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LNJ Logo 本の発見 : 『子どもたちの階級闘争―ブロークン・ブリテンの無料託児所から』
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 第7回(2017/5/15)

たどり着いたらいつもどしゃぶり

●『子どもたちの階級闘争―ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(ブレイディみかこ、みすず書房、2017年4月、2400円)

 こういうのをビートが効いた文章というのか。
 イギリス・ブライトンの託児所で働く子持ちで「アラフィフのばばあ」保育士の、これは現代の核心に迫る本だ。アイルランド生まれのトラック運転手と結婚した著者は日本人。

 ブライトンはロンドンの南、海峡に面したイギリス有数のリゾート地(人口28万)。
 その街にある「平均収入、失業率、疾病率が全国最悪水準1パーセントに該当する地区」の無料託児施設が話の舞台。著者は7年前にそこでボランティアとして2年半働く。その間に保育士資格を取って、私立保育園に移るが、そこが閉園になり、またここに戻ってくる。「第1部」はその「底辺託児所」の2015年3月から、16年1月のEU離脱を決めた国民投票をはさんで、昨年10月まで1年半の間の話。子どもたち一人一人の様子が手に取るように描かれ胸に迫る。ピクニックなどに行きたくても行けない子たちのために保育士たちで必死に企画したのに、目指す牧場についたら土砂降りで子どもたちも「雨ざらしのてるてる坊主」みたいになって・・。

 労働党ブレア政権からブラウン政権の時代は、新自由主義を掲げてはいたが、社会保障を厚くした時期でもある。ところが、2010年に保守党が政権を奪還すると、「生活保護を受けて海外旅行に行っている」「手当をもらうために子供を作っている」などのキャンペーンがはられ、緊縮政策が急速に進む。その結果、託児所利用者の多数は移民で、シングルマザーなど公的支援に頼るイギリス人たちが少数混じるという状態になる。ところがこうした人たちに対し、難癖をつけて、行政は生活保護給付や失業保険をいきなり止めてしまう。家賃の安い「貧しい北部」に引っ越すように仕向けさえする。

 そういえば、ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』。主人公ダニエルは出かけて行った職安で、シングルマザー・ケイティが「遅刻したから手当を払わない」と言われ悲鳴をあげているのに出くわす。彼女はロンドンのアパートから、行政に言われて北部のニューキャッスルに流れついた直後。

 この映画とこの本、イギリス社会の今を切り取って、切ないほど同じだった。
 グローバリゼーションの結果、労働者階級の「下」に働きたくても働けない「アンダークラス」が生まれ、その人たちは、声を上げる力がまだない。「親が子を手放したいと思う」階層が21世紀のイギリス資本主義の中枢に生まれ、飢えに苛まれている。

 もちろんジェレミー・コービンを支える若者もいて、アンダークラスが生きることを支えようと中産階級を脱して活動する人もいる。「ソリダリティ」はダサくなんかない、笑いを忘れるなと、著者は読むものを励ます。彼女はどこまでも下から、政治のままに動かされてしまう場所「底辺」で書いている。だからこの本から世界が見える。

 同じ作者の『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン発行)も反サッチャリズムの雄と呼ばれたパンクロックスターの評伝で、注目すべき本。わたしはいま読んでいる。【志真秀弘】


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