木下昌明の映画批評 : 『みつばちの大地』華麗で過酷な蜜蜂の生きざま | |||||||
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●マークス・イムホーフ監督『みつばちの大地』 グローバル社会の“強制労働”華麗で過酷な蜜蜂の生きざま小さな蜜蜂を画面いっぱいにとらえたドキュメンタリー『みつばちの大地』に魅せられた。働き蜂たちに助けられ、巣箱の巣房から這い出してくる女王蜂の誕生をはじめ、蜂たちが空中を飛びかう数々のシーンなど、まるでカメラマンが1匹の蜂となって巣の中を這いずり、一緒に飛びながら撮っているように見えた。 巣箱のシーンではスタジオを設け、空を飛ぶシーンではミニヘリコプターや無人偵察機などを飛ばし……小型カメラによるハイスピードのマクロ撮影だ。見どころは、飛行しながらの交尾シーン。女王蜂は10匹ものオスと交尾して精子を蓄えるというからすごい。 スイス出身のマークス・イムホーフ監督は、祖父が缶詰工場を経営する傍ら、蜜蜂を飼育していた影響で幼いころから蜜蜂に親しんでいた。それがここ数年、世界中で蜜蜂が失踪したり、大量死したりというニュースを聞き、その謎を突き止めようと旅に出て撮ったのがこの映画だ。アメリカ、ドイツ、中国、オーストラリアなどの養蜂家や研究者を訪ね、蜜蜂と人間の深い関わりを明らかにしながら、同時にその生態の不思議な魅力をも引き出している。 例えば、1匹の蜂が“尻ふりダンス”で仲間に餌場を教えると、同じ場所に仲間も飛んでいく。その実験によって彼らは特有の知能の持主とわかる。 一方で、蜂といえども人間のグローバルな経済活動からは逃れられない過酷な現実をとらえている。その一つ、アメリカ全土の大農園を移動しながら、花々の受粉で収益を上げている養蜂家のケース。彼は蜂の羽音に「うーん、マネーの音だ」とうっとり。蜜蜂はトラックによる長距離輸送で疲弊し、死んでいく。そこで抗生物質の入った砂糖水を与える。薬漬けなのだ。 同じ昆虫でも、ファーブルが大地を這いまわって虫の生態を観察していた牧歌的時代では、もはやなくなっている。蜜蜂は、今やベルトコンベヤーの労働者と同じ営みを強いられている。監督はいう、「チャップリンの『モダン・タイムス』に少し似ている」と。 (『サンデー毎日』2014年5月11・18日号) *5月31日〜7月11日、東京・岩波ホールで公開。 [付記]〈ミツバチがいなくなれば人類もその4年後に死滅する〉とアインシュタインが言ったとか。NHKの「クローズアップ現代」でも昨年の秋「謎のミツバチの大量死」と題して、日本でも北海道などでミツバチが大量死していると明らかにした。その原因は何か? 因果関係は今一つ明らかではないが、「ネオニコチノイド系農薬」にあるらしい。この農薬はよく水稲の害虫予防に使われている。害虫を寄せつけないように、この農薬でコーティングした種子も使われいると。悪名高いモンサントの遺伝子組み換え作物を思い出すが、ミツバチの問題といえど人間の生存に深くかかわっている。 Created by staff01. Last modified on 2014-05-19 10:11:05 Copyright: Default |