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反権力の映像を武器に〜『抗いの記』西嶋真司監督

     林田英明

 記録作家、林えいだいさん(82)に密着して、その生き方を描いたドキュメンタリー映画『抗(あらが)いの記』が北九州市八幡東区の東田シネマで7月29〜31日、上映され、初監督作となったRKBディレクターの西嶋真司さん(58/写真)が舞台あいさつ。各回満席で、20回を数える同シネマの集客記録を更新する437人が鑑賞した。

 西嶋さんは映画終了後も希望者と歓談。映画への思いなどを身を乗り出すようにして語った。西嶋さんは記者として1981年、入社。ソウル特派員などを務めたが、自分の考えが出せない限界を感じて制作現場に転じ、在日、炭鉱、戦争を主なテーマにドキュメンタリーを撮ってきた。お笑いやバラエティーもテレビの娯楽要素として否定はしないが、「国や権力の被害者の立場に立った番組をつくりたい」と話す。えいだいさんとは30年前に知り合い、琴線に触れるものがあったのだろう。「生きざまそのものが絵になる人だ」とほれ込んで、取材はスムーズに進んだという。

 「反骨のジャーナリスト」という形容には違和感を抱く。「ジャーナリストは反骨が当たり前。えいだいさんは筋金入りのジャーナリスト」と語る。映画では、愛犬「武蔵」との“語らい”や娘との生活空間も映し出される。テレビはデジタルに対応せず、電源は抜かれたままだ。「そうした日常部分はテレビではカットされてしまう。映画にすることで、えいだいさんの素の部分が見えてくる」と長編の効果を挙げた。

 これまで西嶋さんがドキュメンタリーとして放送した中では、アジアへの旧日本軍の行動を「解放」ではなく「侵略」ととらえて強い抗議が寄せられたものもある。「国民も軍も兵士も『正義』で動く」と西嶋さんは振り返り、その結果のおびただしい死者に慄然とする。「正義」を振りかざす怖さを取材の過程で心に刻むのだ。ソウル特派員時代、「慰安婦」問題が発生し、日韓の考え方の違いに驚いた記憶もよみがえる。加害者は加害の歴史を忘れようとし、被害者は被害の歴史をいつまでも忘れない。

 「ドキュメンタリーは個性を出せる」と目を輝かせる西嶋さんは次回作もいくつか温めている。上層部からの圧力の有無を問う女性からの質問は、高市早苗総務相の偏向放送への電波停止発言も頭にあったのだろう。西嶋さんは上層部の圧力を否定しながらも「民放は権力に言われるままだ。電波停止の脅しに対してはっきりとノーと言ったか。もっと反発しなくてはいけない」と、えいだいさんのように反権力の姿勢を示した。

 メディアをコントロールしようと暴走する権力に「抗う」こと。映像という武器で西嶋さんは今日も闘う。(2016年8月1日「小倉タイムス」1989号より転載)

 ※追記=『抗いの記』は、権力に抗う林えいだいさんの姿をストレートに表現するため『抗い』と改題。9月16日にアジアフォーカス・福岡国際映画祭での特別上映時から使用する。10月28日の日本記者クラブ試写会を経て11月30日に法政大学で上映。来年1月、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで劇場公開される予定。問い合わせは「グループ現代」(03・3341・2863)へ。


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