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LNJ Logo 河原井・根津の不起立処分取り消し訴訟 地裁判決について(根津公子)
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3月24日に河原井・根津の2007年不起立処分取り消し訴訟(地裁)の判決がありました。許しがたい判決です。以下に報告を記します。(根津公子・写真)

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3月24日 河原井・根津「君が代」不起立処分取り消し訴訟
東京地裁は根津・停職6ヶ月処分を取り消さず

「主文 1.東京都教育委員会が平成19年3月30日付けで原告河原井に対してした懲戒処分を取り消す。2.原告らのその余の請求(*1)をいずれも棄却する。3.訴訟費用は、(略)負担とする」と、古久保裁判長は顔を上げずに、ぼそぼそとした声で読み上げ、すぐさま退廷しました。

 (*1)根津の懲戒処分取り消し及び、両人の慰謝料請求

2007年卒業式での「君が代」不起立処分(河原井:八王子東特別支援学校 停職3ヶ月、根津;町田市立鶴川二中 停職6ヶ月)取り消し訴訟 東京地裁民事第19部古久保裁判長)は、これまでの最高裁判決と同様、河原井さんの停職3ヶ月については取り消し、根津については、停職6ヶ月処分も違法とはしませんでした。

 2012年1月16日の最高裁判決が示した3つの判断基準を機械的に使ってのことでした。ア.「職務命令は憲法19条(思想及び良心の自由)に違反しない」イ.「戒告を超えてより重い処分を選択することについては、慎重な考慮が必要」ウ.「過去の処分歴等、学校の規律と秩序を害する具体的事情が処分の不利益よりも重い場合は重い処分も可」

 河原井さんについては、「過去の懲戒処分の対象は、いずれも不起立行為であって積極的に式典の進行を妨害する内容の非違行為は含まれておらず、いまだ過去3年度の4回の卒業式等に係るものにとどまり、本件河原井不起立行為の前後における態度において特に処分の加重を根拠づけるべき事情もうかがわれない(*2)」から「停職処分を選択した都教委の判断は、処分の選択が重きに失する…、停職処分は裁量権の範囲を逸脱する」としました。上 記判断基準の「イ」を適用したものです。

 一方、根津については、今回も「ウ」を使って処分を妥当としました。

「積極的に式典や研修の進行を妨害する行為に係るものである上、国旗や国歌に係る対応につき校長を批判する内容の文書を生徒に配布する等して2回の文書訓告を受けているなど、過去の処分歴に係る一連の非違行為の内容や頻度等に鑑みると、学校の規律や秩序保 持の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から、停職処分を選択する…具体的事情があった。…本件根津停職処分は、前件の停職処分に比して期間が長いものになっているが、この点は、懲戒権者の裁量権の範囲内」というのです。

 私の場合、「君が代」不起立1回目が減給6ヶ月、2回目が停職1ヶ月、3回目が停職3ヶ月処分ですが、そのすべての最高裁判決が「過去の処分歴」を理由に上記判断基準「ウ」を使い、処分を妥当としました。そして今回、停職6ヶ月についても、停職3ヶ月と停職6ヶ月の不利益の大きさの違いには一言も触れずに、「処分の不利益」よりも「学校の規律や秩序を害した」ことの方が重いとしたのです。

「過去の処分歴」に時効はなく、また、何度重い処分をしても適法とするということです。これで行けば、08年09年の停職6ヶ月処分も適法とするでしょう。退職金が支給されない雇用が当たり前の世情を利用して、今後は、分限免職だって、退職金の支給があるから適法ともしかねないでしょう。

「過去の処分歴」の中には、懲戒処分には至らない文書訓告=注意も含まれています。

また、最高裁判決が「積極的妨害」とした「日の丸」を降ろした処分(94年)、再発防止研修で質問をした処分(05年)はそれぞれ減給1ヶ月処分でしたが、これらの「処分歴」が、重い処分を適法とする根拠として何度も効力を発揮するとは、どう考えても納得がいきません。ことは、同じ不起立であるのに、です。

以上、結論が先にありき、具体的な理由づけはできず、抽象的に「ウ」を並べただけの判決です。

なお、河原井さんについては、処分は取り消しましたが、慰謝料は認めませんでした。2006年停職1ヶ月処分取り消しの際には、損害賠償(慰謝料)について高裁差し戻しとし、高裁は慰謝料30万円の支払いを都に命じたのに、本判決はそれを踏襲することはあ りませんでした。最高裁判決にあえて悪質度を増して挑戦した判決といえます。

(*2)2012・1・16最高裁判決が「過去の処分歴」と並べて「ウ」の要件とした「不起立前後の態度」について判断したのは、今回が初めてのこと。河原井さんについては、このような使い方をした一方で、根津についてはこの点を無視した。停職3ヶ月処分から停職6ヶ月処分までの間に、根津に処分や注意等の事実がな かったので、意図的に無視したのであろう。

■判決を受けて心配すること

 古久保裁判長のヒラメさ加減を見せつけたのみならず、安倍政権に迎合しようとした判決だったのではないかと思う。そしてまた、都教委が「ウ」を使うことに自信を持ち、累積加重処分に弾みをつけるであろうことが、最も心配だ。

 昨年の卒業式・入学式ともに都教委は田中聡史さんに減給1ヶ月処分を出し、その理由を「最高裁判決を踏まえて判断した。戒告では秩序の維持が困難」(朝日新聞)と言った。これからは、河原井判決に使った「不起立前後の態度」を悪用することも考えるのではないか、とも思う。

 1・16最高裁判決は、450名に及ぶ不起立と大勢の支援があって「イ」の地平を切り開くことができたことは私もそのとおりだと思う。しかし、「イ」ばかりに目が行き、「ウ」を重く受け止めない風潮が起きた。報道も「減給以上の処分取り消し」「一定の勝利」であった。

 そうした中、最判から1年後の昨年、田中さんに対し、都教委は「ウ」を使ったのである。この現実をしっかり見たい。東京はもちろん、全国から田中さん支援を起こし、田中さんへの累積加重処分をやめるよう都教委に迫ることが、私たちに課せられた緊急かつ長期の課題だと思う。

 「ウ」を今のところは、大勢の不起立者に対して使うことはないであろう。最高裁判決で根津に使ったことにより、今、田中さんに対して使えたのだ。良心的な多くの教員を威嚇するには一人に適用することで十分なのだと思う。しかし、一人に累積加重処分をすることが定着したとき、この対象者はいくらでも広げることができる。最高裁判決「ウ」は、教育行政に処分のフリーハンドを与えたのだ。


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