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息をするように権利を主張してもいい〜映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』

     笠原眞弓

      (c) 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.

 ニュージャージー州でのこと、激しい路上での拳銃の打ち合いと逮捕。ローレルは敏腕の警察官である。同僚との仲もいい。情報の取得にも積極的だ。だが、女性であるために出世にブレーキがかかっている。ある日、管轄から離れた地で自動車整備工の若い女性ステイシーと出会い、愛が育まれる。

 愛する人と家と犬と庭があればいいと語り合い、中古住宅を一緒にリフォームして住み始める。と同時に州が施行したばかりのドメスティク・パートナーシップ制度(異性間、同性間に係わらず結婚に準じた関係に、結婚したものと同等の権利を与える制度。地域によって全く同等ではないところもある)にも登録する。ステイシーは、新しい地で就職もできる。

 順風満帆に見えた二人の間に忍び込んだのが、ローレルの末期がん宣告。そこからがこの映画の主題、性的少数者(LGBT)の生存権である。

 ローンの残る今の家にステイシーが住み続けるために、彼女の遺族年金を受け取れるように郡政委員会に申請するも正式な夫婦とは認められず却下。そのことが新聞で紹介され、ゲイの活動家が動き出す。しかしローレルは、彼らが求める同性婚の法制化ではなく「平等な権利がほしいだけ」と。その権利の取得が難しくなる中で、「世界を変えるチャンスだ。君が残せる遺産だ」と活動家は説得し、保守的な職場である警察官の同僚も次第に理解を示し始め、大きなうねりとなっていく。

 この映画は実話で、2008年にドキュメンタリー『フリーヘルド』として世に出て、アカデミー賞を受賞した。それをさらに『フィアデフィア』のロン・ナイスワーナーが脚本化し、ピーター・ソレット監督がドラマにしたものだ。

 映画は非常にしっかりとした構成の上に成り立ち、人々の気持ちの変化が読み取れる。しかも二人の演技派女優ジュリアン・ムーア(『アリスのままで』など)とヘレン・ペイジ(『X-MEN:フューチャー&パスト』など)と、充実したわき役陣に支えられてLGBTに対する理解が深まっていくことが期待される。ヘレン・ペイジは、2014年に同性愛者であることを公表し、非常に幸せだと公言している。

 私はLGBTでカミングアウトしている人は、一人しか知らない。知り合ったときは男性で結婚もしていたが、だんだん女性になっていった。全く違和感なく受け入れられたが、同じ仲間の男性は、「気持ち悪い」の一言。その言葉の意味が分からなかったし、ひどく衝撃を受けた。その男性の性への偏見、差別を感じたし、相手の人間性を見ていないとも思った。

 話で聞く、あるいはこの映画の中でも見られるLGBTに対する偏見は、「気持ち悪い」という言葉で表されることが多いように思う。この「気持ち悪い」の正体を見極めたい。そうすれば彼、彼女らに対する偏見がぬぐえるかもしれない。誰にでも息をする権利があるようにLGBTにも生きる権利がある。LGBTは、本人の責任ではないのだから。

 「人権教育」なるものを文科省は推進しているようだ。その中には障がい者、外国人などに並んで、LGBTも入っている。愛媛県内のある指定校(中学)では、全校でこのLGBTへの理解を深める教育をしていると聞く。生徒たちは、素直に彼らの生きづらさを聞き、自分たちで出来ることは何かを考えているという。そういう教育が指定校になったからという特別なことでなく、普通に話し合い、受け入れられるように早くなってほしいと思う。

 この映画のタイトルのように、ほんの手のひらに乗るような勇気があれば、みんながずうっと住みやすくなるのだから。それはマイノリティーの努力でなく、マジョリティーの心にかかっているのだから。

http://handsoflove.jp/
監督:ピーター・ソレット 103分 新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町他全国順次ロードショー


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