。戦争っていつでもそうだ。弱いところ弱いところに押し寄せてくる恐怖。なぜ女性ばかり怖い思いをするのか。ある知事経験者は、「慰安所の設置は、何も日本軍に限ったことではない」とうそぶき、「金をやるからもうなかったことにしろ」と迫る首相もいる。みんな男だ。 この映画は実話である。ポーランドの寒村で起きた修道院の事件である。そこの修道女たちを助けた、フランス赤十字軍の女性医師マドレーヌ・ポーリアック(物語中ではマチルド・ボリュー)の物語である。 第2次世界戦争の終結を迎えるポーランドでは、ナチスドイツとソ連軍の間で国民は翻弄されたうえ、戦後にソ連がつくった傀儡政府に人々はさらなる困窮に陥っていた。 一方、終戦処理のためフランス赤十字軍は、フランス軍の傷病兵に応急処置を施しては、本国に送還していた。そこで働いていたのがマチルドだった。 ある日、小雪の降る中を若い修道女が訪ねてくる。切羽詰った様子だが、言葉も通じない。ポーランド人の医者に行けと言うが、それを拒否。マチルドが手術を終えて窓の外を何気なく見ると件の修道女が祈り続けているではないか。ただ事ではないと彼女は赤十字のジープを出して修道院へ行く。すると、今まさに陣痛のさなかの若い女性が。 緊急手術で助けた赤子はすぐに叔母のところに預けるため連れ去られる。新生児の命の危険を解き、せめて一昼夜と頼んでも、「修道院の名誉」の前には無力だ。別の修道女がマチルダの前で倒れ、他にも妊婦がいることがわかり、健診と出産が続く。だが……。 信仰と妊娠という相容れない事態にすべての修道女が苦しむ中、「神にゆだねる」ことを選択する院長。年配の彼女すら、進行性の梅毒に犯されていると判明。それぞれの信仰が試される中、妊娠と言う大きな試練を受けて「今が一番信仰深い」と言う若い修道女がいる一方、人や自分の状況を客観視できず、床に子どもを生み落す人までいる。 マチルド自身もある時ソ連兵に暴行されそうになり、何とか逃れるものの、以後車はつかえなくなる。だがお産は待ってはくれない。 なぜ彼女らは、集団妊娠したのか。社会主義国のソ連によって宗教は否定されていたし、「女性」ということでさらに踏みにじられる。ある日ソ連軍が押しかけ、人によっては複数回凌辱された。あまりのことに、涙の一滴も出ない。怒りと言うより、情けない。 マチルドは、別の任地に赴くことになり、修道女マリアとある計画を実行する。そして、3か月後、祈りの声しか聞こえなかった修道院の様子は変わる。彼女らは「いのち」を選んだ。 フッと気が付くと、マチルダや修道女たちの祈りが広がった先に、国会前の光景が重なった。秘密保護法も安保法制も、この度の共謀罪法も、いつも女性たちがいた。声をあげる人もあげない人も、いつも粘り強く小さい子どもの手を引いた人たちがいた。子どもを守る、これから生まれる子の未来を守ろうとする人たちの想いがあった。命を守る決意がにじんでいた。いつも戦争は女性の、子どもの犠牲の上に立ってあるのだから。 監督:アンヌ・フォンテーヌ 115分 Created by staff01. Last modified on 2017-06-23 19:46:55 Copyright: Default |